世にも不幸なレミリア令嬢は失踪しました

ひよこ麺

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第五章:真実の断片と

105.海の側近と王太子と不幸令嬢

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側近はしばらく沈黙した。その答えを話すことは長年仕えているクリストファーを完全に見限る行為であると分かっていたからだ。

それでも、もし今クリストファーの居場所を話せば自身の身は守られる可能性もある。忠義と保身を天秤にかける。そんな彼を何の感情も見て取れないいつもの眠たそうな瞳がジーッと見つめていた。

側近はこの瞳がとても苦手だった。いや、クリストファーについて人間は大半が彼の出自とこの目を嫌った。何か底知れないものを見ているようなそれが、しかし、それでいて魂がないような、何かが欠けているような気色の悪い感じがしていた。

「ちなみに、もし隠し立てをすればアトラス国の王太子への反逆とみなしてそれ相応の罰は受けてもらう。そして、もし君が弟の居場所を話したならば君の家族には累が及ばないように約束しよう。しかし君の罪はそれなりに贖ってもらうが当然反逆罪よりは軽くなる」

淡々とした声色でそう語られた時、側近は気づいた。すでにどうしても手遅れなのだと。

クリストファーを止められずここまで来た時点で、もう取り返しはついていないのだ。そしてこれ以上罪を重ねることは自身のみならず自身の一族にまでその罪が及ぶことを告げられた。

(家族まで巻き込んではいけない。そうだ……)

側近は伯爵家の次男だった。兄と妹がいる。嫡男で伯爵家を継ぐ兄にも、いずれ他家へ嫁ぐ妹へも迷惑をかける訳にはいかない。勿論自身をここまで育ててくれた両親にもだ。彼は愛されて育った人間だった。だから、ギリギリで引き返すことを選択できた。

「わかりました、お話しいたします」

もし彼が忠義だけを頼りに生きている人なら、この要求に従うことはなかっただろう。

クレメントは知っていた。この男は家族に恵まれている存在だと。だから揺さぶりのかけ方は家族にまつわるものにしたのだ。

(そう、家族に愛されずそれだけを支えにしている人間だったならこの取引は成立しなかった。彼が恵まれている人間で助かった)

クレメントがもし彼と同じ揺さぶるをかけられても自身は家族を愛していないので、きっと揺れ動くことはない。破滅すらも恐れないだおう。だからこそそう言う人間の恐ろしさは誰よりも理解していたから。

「では、教えてほしい。いや。そのまま連れて行ってくれてもかまわない。愚かな弟に久々会うのもいいだろう」

そう発したクレメントの声は自身の想像よりとても冷たいものだった。
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