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033.勇者
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「おらぁ! 一丁上がりだぁ!」
勇者の剣を振るい、イノシシに似た魔獣を仕留める。
勇者に代々受け継がれているこの魔剣は、魔力を通すことで、魔法のように中距離からも攻撃ができた。
はじめて持ったときから手に馴染み、今では手放せなくなっている。
「おら、おらぁ!」
手入れが杜撰でも、スパスパと面白いほど良く切れる。
おれはエルフの女の子を助けられなかった悲しみを剣に込めた。
大森林という巨大な森を探索するには、おれたちだけでは無理だったんだ。
今頃オーガの巨根で、あんなことやこんなことをされてるかと思うと、股間がいきり立……いや、悔し涙が溢れる。間違ってもカウパーじゃない。
「やり過ぎて、魔力が枯渇しなければいいのですけど」
「誰がヤリ過ぎだ!?」
むしろハーレムのクセにエロ要素が皆無なんだが!?
アラビカもおっぱいを隠すようにきっちり甲冑着やがって! 何が、姫騎士だ! 姫騎士なら「くっ殺」を見せろよぉ!
ゴブリンに汚されるどころか、一刀両断しやがって!
コボルトの村じゃあ、子どもにも容赦なかっただろ! 相手が魔族でも、犬に愛着のあるおれは可哀想になったぞ!
「姫騎士ならスライムや触手にぬるぬるされろよぉ!」
「どういう意味ですの!?」
やべっ、心の声が出ちまった。
「タケル、もう十分」
「掻っ捌いて食べるミャ」
「そうだな」
気落ちするのも腹が減ってるせいかも。
おれと獣人のリンチェが魔獣を食べようとするのを見て、アラビカが顔を顰める。
「よくもまぁ、そんな下賎なものが食べられますわね」
「アラビカは口に合わないだけだろ」
魔族や獣人は、普通に魔獣を食べる。
アラビカには止められたけど、おれも食べてみるとおいしかった。
食わず嫌い、よくない。
血抜きしたほうがおいしいんだろうけど、案外生臭さとかも気にならないもんだ。
おれとリンチェが刺身や焼き肉を楽しむ横で、アラビカとコナはもそもそと動物の干し肉を食す。
「このあとはどうすんだ?」
「一度国へ報告に戻ります。ドラゴンを一頭倒したのですもの、大きな成果ですわ」
「もう一頭は取り逃がしたけどな。まぁそっちも死んでるか」
逃がしたものの虫の息だった。あれでは逃げた先の魔獣にも負けるだろ。
「勇者の剣、強い」
「おう、はじめから最強の武器が使えるなんて、チートだよな!」
コナの言葉に、大きく頷く。
ハーレムメンバーについては文句を言いたいが、武器や環境については悪くなかった。
国では勇者様々だし、立ち寄った他国でも賓客扱いだ。
悪い気分じゃない。
「しかしミャー、あのドラゴンが魔王だったミャ?」
「まぁ手応えはなかったよな」
相手が弱かったんじゃない、おれが強すぎただけだ……っていう可能性もあるにはあるが。
聞き取れる獣人語の単語とおれの返答から、アラビカはリンチェが話した内容を推測して口を開く。このあたりに頭の良さが現れてるよな。
「ラッテ神王国の神子の託宣も、万能ではありませんからね」
「大まかな方角しかわからないんだもんなぁ」
曰く、大陸西南に魔王現る。
託宣の全文はもっとこまごましていて、おれたちはそれを元に魔王が現れる場所を絞ってるんだが。
「大森林には手を出したくないミャー」
ピクリとアラビカの眉が動いたに気付いて、おれはリンチェの言葉を通訳した。大森林という単語に反応したらしい。
「あら、聞き捨てならない発言ですわね?」
「大森林は魔族の巣窟ミャ。ミャーたちだけじゃ、到底対応できないミャ」
「おれたちだけじゃ手に余るってさ」
「そこは軍を動かしますわ。周辺国にも働いてもらいますわよ」
魔王は人間にとっての脅威だ。
魔族や魔獣を煽って人間を襲わせているのは、他ならぬ魔王だからな。
倒さないとこっちが滅ぼされる。
「けれど国家間での調整には、まだしばらく時間が必要ですわね。それまでわたくしたちは、脅威となり得る存在を、倒していくしかありませんわ」
「人使い、荒い」
「わかってますわよ。だからこそ、一度国に戻って休もうと言っているのですわ」
ふかふかのベッドで寝たい気持ちは、みんな一緒だった。
おれはベッドの中も一緒でいいんだけどなぁ。
ベッドの上でハーレムを作っている自分を妄想していると、リンチェが物言いたげな目で見てくる。
「何だよ、妄想は自由だろ!」
「ミャーが出てくる妄想は自由じゃないミャ。タケル、大森林はダメミャ」
「ダメって?」
「アラビカの考えは危険ミャ。気を付けたほうがいいミャ」
「気を付けろって言われてもなぁ」
アラビカの考えが間違っているとは思えない。
どれだけおれが強くても、少人数では限界がある。
「リンチェは大森林が怖いのか?」
「違うミャ。タケルはもっと自分の頭で考えたほうがいいミャ」
「何を二人でこそこそしていますの?」
「ヤキモチか?」
「誰が誰にですか!?」
「魔獣うめーって言ってただけだよ。アラビカも食わないか?」
「何度すすめられても食べませんわ!」
アラビカとリンチェの意見は対立しそうなので誤魔化しておく。
仲間のために気を回せるおれって素敵だよな。なぁ? とリンチェを見ると、リンチェは肉をがっついていた。
これだから色気のない女は……!
勇者の剣を振るい、イノシシに似た魔獣を仕留める。
勇者に代々受け継がれているこの魔剣は、魔力を通すことで、魔法のように中距離からも攻撃ができた。
はじめて持ったときから手に馴染み、今では手放せなくなっている。
「おら、おらぁ!」
手入れが杜撰でも、スパスパと面白いほど良く切れる。
おれはエルフの女の子を助けられなかった悲しみを剣に込めた。
大森林という巨大な森を探索するには、おれたちだけでは無理だったんだ。
今頃オーガの巨根で、あんなことやこんなことをされてるかと思うと、股間がいきり立……いや、悔し涙が溢れる。間違ってもカウパーじゃない。
「やり過ぎて、魔力が枯渇しなければいいのですけど」
「誰がヤリ過ぎだ!?」
むしろハーレムのクセにエロ要素が皆無なんだが!?
アラビカもおっぱいを隠すようにきっちり甲冑着やがって! 何が、姫騎士だ! 姫騎士なら「くっ殺」を見せろよぉ!
ゴブリンに汚されるどころか、一刀両断しやがって!
コボルトの村じゃあ、子どもにも容赦なかっただろ! 相手が魔族でも、犬に愛着のあるおれは可哀想になったぞ!
「姫騎士ならスライムや触手にぬるぬるされろよぉ!」
「どういう意味ですの!?」
やべっ、心の声が出ちまった。
「タケル、もう十分」
「掻っ捌いて食べるミャ」
「そうだな」
気落ちするのも腹が減ってるせいかも。
おれと獣人のリンチェが魔獣を食べようとするのを見て、アラビカが顔を顰める。
「よくもまぁ、そんな下賎なものが食べられますわね」
「アラビカは口に合わないだけだろ」
魔族や獣人は、普通に魔獣を食べる。
アラビカには止められたけど、おれも食べてみるとおいしかった。
食わず嫌い、よくない。
血抜きしたほうがおいしいんだろうけど、案外生臭さとかも気にならないもんだ。
おれとリンチェが刺身や焼き肉を楽しむ横で、アラビカとコナはもそもそと動物の干し肉を食す。
「このあとはどうすんだ?」
「一度国へ報告に戻ります。ドラゴンを一頭倒したのですもの、大きな成果ですわ」
「もう一頭は取り逃がしたけどな。まぁそっちも死んでるか」
逃がしたものの虫の息だった。あれでは逃げた先の魔獣にも負けるだろ。
「勇者の剣、強い」
「おう、はじめから最強の武器が使えるなんて、チートだよな!」
コナの言葉に、大きく頷く。
ハーレムメンバーについては文句を言いたいが、武器や環境については悪くなかった。
国では勇者様々だし、立ち寄った他国でも賓客扱いだ。
悪い気分じゃない。
「しかしミャー、あのドラゴンが魔王だったミャ?」
「まぁ手応えはなかったよな」
相手が弱かったんじゃない、おれが強すぎただけだ……っていう可能性もあるにはあるが。
聞き取れる獣人語の単語とおれの返答から、アラビカはリンチェが話した内容を推測して口を開く。このあたりに頭の良さが現れてるよな。
「ラッテ神王国の神子の託宣も、万能ではありませんからね」
「大まかな方角しかわからないんだもんなぁ」
曰く、大陸西南に魔王現る。
託宣の全文はもっとこまごましていて、おれたちはそれを元に魔王が現れる場所を絞ってるんだが。
「大森林には手を出したくないミャー」
ピクリとアラビカの眉が動いたに気付いて、おれはリンチェの言葉を通訳した。大森林という単語に反応したらしい。
「あら、聞き捨てならない発言ですわね?」
「大森林は魔族の巣窟ミャ。ミャーたちだけじゃ、到底対応できないミャ」
「おれたちだけじゃ手に余るってさ」
「そこは軍を動かしますわ。周辺国にも働いてもらいますわよ」
魔王は人間にとっての脅威だ。
魔族や魔獣を煽って人間を襲わせているのは、他ならぬ魔王だからな。
倒さないとこっちが滅ぼされる。
「けれど国家間での調整には、まだしばらく時間が必要ですわね。それまでわたくしたちは、脅威となり得る存在を、倒していくしかありませんわ」
「人使い、荒い」
「わかってますわよ。だからこそ、一度国に戻って休もうと言っているのですわ」
ふかふかのベッドで寝たい気持ちは、みんな一緒だった。
おれはベッドの中も一緒でいいんだけどなぁ。
ベッドの上でハーレムを作っている自分を妄想していると、リンチェが物言いたげな目で見てくる。
「何だよ、妄想は自由だろ!」
「ミャーが出てくる妄想は自由じゃないミャ。タケル、大森林はダメミャ」
「ダメって?」
「アラビカの考えは危険ミャ。気を付けたほうがいいミャ」
「気を付けろって言われてもなぁ」
アラビカの考えが間違っているとは思えない。
どれだけおれが強くても、少人数では限界がある。
「リンチェは大森林が怖いのか?」
「違うミャ。タケルはもっと自分の頭で考えたほうがいいミャ」
「何を二人でこそこそしていますの?」
「ヤキモチか?」
「誰が誰にですか!?」
「魔獣うめーって言ってただけだよ。アラビカも食わないか?」
「何度すすめられても食べませんわ!」
アラビカとリンチェの意見は対立しそうなので誤魔化しておく。
仲間のために気を回せるおれって素敵だよな。なぁ? とリンチェを見ると、リンチェは肉をがっついていた。
これだから色気のない女は……!
応援ありがとうございます!
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