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「順調に関係は築けているようだな」
「父上はテディのことも知っておいでだったのですか」

 僕が自分の運命を話してから、父上はよく部屋を訪れるようになった。
 父上の都合上、夜であることが多いけど、心配してくれているんだと思う。
 今日はテディのことがあったから、来るだろうな、という予感はしていた。
 しかし考えてみれば、父上が僕とヴィヴィアンが訪ねる店を調べていないはずがない。
 僕の話に登場した攻略対象が店にいることも、事前に知っていたんだろう。

「お前は知らなかったのか?」
「店でテディのお父上に会って、気付きました」
「もう少し情報を集めることを覚えろ」
「すみません、まさか自分に関係するとは思わなくて……」
「お前の命に関わるかもしれないのだぞ」

 いつになく低い声音で言われ、顎を引いて背筋を伸ばす。
 声量は普段と変わらないが、向けられる圧が増した。
 怒られている。
 ……のに、嬉しいと感じる自分がいた。
 間違っても、僕はMじゃない。
 きっとテディを迎えに来たグラムさんを見て、あてられたんだと思う。
 以前より一緒に過ごす時間は増えているものの、父上が忙しいことに変わりはない。
 グラムさんの手をぎゅっと握るテディを見て、僕も甘えたくなってしまったんだ。
 だから決して、Mじゃない。
 父上が僕を大事にしてくれているのが実感できて、嬉しいだけだ。

「聞いているのか? お前はもっと自分のことを考えなさい」
「以後、気を付けます。父上、一ついいですか?」
「何だ」
「隣に行ってもいいですか?」

 いつも父上と対面して座っているソファは、大人がゆったりと二人は座れる大きさで、父上が真ん中を陣取っても左右にまだ空きがあった。

「私は怒っているのだが?」
「ダメですか?」
「はぁ……怒っている私の傍に来たがるのは、お前ぐらいだ」

 そっと父上が体を横に移動させるのを見て、僕も腰を上げる。
 思い切って密着するように座ると、腕を肩に回され、抱き込まれた。

「お前は大人のように見えて、子どもだな」
「僕は正真正銘、まだ子どもですが」
「そうだ。だが忘れてしまいそうになる。案外、子ども同士のほうが、わかり合えるのかもしれないな」

 どういうことだろうと顔を上げれば、父上の指に頬を撫でられた。

「社交界が最たる例だが、大人はお前と距離を置きたがる。邪な考えを持つ者は別として、お前のことがよくわからないからだ。気味が悪いと言う者もいる」

 綺麗な顔で、何を考えているかわからない。
 そういった僕の評判が、父上の耳には届いているらしい。

「表情が変わらないせいだろうが、一転して、子ども相手だと身分に関係なく友宜を結べている。殿下から爵位を得たばかりの男爵の子まで、だ」

 普通ならあり得ない、と父上は続ける。

「高等学院に入学すれば、ある程度は身分の垣根を越えられる。だがエリック以外はデビュタント前だろう? テディに至っては、まだ平民としての意識が強いはずだ。行きの馬車では震えていたのが、帰る頃には、すっかり懐いていたと言うではないか」
「テディは元々聡い子ですから」

 何より商売人気質なところがある。
 彼としては僕と友好的なほうが、利があると考えただけかもしれない。

「彼に限った話ではない。警戒心の強い殿下とも仲が良いだろうが。案外、大人のほうがお前の真価を見極められないのではないか、という話だ」
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