イバラの鎖

コプラ

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辺境の地で

アランの指南

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 今夜はアランの指南が入ると知ってか知らずか、僕の部屋のある棟は早々にひと気が無くなった。12歳を越えた子供部屋の棟は、母屋からホールを隔てた反対側にある。

 いずれキャサリンも12歳になったらこちらの棟に移って来るのだろうけど、赤ん坊の彼女はまだまだずっと先の話だ。しかもその頃には別の兄弟が生まれて賑やかになっているかもしれない。

 廊下を挟んで斜め向かいの広い部屋の主は王都に居るので、今は何の気配もしない。僕は一人寂しく静まり返った短い廊下の突き当たりまで歩いた。


 格子窓から月が少し見えて、満月までは少し日数がありそうだった。マリーの指南の時はある種楽しみの方が多かったのに、今夜は胸がザワザワする。どうも落ち着かない。

 自分より力のある男相手に閨の指南をして貰うのは気が進まなかったので、マリーの提案もあって義父上に一旦断ったのだけれど、アランにあんな風に懇願されたら受け入れるしかない。

 それとも最初からアランが指南役だと知っていたら、拒否しなかったのだろうか。


 一方、アランが僕とそういう事をしたかったと聞いてしまえば、指南して貰うのが果たして良かったのかどうかと考えてしまう。そんな事を考えながらぼんやり窓から月を眺めていると、ホールを横切ってこちらに向かう足音が聞こえてきた。

 僕は今更慌てふためいて部屋に飛び込むのはプライドが許さなかったので、窓枠に後ろ手に両手をついて廊下の先を見つめていた。

 するとシャツとズボン姿のアランがトレーを手にして姿を現した。


 僕はこうしてアランを第三者の目でじっと見たことなどなかったかもしれない。辺境伯や兄上の様に真っ直ぐではない、癖のある黒髪は短めに整えられていて、少し濡れているのは自分の部屋でお湯を使って来たのだろう。

 ロレンソ辺境地に多い暗い色の瞳は、シモン兄上ほど明るくないものの灰色がかって見える。少し垂れた目元が優しい性格を現している様で、アランは普通に見ても見栄えが良いのだと改めて思った。


 視線を動かすと、騎士らしいバランスの良い筋肉質の身体が服を通して感じられて、それは僕の嫉妬心を煽った。同時に感嘆めいた感情も連れて来て、早くアランの身体を念入りに検分したいという気持ちが芽生えた。

 ローレンスとのひと時は昼の短い時間に隠れてしていた事なので、じっくり観察する訳でもなかった。でも今日はマリーの時の様に念入りに見ても許されるはずだ。

 そう考えればさっきまで騒ついていた気持ちはあっという間に好奇心に支配されて、僕は笑みまで浮かべていたかもしれない。


 アランは深呼吸すると、僕の部屋の扉を開けて掠れた声で囁いた。

「…アンドレ様、さあ始めましょう。」

 僕はアランに誘われるままに部屋に入った。後ろでアランが部屋の鍵を掛ける音を耳で拾って、僕は部屋の真ん中で振り返った。

「アラン、マリーに準備の仕方は教わったんだ。だからそれは大丈夫。先にお湯を使うよ。」

 するとアランは、香油と何かを乗せたトレーをテーブルに置いて僕に言った。

「…何か過不足がないか、私にチェックさせてください。それに男同士ではかなり奥も使いますから、女のマリーの手解きでは足りない事もありそうです。」


 二人の間の空気が急に緊張を孕んだものに変わった気がしたのは勘違いではないだろう。僕はアランの言葉に想像させられてしまったし、確かにマリーの指南は彼女の細い指だけのものだ。

 僕がチラッとアランの長くて形の良い指に目をやると、アランが分かりやすく顔を顰めた。

「…アンドレ様は男を上手く煽る方法をご存知の様ですね。先に私がお湯を使いますので、暫くしたら来ていただけますか?」

 そう言って踵を返そうとしたので、僕はアランに声を掛けた。


 「ねえ、僕の前で脱いでアランの全身を見せて?マリーもそうしてくれたよ。僕、大人の男の裸は見た事がないんだ。」

 アランは一瞬顔を強張らせたけれど、諦めた様に小さく息を吐き出しておもむろに服を脱ぎ始めた。僕のお世話役になってからもう直ぐ二年程経つけれど、こうして生身のアランを見たのは初めてだった。

「…その傷はどうしたの?」

 部屋の蝋燭に照らされた肩と胸の間にある白い古傷を発見して、僕は思わず尋ねた。


 「ああ、これはアンドレ様ぐらいの年の頃に、仲間と張り合って無茶した時に怪我をしたんです。ふふ、私だって無謀な頃はあったんですよ。」

 アランが無茶するなんて想像がつかなくて、僕は目を丸くして微笑んだ。けれどもアランが下も脱ぎ始めたら、緩んだ空気は一気に張り詰めた。

 アランのシンボルが明らかに鎌首を持ち上げていて、僕はそれをまじまじと見ても良いものか迷うほどに動揺してしまった。…大き過ぎない?

 
 そんな僕の動揺に素知らぬ振りで、アランは僕に見せつける様にゆっくりとひと回りした。それは僕が望んだ事だったけれど、無駄のない筋肉美は妙な興奮を感じさせた。

 アランはもう一度僕の方に向き直ると、自身のそれに手を添えて言った。

「…アンドレ様にそんな顔で見つめられたら、私のこれも大人しくは出来ない様です。でもご心配は要りません。これを使う気はありませんから。私はあくまでもアンドレ様の願いの通りに指南いたします。」


 僕はアランのそれから目を離せないでいた。ああ、僕にはそれを試す勇気はないよ…!






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