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第1章

状況

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 私の怒鳴り声を聞いて、令嬢たちが驚いたようにこちらを振り向く。


「あっ」

「ヤバッ」


 ヤバいも何も、本当に何をしようとしてたんだ。


 私は全速力で連中に近づき、マクシミリアン殿下を庇うように立ち塞がった。


「子どもに何をしてるのよ!」

「ぼ、僕は子どもじゃ――」


 背中側で殿下が何か言いたそうにしていたが、私はそれを無視する。


「あらあら」

 令嬢の1人が、嫌味ったらしく言った。

「そんな慌てて、どうされたんですか?」

「怖い顔」

「いや、怖いのはあなたたちなんですが」

 私は答えた。

「自分の顔、鏡で見たことあります? 今、メデューサにそっくり」


「なっ……!」

 令嬢たちは顔を真っ赤にした。

「あ、あなただって……」


 私の顔を侮辱したいようだが、良い表現が見つからないらしい。


「私、はっきり見ましたから。私の婚約者を襲うところを」

 私は言った。

「言い逃れ出来ませんよ」


「は? 何をおっしゃっているんですか?」

 と、1人が言う。

「私たち、ただお話ししてただけですけど」


「は?」

 
 何を言っているんだ、この子たち。


「話をしてただけで、馬乗りになって服を脱がすことがありますか?」


「それはあなたがやったことでしょう? 私たちは関係ありません」


 は?

 は?

 
 ……はぁ!?


「何言っ――」

「私たちは、あなたの横暴を止めようとしただけ。それなのに人のせいにするなんて、最低」


 なんとこいつら。

 今までの自分たちの所業を、全部私のせいにしようとしているらしい。


「信じられない。大人たちに報告いたしますから!」


 示し合わせたように嘘をつく令嬢たちは、私と殿下を置いてダッシュで走り去っていく。


 残された私は、ただただ唖然としていた。


 マジかよ。

 めちゃくちゃ性格悪いじゃないの、あの子たち。


 子どものレベルじゃない邪悪さだわ。


「何してるんだよ」

 後ろでマクシミリアン殿下が言う。

「早く追いかけないと、あいつらみんなに嘘を!」

「ああ、それは大丈夫ですよ。殿下――それより、大丈夫ですか?」

「僕は大丈夫だ。それより君の立場が」

「大丈夫です。証拠は持ってるんで」
 


 
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