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僕の願い
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薄暗い中を青い光が、美しいクラゲの浮遊を浮かび上がらせている。僕はその幻想的な光景をぼんやりと見つめていた。前回来た時も長く留まった、手で包めるほどの大きさの、可愛いクラゲの群舞を見せる水槽の前で足を停めると、知らず知らず微笑んでいたみたいだ。
側に顔を寄せて来た茂人さんが囁いた。
「これがお気に入り?楓君らしいね、この可愛いらしいクラゲが好きとか。俺には夢中になって見てる楓君の方が可愛いよ。」
そう、ドキリとする様な事を耳元で囁いた茂人さんは、僕の頭をそっと撫で下ろした。自意識過剰になっているのは自覚があったけれど、茂人さんに触れられた場所がまるで印を付けられたように感じて僕は戸惑った。
そんな僕を置き去りに、茂人さんは大きなクラゲがゆっくりと浮遊する正面の巨大水槽へ足を向けた。釣られる様に茂人さんの隣に立った僕は、ぼんやりと浮かび上がる水槽に照らされた茂人さんを盗み見た。
あの日もこうやって、もう二度と会えない茂人さんを目に焼き付けようと盗み見たんだ。なのに茂人さんが僕を探してくれて、こうして同じ様な時間を一緒に過ごしている。何だか不思議だ。そんな事を考えていると、茂人さんが話し始めた。
「やっぱり、俺たち出会う運命だったんじゃないかな。だって、楓君は俺をネットの海から探し出してくれただろ?そして一度切れた縁は凄く近くで繋がっていた。それって元々繋がる縁だったって言われても信じられるよ。随分都合が良い考えかもしれないけどね。
…でも本当に二度と会えないって思ってたから、そうとしか俺には感じられないんだ。」
そう言って僕を見下ろした。ドキドキと心臓がうるさい僕の顔を見つめた茂人さんは、顔を顰めると周囲を見回した。それから急に僕の手を引っ張って歩き始めると、薄暗いクラゲ展示ホールの奥まった場所へ僕を引っ張り込むと、ぎゅっと腕の中に抱きよせた。
確かに平日のこんな時間に元々人は多く無かったし、イベント時間なのか波が引く様に人が居なくなったのには気づいていた。それでも抱き込まれてびっくりしてしまった。
思わず顔をあげて茂人さんに問いかけようとした時、茂人さんの顔が近づいて来て、あっという間に僕の唇に柔らかく何かが触れた。…キスされてる?
茂人さんの柔らかな唇の感触は直ぐに離れたと思ったのに、再び降りて来て、僕は抵抗もしないまま悪戯な唇に翻弄されていた。優しく甘える様についばむ唇は、ドキドキするばかりで、僕に気持ち良さを連れてきた。
人の話し声が聞こえてきて、僕たちは慌てて離れた。少し足元がフラついたのは、動揺したせいだろうか。そんな僕をじっと見ていた茂人さんは僕に尋ねた。
「…今の気持ち悪かった?」
気持ち悪い?どちらかと言うと気持ち良かった。でもそう言葉にするにはハードルが高くて、僕は首を振ることしか出来なかった。すると茂人さんは大きく息を吐き出して呟いた。
「…良かった。もし気持ち悪いって言われたら、全然脈無しだろ?俺、楓君のこと真剣だから。それは信じてくれていいからね。」
そう言って喋りすぎだなと呟くと、僕の手首を掴んで歩き出した。もし茂人さんが手を繋いで歩いたら、僕は思わず振り払ってしまったかもしれない。周囲に人が居ないわけでも無いし、恋人同士みたいに手を繋ぐのはハードルが高すぎた。
けれども僕の腕を掴んで先に歩いていくのは、男同士でもありかもしれなかった。
僕はキスされて、手を掴まれて、すっかり茂人さんの彼氏マジックに掛かってしまったのかと、火照る身体にぼうっとしていた。腕が離されて顔を上げると、そこは人気のペンギンのトンネルで、茂人さんが僕に微笑んで言った。
「楓君のお気に入りパート2、だろ?」
僕は優しく微笑む茂人さんの顔を、ドキドキしながら見つめて思った。僕のお気に入りは茂人さんもそうだって。茂人さんの腕の中の逞しさや、良い匂い、甘い唇を知ってしまった僕は、もうこのドキドキがどんな鼓動なのか解らされてしまった。
僕はそんな気持ちを見透かされたくなくて、顔を背けると先に立って目の前を凄いスピードで泳ぐペンギンを見つめた。あんな地上ではヨタヨタしてるのに、水中では鬼速いペンギンの泳ぎは、僕みたいだと思った。
僕も慣れない感情にふらついているけど、身体は正直だ。凄まじい勢いで走り出している。僕は後ろからのんびり近づいてきた茂人さんを振り返ると、苦笑して言った。
「茂人さんが本気出したら、僕は直ぐに陥落しそうです。でも雰囲気に流されたくないんです。…僕が茂人さんと離れる事を決めたのってキッカケがあるんですよ。
街中で素の茂人さんを見かけて、茂人さんが僕の前で無理してるんだって感じたんです。僕、茂人さんに無理して欲しくない。そんな偽りの関係を終わらせるために、茂人さんから離れたんですから。」
側に顔を寄せて来た茂人さんが囁いた。
「これがお気に入り?楓君らしいね、この可愛いらしいクラゲが好きとか。俺には夢中になって見てる楓君の方が可愛いよ。」
そう、ドキリとする様な事を耳元で囁いた茂人さんは、僕の頭をそっと撫で下ろした。自意識過剰になっているのは自覚があったけれど、茂人さんに触れられた場所がまるで印を付けられたように感じて僕は戸惑った。
そんな僕を置き去りに、茂人さんは大きなクラゲがゆっくりと浮遊する正面の巨大水槽へ足を向けた。釣られる様に茂人さんの隣に立った僕は、ぼんやりと浮かび上がる水槽に照らされた茂人さんを盗み見た。
あの日もこうやって、もう二度と会えない茂人さんを目に焼き付けようと盗み見たんだ。なのに茂人さんが僕を探してくれて、こうして同じ様な時間を一緒に過ごしている。何だか不思議だ。そんな事を考えていると、茂人さんが話し始めた。
「やっぱり、俺たち出会う運命だったんじゃないかな。だって、楓君は俺をネットの海から探し出してくれただろ?そして一度切れた縁は凄く近くで繋がっていた。それって元々繋がる縁だったって言われても信じられるよ。随分都合が良い考えかもしれないけどね。
…でも本当に二度と会えないって思ってたから、そうとしか俺には感じられないんだ。」
そう言って僕を見下ろした。ドキドキと心臓がうるさい僕の顔を見つめた茂人さんは、顔を顰めると周囲を見回した。それから急に僕の手を引っ張って歩き始めると、薄暗いクラゲ展示ホールの奥まった場所へ僕を引っ張り込むと、ぎゅっと腕の中に抱きよせた。
確かに平日のこんな時間に元々人は多く無かったし、イベント時間なのか波が引く様に人が居なくなったのには気づいていた。それでも抱き込まれてびっくりしてしまった。
思わず顔をあげて茂人さんに問いかけようとした時、茂人さんの顔が近づいて来て、あっという間に僕の唇に柔らかく何かが触れた。…キスされてる?
茂人さんの柔らかな唇の感触は直ぐに離れたと思ったのに、再び降りて来て、僕は抵抗もしないまま悪戯な唇に翻弄されていた。優しく甘える様についばむ唇は、ドキドキするばかりで、僕に気持ち良さを連れてきた。
人の話し声が聞こえてきて、僕たちは慌てて離れた。少し足元がフラついたのは、動揺したせいだろうか。そんな僕をじっと見ていた茂人さんは僕に尋ねた。
「…今の気持ち悪かった?」
気持ち悪い?どちらかと言うと気持ち良かった。でもそう言葉にするにはハードルが高くて、僕は首を振ることしか出来なかった。すると茂人さんは大きく息を吐き出して呟いた。
「…良かった。もし気持ち悪いって言われたら、全然脈無しだろ?俺、楓君のこと真剣だから。それは信じてくれていいからね。」
そう言って喋りすぎだなと呟くと、僕の手首を掴んで歩き出した。もし茂人さんが手を繋いで歩いたら、僕は思わず振り払ってしまったかもしれない。周囲に人が居ないわけでも無いし、恋人同士みたいに手を繋ぐのはハードルが高すぎた。
けれども僕の腕を掴んで先に歩いていくのは、男同士でもありかもしれなかった。
僕はキスされて、手を掴まれて、すっかり茂人さんの彼氏マジックに掛かってしまったのかと、火照る身体にぼうっとしていた。腕が離されて顔を上げると、そこは人気のペンギンのトンネルで、茂人さんが僕に微笑んで言った。
「楓君のお気に入りパート2、だろ?」
僕は優しく微笑む茂人さんの顔を、ドキドキしながら見つめて思った。僕のお気に入りは茂人さんもそうだって。茂人さんの腕の中の逞しさや、良い匂い、甘い唇を知ってしまった僕は、もうこのドキドキがどんな鼓動なのか解らされてしまった。
僕はそんな気持ちを見透かされたくなくて、顔を背けると先に立って目の前を凄いスピードで泳ぐペンギンを見つめた。あんな地上ではヨタヨタしてるのに、水中では鬼速いペンギンの泳ぎは、僕みたいだと思った。
僕も慣れない感情にふらついているけど、身体は正直だ。凄まじい勢いで走り出している。僕は後ろからのんびり近づいてきた茂人さんを振り返ると、苦笑して言った。
「茂人さんが本気出したら、僕は直ぐに陥落しそうです。でも雰囲気に流されたくないんです。…僕が茂人さんと離れる事を決めたのってキッカケがあるんですよ。
街中で素の茂人さんを見かけて、茂人さんが僕の前で無理してるんだって感じたんです。僕、茂人さんに無理して欲しくない。そんな偽りの関係を終わらせるために、茂人さんから離れたんですから。」
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