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第1章

婚約

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 しかし。


 マクシミリアン殿下の、あの態度。


 よほど、私が嫌いらしい。


 どういうわけか。

 悪役令嬢補正がかかっているのか、それとも何か嫌なことでも事前に起こっていたのか。


 あの感じ――未来の婚約者として連れてこられた同い年の少女に対し、


「僕は忙しいから、ここで」

 と言って、城に放置するあの様子。


 あの根性。


 よっぽど、私と婚約するのが嫌みたいだ。


 推していた相手にそこまでされると、さすがの私でも傷つく。


 だけど、私は少し安心していた。


 マクシミリアン殿下は、かなりの婚約者候補がいるはずだ。


 現在、私が一応の筆頭婚約者候補という感じで、陛下的にはもう決定したいという雰囲気は醸し出していたものの、殿下はあくまで第一王子。


 彼に相応しい婚約者をと、今周囲の大人たちがせっせと各令嬢たちを吟味しているはずだ。


 あの乙女ゲームのストーリーでは、公爵令嬢ハリエット側の強い意向でこの婚約が結ばれたらしい。


 つまりこちら側が、

「殿下との婚約なんて恐れ多いですわ」

 という立場でいれば、なんの問題ないわけだ。


 対面が終わった後、

「どうだった?」

 と聞いてきた父親に向かって、私は事細かに説明した。


 事細かにと言っても、事実はただ1つだけ。


「殿下は、私のことがどうやらお嫌いのようですわ」

「……どうして?」

「お庭に行こうと誘ったんですけど、忙しいからと断られて。お父様がいらっしゃるまで、私ずっと1人でしたの」

「……そうか」


 お父様は、娘と第一王子の仲がうまくいかなかったことを残念がっていたが、仕方がない。


 だって、向こうが嫌ってるんだもの。


「殿下との婚約は、恐れ多いですので」

「……ヘスティアがそう言うなら。わかった。せっかくの機会だが」


 失礼を承知でこちら側から断りを入れようとした、そのときだった。


 王族側から手紙が届いたのだ。


「ぜひ、お前を第一王子の婚約者に、と」

「えっ、なんで?」


 私の口から思わず素が飛び出る。


「どうして? だってあの方」

「殿下の強い意向らしい」

「……」


 意味がわからない。

 あの子、めちゃくちゃ私のこと嫌がってたじゃないの。


 なのになんで?


 私は混乱した。


 何を考えているのだろう、あの少年は。


「王族からのお願いは、絶対だ」


 しかし、現実はこうだ。


 王族からの提案を、こちら側から断ることは出来ない。


 お父様の言葉に、私は力なく頷いた。


「……承知しました」


 
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