初夜に「お前を愛するつもりはない」と言われて冷遇されるはずが、狂愛されています。タスケテ

ひよこ麺

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第27話 歪んだ帝国と玉座の闇(皇后視点)

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「大公夫人が何者かに襲われたそうだな」

「はい、皇后陛下。しかもその犯人が隣国に嫁いだ第2皇子殿下の手の者の可能性が高いとの報告もございました」

側付きの報告を聞きながら、私はゆっくり瞳を閉じた。

第2皇子、あの子爵令息の息子。ずっと憎み虐待を加えてきた存在。

その存在を思い出したことで苦々しい気持ちになりながらも、使用人が淹れた華やかな紅茶の香りを楽しみ、お気に入り桃のマカロンを口に含む。

ほろほろと口の中で溶けていく砂糖の甘味と果実の味に嫌な存在が消えていくような気がした。私の唯一の楽しみがこのお気に入りのお菓子とお茶を楽しむティータイムなのを知る者は少ない。

帝国の皇后ではあるが、私は流行には興味がなかった。

装飾品もドレスも多くは実家から持ってきた母や、祖母から受け継いだものであり、皇后になってからも血税でそれらを買い漁ることはないため、唯一の娯楽である。

皇帝陛下、あの人が私になにかを贈ったことは一度もない。

あの子爵令息には沢山の贈り物をしていたというのに、結婚指輪もウェディングドレスも前皇后様からの贈り物で、あの人からは何ひとつ贈られたことがなかった。

そもそも、あの人の失態で私は皇后になることになった。子爵令息に現を抜かして、自身の立場を忘れていたあの人が、このままでは高位貴族の反対で皇位を継げなくなることを危惧した前皇帝陛下が我が家に打診したのだった。

高位貴族、ましてやこの国で大公家とならぶ唯一の公爵家に生まれたのだから、政略結婚をする覚悟はしていた。

しかし、それがよりにもよってあの人とだと知った時はうら若き少年だった私は絶望した。容姿にも教養にも自信があったのにそれを見ないだろう人と結婚することは絶望でしかなかった。

結婚してすぐは、泣いて泣いてずっと泣いた。泣き腫れる目を隠すことが難しいくらいになっていたが、人前では凛とした姿でいなければいけなかった。

その一番つらい時期に、私を気遣ってくれたのが大公夫人、その時はまだ伯爵令息のスタシスだった。

「皇太子妃様、お辛い胸中お察しいたします。私達はみな貴方様の味方です」

その言葉にあの人ではなく私がいるから、帝国を支えるという意味合いを感じとった。スタシスの言葉により私は、皇后として帝国を守る覚悟をした。

私は皇帝陛下ではなく、

そう何度も自分に言い聞かせる。しかし、そう言い聞かせても、皇帝陛下とわざと見せつけるように逢瀬を重ねる子爵令息への苛立ちは募っていった。

皇帝陛下は何度か、子爵令息を側妃にと第1皇子を身ごもっている一番大変な時期に空気も読まずに願ったが、絶対に許可を出さなかった。

皇帝陛下を愛しているからではなく、私の子より子爵令息の子に皇位継承を優先するようなバカげたことが起きないように、子爵令息を側妃はおろか愛妾にもさせるつもりはなかった。

そうしてやっと自分の立場を弁えたのか、子爵令息がはじめて私に謝罪し懇願しに来たのはちょうどスタシスが妊娠したのと同じ頃だった。

以前のあの見下した笑みは鳴りを潜め代わりにひどく顔色が悪い彼も腹もスタシスと同じくらい大きくなっていた。必死に皇帝陛下の愛妾にしてほしい、それが無理でも腹の中にいる皇帝陛下の子だけは皇族として扱ってほしいと願った。

私は、それを突っぱねた。

今までの恨みは思っていたより深かったのだ。私の拒絶の言葉に、食い下がる彼をお付きに追い出させてからは彼が死ぬまで姿を見ることはなかった。

産後の肥立ちが悪かったそうで、子爵令息は子を産んですぐに亡くなり、後には子だけが残された。

子爵令息が好き勝手したせいで子爵家は没落し、行先のないその子を皇族にしてほしいと懇願したのは皇帝陛下だった。

私は、引き取るにあたりいくつかの契約をした。

『皇族に一時的に迎え入れるが、成人したら海外に嫁がせ、皇族から除籍すること』『公の場では皇后である私を必ず尊重すること』『教育はこちらで行うので基本的に口出しはしないこと』の3つを書面に残す契約をした。

皇帝陛下はその約束を守り、さらに心を入れ替えたように公務にもいそしむようになった。その変化は私が生んだものではなく子爵令息の息子が成し遂げたことだった。

皇帝陛下を愛してはいない。……けれど、私だって誰かに深く愛し愛されたかった。

心の中に巣食っていたもやもやが、第2皇子への嫌がらせに変わったことが褒められたことでないことは分かっている。しかし、それを反省するつもりもない。

その結果が、『ずっと虐待された可哀そうな第2皇子と嫉妬に狂った皇后』という話が貴族内に伝播することになってしまっていてもだ。

「……せっかくのお茶とお菓子がまずくなる話だな」

「申し訳ございません」

「よい。私が聞いたことだ、そういえば、皇帝陛下は第2皇子が嫁いだ時どれだけの持参の物を持たせたのだ?」

私には何も与えない、皇帝陛下があの子爵令息に何を与えたのか気になった。すると、側付きが複雑な顔で答えた。

「なにも、すべては隣国から手配されてきました……」

「なにも?ドレスも、宝石も、なにひとつ?」

「はい、なにひとつ……」

通常、帝国から嫁ぐ場合、持参金や色々な物を持たせるのが普通だ。ましてや愛息子であればなおさらに。しかし、それを皇帝陛下はひとつも準備しなかった、その話を聞いた瞬間、強烈な違和感が襲ってきたのだ。

私のようにどうでもいいと思っている相手には、あの男は何も贈らない。しかし、可愛い息子に何も贈らない方がおかしい。

そこまで考えて、皇帝陛下がいままで私の虐待を見過ごしていたことについてもいまさらながら違和感を感じたのだ。皇帝陛下は激務だが、それでも食事にあの子がずっと来なければ心配になるはずで、それを側近らに調べさせることだって容易なはずだ。

それをせずにずっと放置をしていた。そして、あの日、あの子が訴えるまで知らなかったふりをしていたとしたら……。急に背筋が冷たくなった。

(……なぜそんなことを?私の気をそらすため?しかしどうしてそんな必要があった?)

私は、ある可能性に気づいてしまった。

「至急、影に調べてほしいことがある」
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