1 / 41
さあ、婚約破棄から始めましょう!
寝台で蘇る記憶
しおりを挟む
静かにしていると、パーティーの喧騒がこの部屋まで届いていることに私は気がついた。
夜通しのパーティーですし、そもそも眠ることは想定していないからこれでよいのでしょうね。
今夜催された王宮の舞踏会は盛大なものであり、賓客が多く招かれている。
今日は第一王子、ゴーティエ・リオンの二十歳の誕生日なのだ。王家の誕生日会では、これまでの成長と繁栄を讃えるため、あるいは災いが近づいてこないようにするため、こうして賑やかに一夜を過ごす。
「何を考えているんだい?」
金髪碧眼の超絶美形な青年が、私の上を覆い被さるようにして顔を覗き込んでくる。私の目の前にいるこの青年が、本日の舞踏会の主役であるゴーティエ王子だ。
彼はベッドに広がった私のストロベリーブロンドの髪をひと房持ち上げて、恭しく口づけをした。こういう仕草がさまになる。
「本当に一晩中、パーティーをするのだなと思いまして」
主役が抜けていいのかとパーティー会場から連れ出されたときに尋ねたが、ゴーティエ王子ははぐらかすように笑うだけだった。
賓客のために用意されただろう部屋の一室に連れ込まれ、こうして私、ヴァランティーヌ・グールドンは広いベッドに押し倒された――というシチュエーションである。
「風習だからね。それに、オレ自身は結構好きだよ。こうやって大騒ぎするのは」
ゴーティエ王子は私を逃すまいと腰のあたりにまたがったまま、盛装を脱ぎ始めた。綺麗に飾り結ばれたクラヴァットが取られ、それが私の両手首に括りつけられる。動かしてみると、ベッドの柱も一緒に括られたらしい。私の手は頭上にあって、動かせなくなっている。
「あ、あの……?」
ゴーティエ王子がすることに対しては決して抵抗はするな、と両親から言われている。それは私が彼の婚約者に選ばれたときからずっと言い聞かされたことだ。王家の正当な血筋であるゴーティエ王子に、侯爵家の娘である私が逆らえるわけがない。
しかし、この状況は心もとない。思わず戸惑いの言葉が漏れ出ていた。
「ん? 初めては痛いものらしいからね。暴れられたら困るから、固定させてもらったよ」
私の疑問に、彼はさらりと答えた。なおも着々と脱衣は進む。
痛いのか……
私はそっと身構えた。これから自分の身に何が起こるのかはなんとなくわかる。淑女教育として、母から教わったこともいくつかあったので、つまりはそういうことなのだろう。
優しくしてくれるといいのですけど……そう望むのは、私の立場では贅沢かしら。
幼馴染でもあるゴーティエ王子の性格はよくわかっている。意地悪でわがままで、どんな手を使ってでもほしい物は手に入れるタイプだ。私のことなど気にかけることなく、この身体を楽しむのだろう。
「そういうものなのですか……」
しょげた声で返したからか、ゴーティエ王子は私の頬に手を添えると見つめ合った。
部屋はそこそこ明るい。互いの瞳にはそれぞれの顔が映っているのだろう。私は彼の瞳の中に、不安げな女性の姿を見た。
十八歳の私は、すでに少女とはいえない顔立ちをしていて、身体だってすっかり大人のそれと同じだ。仰向けになっていてもツンと天を向いている大きな胸、グラスの持ち手のように細くくびれた腰、今流行りのタイトなドレスだと肉感が溢れてしまうお尻。太っているわけではないが、どこも柔らかな肉に包まれているので、触れたらきっと心地がよかろう。
気に入ってくれたら、嬉しいな。
結婚をしたら、きっと毎晩身体を重ねるようになるはずだ。第一王子なので、後継者が必要になる。子どもは欲しいに決まっているのだ。ならば、少しでも触れたくなる身体の方が互いにいいだろう。
しばらく見つめ合っていたが、ゴーティエ王子は困惑気味にため息をついた。
「貴女のことだから、もっと強気な態度をすると期待していたのに。初めては面倒だな。そんなに怖いものか?」
「それはあなたさまが私に痛いものだと告げたからでございます」
「幼馴染なんだから、あなた、で充分だろ? 本当に強情な人だ」
そう告げるなり、彼は私に口づけをした。舌がにゅるっと入り込み、絡み合う。自然と目を閉じた。
「んんっ……」
視界からの情報が消えると、身体の隅々までが反応しやすくなる。ムズムズとしてくると、ゴーティエ王子は私のドレスを脱がしはじめた。
手慣れているわね……
袖がないドレスを着せられたのは、こうなることを見越していたのだろう。両親にとって私は、ゴーティエ王子への誕生日プレゼントの一つなのだ。
「ああっ……ま、待って……恥ずかしい……」
「ヴァランティーヌ、貴女はとても綺麗だ」
下着もあっさりと取り払われ、ゴーティエ王子に裸体をさらしていた。彼の視線が身体中をなぞると、熱を帯びたようになるのがわかる。不思議な感覚だ。
「綺麗……でしょうか?」
「ずっとこの目で見たいと思っていたんだ。誰かが貴女の身体を見る前に、オレ自身の目で確かめたかった」
再び口づけをされて、その唇が身体を下がっていく。耳へ、首筋へ、鎖骨へ、胸の膨らみへ、その先端へ。
「やあっ!」
胸の先端へのキス。そのあとは別の場所に移動すると見せかけて、大きく口に含まれた。舌先で丁寧に舐めしゃぶられると、声を我慢できない。
「ああ、いい声だ」
感想が告げられ、胸への愛撫が始まる。右手で私の左胸をいじりながら、右胸は彼の唇と舌で遊ばれる。
「や、やっ、ああっ」
初めての快感に、私は身体をくねらせた。手を縛られてしまったのですぐに痛いことをされると考えていただけに、これは考えてもみなかった。気持ちがいい。
「ヴァランティーヌ……愛しているよ。貴女と結ばれれば、この国はきっと安泰だ。たくさんオレの子を産んで」
「はい……」
まだ婚前であるけれど、結婚に必要な手順は概ね終えている。年が明ければ私は彼の妻になる。
「できるだけ痛くないように努力するからね。傷つけたくないから」
臍へのキスも柔らかい。触れられた場所がじんわり熱くなる。
行為が痛いものだと言ったのは、うっかり痛い思いをさせても言い訳ができるようにと予防線を張ったということだろうか。これならなんとか乗り切れるかもしれない。
身を任せるつもりで身体の力を抜くと、脚を大きく広げさせられた。
「ひゃあっ!」
反射で脚を閉じようとしたが、彼の身体と頭が挟まって完全には閉じられなかった。
「驚かせてごめん。でも、ここにオレのを挿れるから、きちんと見ておきたくて」
これまで誰の目にも触れさせたことのない場所を、ゴーティエ王子はまじまじと見ている。やがて彼の長い指が私の股間に触れた。指先の刺激に、つい腰が動いてしまう。
「あ、や、い、いけません。そこは汚いから」
「心配しないで。とても綺麗だよ」
彼の顔が秘部に近づいていく。よく見るためかと思ったが、次の瞬間ぞくっとして身体がのけぞった。
「すごく感じてくれているんだね。緊張で濡れないんじゃないかと思っていたのに、甘い蜜を滴らせているよ。わかる?」
割れ目を指先が移動すると、クチュクチュと水音が響く。粘性を伴う音だ。
「蜜? あなたさまが舐めたからではなくて?」
「舐めただけじゃこんなにはならないよ」
ゴーティエ王子は私の反応を楽しんでいるようで、少し意地悪そうな顔で私を見下ろした。指先は水音を奏でている。指の動きが変わったとき、私はビクッと身体を震わせた。快感が強くなったからだ。
「ああ、や、そこは……」
「ここ、気持ちがいいのかな?」
やめてほしいと言いたかったのに、ゴーティエ王子は巧みに私の感じやすい場所をこね回した。
「ああんっ、や、待って、待ってぇっ!」
抵抗したくても手の自由を奪われている状態だ。身体をくねらせて逃げるにも限界がある。私は念入りにそこを責められる。
「すごい。メスの顔をしてる。初めてなんでしょ?」
「やぁんっ、ねえ、あ、あっ!」
唐突に目の前が白く爆ぜた。ビクンと強く身体が痙攣し、やがて弛緩する。汗が吹き出て、息が上がっていた。
「へえ。貴女もこんなふうに乱れるんだね。気持ちいい?」
はぁはぁと荒い息をしているのですぐに返事ができない。とりあえず、顎を引いて頷いておいた。
「そう。よかった。ここからが本番だからね」
脚がしっかり開かれる。ひくつく襞を割って、彼の指が奥を目指して突き立てられた。
グチュ。
音を聞くと同時に、私の身体は拒絶を示した。あんなに気持ちがよかったのに、痛みが身体を駆け抜けて絶叫に変わる。
「いやぁっ! 痛いっ! 抜いてっ!」
我慢しなければと理性が呼びかけるのに、身体は言うことを聞かなかった。行為を続けようとするゴーティエ王子に対し痛みに耐えきれなかった私は、思いっきり彼の身体を蹴り飛ばした。
「い、イテッ」
ベッドから転げ落ちる彼を視界の端に見て、私はハッとした。やってはならないことをしてしまったと血の気が引く。
それと同時に、記憶の扉が開かれた。
彼の衆目美麗な容姿、それにゴーティエ・リオンって名前……ここ、『プリンセス・ソニア』の世界じゃない?
どんどんと記憶が呼び戻される。
私はこの『プリンセス・ソニア』の世界に転生したのではないだろうか。しかも、ヒロインのソフィエット・ノートルベールではなく、凄惨な人生を送る悪役令嬢ヴァランティーヌ・グールドンとして。
ってか、私の推しは王立騎士団筆頭騎士のアロルド・エルヴェさまなんですけどっ!
よりにもよって私が一番攻略を後回しにしたゴーティエ王子に貞操を奪われかけているなんて、あり得ない。
あり得ないついでに思い出した。このシーンがあるということは、このあとの私の処遇も自ずと決まってくる。
まずい。このまま貞操を奪われてはいけない!
このルートがどこに向かっているのかを思い出せた私は、大きな声で叫んでやった。
「ごめんなさい、ゴーティエ王子! 私、この婚約を破棄させてください!」
侯爵令嬢からの婚約破棄の申し入れなどできるわけがない。それはわかっているけれど、このままでは回避できなくなってしまう。一番なりたくない最期が迫っているのだ。
「なぜだ! 処女の身体は痛いものなんだ。こんなことで婚約破棄なんて! オレはずっと貴女を――」
「ここで私が身籠る子は産まれないのです。それどころか、流産が原因で私も死ぬの! 私のざまぁエンドを回避するにはこれしかないんだからっ!」
『プリンセス・ソニア』の世界のゴーティエ王子ルートは、子どもを身籠ってしまったためにヒロインを必死に邪魔をするヴァランティーヌだが、子がお腹にいることをなかなか明かせなかったばかりに流産し、最終的には本人も命を落としてしまうという、ざまぁなエンドがある。
王子の誕生日に交わって子どもを宿すのはイベントの順番的に間違いがない。「王子はたくさんの子を欲しがっています。たった一度だけで懐妊できたのだから、私が彼にふさわしいのは自明でしょう?」と、真相を語るシーンは愛好者の中では有名である。
この状況をどうにかしたくて喚いていると、ゴーティエ王子がベッドに戻ってきた。
「ヴァランティーヌ、落ち着いてくれ。痛い思いをさせたことは謝るから」
「ゴーティエ王子……?」
謝る、ですって? あなたの口から、謝罪?
聞き間違いかと思って、もう一回言ってはくれないかと口を閉ざすと、ゴーティエ王子は私の拘束を解いてくれた。
「え?」
「ヴァランティーヌ、貴女を失うのは嫌だ」
手首が自由になってキョトンとした私を、ゴーティエ王子は優しく起こして抱き締めた。
「混乱を与えてしまうほどの痛みだとは思わなかった。今まで処女を抱いたこともあるが、貴女のように錯乱したのは初めてだ。まずは落ち着いてほしい」
え、えっと……
ゴーティエ王子ってこんな人だっけ?
十八年間の私の記憶を通してみても、前世のゲーム体験を思い出してみても、彼はオレ様系キャラであって、こんなふうに他人を労わるような素振りはほとんどしない。攻略を終えたあとのエピソードで甘々な二人の生活をみられるが、それまではかなりキツい男に感じられた。
ここにいるのは本当にゴーティエ王子さま?
私が暴れなくなったからだろう。彼は私を解放し、優しく微笑んだ。
「蹴り飛ばしたことについては不問にしよう。その代わり、説明してほしい。その未来は本当なのか?」
「その未来……私が流産して亡くなるってことでしょうか?」
私が聞き返すと、ゴーティエ王子は大真面目に頷いた。
予想外の展開であるが、これはきっとチャンスだ。どの程度のフラグが立っているのかを確認できる。
私は慎重に言葉を選ぶ。
夜通しのパーティーですし、そもそも眠ることは想定していないからこれでよいのでしょうね。
今夜催された王宮の舞踏会は盛大なものであり、賓客が多く招かれている。
今日は第一王子、ゴーティエ・リオンの二十歳の誕生日なのだ。王家の誕生日会では、これまでの成長と繁栄を讃えるため、あるいは災いが近づいてこないようにするため、こうして賑やかに一夜を過ごす。
「何を考えているんだい?」
金髪碧眼の超絶美形な青年が、私の上を覆い被さるようにして顔を覗き込んでくる。私の目の前にいるこの青年が、本日の舞踏会の主役であるゴーティエ王子だ。
彼はベッドに広がった私のストロベリーブロンドの髪をひと房持ち上げて、恭しく口づけをした。こういう仕草がさまになる。
「本当に一晩中、パーティーをするのだなと思いまして」
主役が抜けていいのかとパーティー会場から連れ出されたときに尋ねたが、ゴーティエ王子ははぐらかすように笑うだけだった。
賓客のために用意されただろう部屋の一室に連れ込まれ、こうして私、ヴァランティーヌ・グールドンは広いベッドに押し倒された――というシチュエーションである。
「風習だからね。それに、オレ自身は結構好きだよ。こうやって大騒ぎするのは」
ゴーティエ王子は私を逃すまいと腰のあたりにまたがったまま、盛装を脱ぎ始めた。綺麗に飾り結ばれたクラヴァットが取られ、それが私の両手首に括りつけられる。動かしてみると、ベッドの柱も一緒に括られたらしい。私の手は頭上にあって、動かせなくなっている。
「あ、あの……?」
ゴーティエ王子がすることに対しては決して抵抗はするな、と両親から言われている。それは私が彼の婚約者に選ばれたときからずっと言い聞かされたことだ。王家の正当な血筋であるゴーティエ王子に、侯爵家の娘である私が逆らえるわけがない。
しかし、この状況は心もとない。思わず戸惑いの言葉が漏れ出ていた。
「ん? 初めては痛いものらしいからね。暴れられたら困るから、固定させてもらったよ」
私の疑問に、彼はさらりと答えた。なおも着々と脱衣は進む。
痛いのか……
私はそっと身構えた。これから自分の身に何が起こるのかはなんとなくわかる。淑女教育として、母から教わったこともいくつかあったので、つまりはそういうことなのだろう。
優しくしてくれるといいのですけど……そう望むのは、私の立場では贅沢かしら。
幼馴染でもあるゴーティエ王子の性格はよくわかっている。意地悪でわがままで、どんな手を使ってでもほしい物は手に入れるタイプだ。私のことなど気にかけることなく、この身体を楽しむのだろう。
「そういうものなのですか……」
しょげた声で返したからか、ゴーティエ王子は私の頬に手を添えると見つめ合った。
部屋はそこそこ明るい。互いの瞳にはそれぞれの顔が映っているのだろう。私は彼の瞳の中に、不安げな女性の姿を見た。
十八歳の私は、すでに少女とはいえない顔立ちをしていて、身体だってすっかり大人のそれと同じだ。仰向けになっていてもツンと天を向いている大きな胸、グラスの持ち手のように細くくびれた腰、今流行りのタイトなドレスだと肉感が溢れてしまうお尻。太っているわけではないが、どこも柔らかな肉に包まれているので、触れたらきっと心地がよかろう。
気に入ってくれたら、嬉しいな。
結婚をしたら、きっと毎晩身体を重ねるようになるはずだ。第一王子なので、後継者が必要になる。子どもは欲しいに決まっているのだ。ならば、少しでも触れたくなる身体の方が互いにいいだろう。
しばらく見つめ合っていたが、ゴーティエ王子は困惑気味にため息をついた。
「貴女のことだから、もっと強気な態度をすると期待していたのに。初めては面倒だな。そんなに怖いものか?」
「それはあなたさまが私に痛いものだと告げたからでございます」
「幼馴染なんだから、あなた、で充分だろ? 本当に強情な人だ」
そう告げるなり、彼は私に口づけをした。舌がにゅるっと入り込み、絡み合う。自然と目を閉じた。
「んんっ……」
視界からの情報が消えると、身体の隅々までが反応しやすくなる。ムズムズとしてくると、ゴーティエ王子は私のドレスを脱がしはじめた。
手慣れているわね……
袖がないドレスを着せられたのは、こうなることを見越していたのだろう。両親にとって私は、ゴーティエ王子への誕生日プレゼントの一つなのだ。
「ああっ……ま、待って……恥ずかしい……」
「ヴァランティーヌ、貴女はとても綺麗だ」
下着もあっさりと取り払われ、ゴーティエ王子に裸体をさらしていた。彼の視線が身体中をなぞると、熱を帯びたようになるのがわかる。不思議な感覚だ。
「綺麗……でしょうか?」
「ずっとこの目で見たいと思っていたんだ。誰かが貴女の身体を見る前に、オレ自身の目で確かめたかった」
再び口づけをされて、その唇が身体を下がっていく。耳へ、首筋へ、鎖骨へ、胸の膨らみへ、その先端へ。
「やあっ!」
胸の先端へのキス。そのあとは別の場所に移動すると見せかけて、大きく口に含まれた。舌先で丁寧に舐めしゃぶられると、声を我慢できない。
「ああ、いい声だ」
感想が告げられ、胸への愛撫が始まる。右手で私の左胸をいじりながら、右胸は彼の唇と舌で遊ばれる。
「や、やっ、ああっ」
初めての快感に、私は身体をくねらせた。手を縛られてしまったのですぐに痛いことをされると考えていただけに、これは考えてもみなかった。気持ちがいい。
「ヴァランティーヌ……愛しているよ。貴女と結ばれれば、この国はきっと安泰だ。たくさんオレの子を産んで」
「はい……」
まだ婚前であるけれど、結婚に必要な手順は概ね終えている。年が明ければ私は彼の妻になる。
「できるだけ痛くないように努力するからね。傷つけたくないから」
臍へのキスも柔らかい。触れられた場所がじんわり熱くなる。
行為が痛いものだと言ったのは、うっかり痛い思いをさせても言い訳ができるようにと予防線を張ったということだろうか。これならなんとか乗り切れるかもしれない。
身を任せるつもりで身体の力を抜くと、脚を大きく広げさせられた。
「ひゃあっ!」
反射で脚を閉じようとしたが、彼の身体と頭が挟まって完全には閉じられなかった。
「驚かせてごめん。でも、ここにオレのを挿れるから、きちんと見ておきたくて」
これまで誰の目にも触れさせたことのない場所を、ゴーティエ王子はまじまじと見ている。やがて彼の長い指が私の股間に触れた。指先の刺激に、つい腰が動いてしまう。
「あ、や、い、いけません。そこは汚いから」
「心配しないで。とても綺麗だよ」
彼の顔が秘部に近づいていく。よく見るためかと思ったが、次の瞬間ぞくっとして身体がのけぞった。
「すごく感じてくれているんだね。緊張で濡れないんじゃないかと思っていたのに、甘い蜜を滴らせているよ。わかる?」
割れ目を指先が移動すると、クチュクチュと水音が響く。粘性を伴う音だ。
「蜜? あなたさまが舐めたからではなくて?」
「舐めただけじゃこんなにはならないよ」
ゴーティエ王子は私の反応を楽しんでいるようで、少し意地悪そうな顔で私を見下ろした。指先は水音を奏でている。指の動きが変わったとき、私はビクッと身体を震わせた。快感が強くなったからだ。
「ああ、や、そこは……」
「ここ、気持ちがいいのかな?」
やめてほしいと言いたかったのに、ゴーティエ王子は巧みに私の感じやすい場所をこね回した。
「ああんっ、や、待って、待ってぇっ!」
抵抗したくても手の自由を奪われている状態だ。身体をくねらせて逃げるにも限界がある。私は念入りにそこを責められる。
「すごい。メスの顔をしてる。初めてなんでしょ?」
「やぁんっ、ねえ、あ、あっ!」
唐突に目の前が白く爆ぜた。ビクンと強く身体が痙攣し、やがて弛緩する。汗が吹き出て、息が上がっていた。
「へえ。貴女もこんなふうに乱れるんだね。気持ちいい?」
はぁはぁと荒い息をしているのですぐに返事ができない。とりあえず、顎を引いて頷いておいた。
「そう。よかった。ここからが本番だからね」
脚がしっかり開かれる。ひくつく襞を割って、彼の指が奥を目指して突き立てられた。
グチュ。
音を聞くと同時に、私の身体は拒絶を示した。あんなに気持ちがよかったのに、痛みが身体を駆け抜けて絶叫に変わる。
「いやぁっ! 痛いっ! 抜いてっ!」
我慢しなければと理性が呼びかけるのに、身体は言うことを聞かなかった。行為を続けようとするゴーティエ王子に対し痛みに耐えきれなかった私は、思いっきり彼の身体を蹴り飛ばした。
「い、イテッ」
ベッドから転げ落ちる彼を視界の端に見て、私はハッとした。やってはならないことをしてしまったと血の気が引く。
それと同時に、記憶の扉が開かれた。
彼の衆目美麗な容姿、それにゴーティエ・リオンって名前……ここ、『プリンセス・ソニア』の世界じゃない?
どんどんと記憶が呼び戻される。
私はこの『プリンセス・ソニア』の世界に転生したのではないだろうか。しかも、ヒロインのソフィエット・ノートルベールではなく、凄惨な人生を送る悪役令嬢ヴァランティーヌ・グールドンとして。
ってか、私の推しは王立騎士団筆頭騎士のアロルド・エルヴェさまなんですけどっ!
よりにもよって私が一番攻略を後回しにしたゴーティエ王子に貞操を奪われかけているなんて、あり得ない。
あり得ないついでに思い出した。このシーンがあるということは、このあとの私の処遇も自ずと決まってくる。
まずい。このまま貞操を奪われてはいけない!
このルートがどこに向かっているのかを思い出せた私は、大きな声で叫んでやった。
「ごめんなさい、ゴーティエ王子! 私、この婚約を破棄させてください!」
侯爵令嬢からの婚約破棄の申し入れなどできるわけがない。それはわかっているけれど、このままでは回避できなくなってしまう。一番なりたくない最期が迫っているのだ。
「なぜだ! 処女の身体は痛いものなんだ。こんなことで婚約破棄なんて! オレはずっと貴女を――」
「ここで私が身籠る子は産まれないのです。それどころか、流産が原因で私も死ぬの! 私のざまぁエンドを回避するにはこれしかないんだからっ!」
『プリンセス・ソニア』の世界のゴーティエ王子ルートは、子どもを身籠ってしまったためにヒロインを必死に邪魔をするヴァランティーヌだが、子がお腹にいることをなかなか明かせなかったばかりに流産し、最終的には本人も命を落としてしまうという、ざまぁなエンドがある。
王子の誕生日に交わって子どもを宿すのはイベントの順番的に間違いがない。「王子はたくさんの子を欲しがっています。たった一度だけで懐妊できたのだから、私が彼にふさわしいのは自明でしょう?」と、真相を語るシーンは愛好者の中では有名である。
この状況をどうにかしたくて喚いていると、ゴーティエ王子がベッドに戻ってきた。
「ヴァランティーヌ、落ち着いてくれ。痛い思いをさせたことは謝るから」
「ゴーティエ王子……?」
謝る、ですって? あなたの口から、謝罪?
聞き間違いかと思って、もう一回言ってはくれないかと口を閉ざすと、ゴーティエ王子は私の拘束を解いてくれた。
「え?」
「ヴァランティーヌ、貴女を失うのは嫌だ」
手首が自由になってキョトンとした私を、ゴーティエ王子は優しく起こして抱き締めた。
「混乱を与えてしまうほどの痛みだとは思わなかった。今まで処女を抱いたこともあるが、貴女のように錯乱したのは初めてだ。まずは落ち着いてほしい」
え、えっと……
ゴーティエ王子ってこんな人だっけ?
十八年間の私の記憶を通してみても、前世のゲーム体験を思い出してみても、彼はオレ様系キャラであって、こんなふうに他人を労わるような素振りはほとんどしない。攻略を終えたあとのエピソードで甘々な二人の生活をみられるが、それまではかなりキツい男に感じられた。
ここにいるのは本当にゴーティエ王子さま?
私が暴れなくなったからだろう。彼は私を解放し、優しく微笑んだ。
「蹴り飛ばしたことについては不問にしよう。その代わり、説明してほしい。その未来は本当なのか?」
「その未来……私が流産して亡くなるってことでしょうか?」
私が聞き返すと、ゴーティエ王子は大真面目に頷いた。
予想外の展開であるが、これはきっとチャンスだ。どの程度のフラグが立っているのかを確認できる。
私は慎重に言葉を選ぶ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,632
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる