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馬鹿王子襲来
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「いやいやいやいや」
私は大きく首を横に振った。
「何かの冗談じゃなくて?」
「違います。私もそう思いたいのですが」
メイドが生真面目そうに答えた。
彼女が嘘をつく義理はない。恐らく本当なのだろう。
「なんの用か、聞いてきてくれた?」
「それが……」
メイドは、遠慮がちに目を伏せた。
「用は後から言うと、殿下はおっしゃってまして」
私は思わず大きなため息をついた。
めんどくさ。
しかし、メイドたちを責めるわけにもいかなかった。いくら馬鹿とはいえ、相手はあの第二王子だ。メイドとの身分差はえらい違いだ。そんな状況で、
「だから用件は?」
と冷たく言い放てるほど、彼女たちは自暴自棄ではないはずだ。
「お父様とお母様はなんと?」
「今出払っています。……演劇を見に行かれるそうで」
私は頭を抱えた。
「仲がいいのは子どもとしても嬉しい限りだけど、屋敷を二人とも離れるのはいかがかしら。今度言わないと」
「今の屋敷では、あなた様に決定権があります。セシリアお嬢様」
さあ、どうしますかとメイドに決定を迫られ、私は仕方なく答えを出した。
「追い返して頂戴。今のマリアンヌと合わせると、非常に不味いことになるわ」
「承知いたしました」
さて、これで一件落着。
みんなは幸せに暮らしました。
ーーとはいかないのが、世の常だ。
馬鹿は馬鹿だし、それは永遠であるということに、今日はじめて気付かされた。
「セシリア!」
メイドが立ち去ってまもなく、さて一息つこうと紅茶を入れていると、また扉を勝手に開ける者がいる。
マリアンヌの甲高い声ではない。若い男の声だ。
私は今日何度目かわからないため息をついた。
あのメイドめ。逃がしたか。
「単刀直入に言う、我が恋人マリアンヌを解放しろ!」
心底うざい声で男は叫んだ。
何言ってんだ、こいつは。
「マリアンヌと誰が恋人同士ですって?」
うざったいので、馬鹿の方を見ずに私は尋ね返す。
「あなたは今、婚約者がいらっしゃいますよね?」
「は? なんと嫌味な女だ。自分が愛されないからと言って、あんなに愛らしいマリアンヌを閉じ込めてしまうとは」
……駄目だ。ぜんっぜん話が通じない。
頭痛くなってきた。
「なにをおっしゃっているのですか?」
「だから、マリアンヌを返せと言っている」
「あのですねえ」
私は痛む頭を抑えながらようやく振り返った。
「マリアンヌは殿下の『物』ではありませんし、そもそもあなたには別の婚約者がいるでしょう?」
「そんなわざとらしい言い回しで、私の気を引こうと思っても無駄だぞ」
「私じゃありません。別の令嬢です」
「は? 何を言っているんだ、お前は馬鹿か?」
ふざけているわけでもなく、至極真面目そうな顔つきで第二王子は言った。
……だんだんわかってきた。
こいつも、私が自分の婚約者だと思っているんだ。
私は大きく首を横に振った。
「何かの冗談じゃなくて?」
「違います。私もそう思いたいのですが」
メイドが生真面目そうに答えた。
彼女が嘘をつく義理はない。恐らく本当なのだろう。
「なんの用か、聞いてきてくれた?」
「それが……」
メイドは、遠慮がちに目を伏せた。
「用は後から言うと、殿下はおっしゃってまして」
私は思わず大きなため息をついた。
めんどくさ。
しかし、メイドたちを責めるわけにもいかなかった。いくら馬鹿とはいえ、相手はあの第二王子だ。メイドとの身分差はえらい違いだ。そんな状況で、
「だから用件は?」
と冷たく言い放てるほど、彼女たちは自暴自棄ではないはずだ。
「お父様とお母様はなんと?」
「今出払っています。……演劇を見に行かれるそうで」
私は頭を抱えた。
「仲がいいのは子どもとしても嬉しい限りだけど、屋敷を二人とも離れるのはいかがかしら。今度言わないと」
「今の屋敷では、あなた様に決定権があります。セシリアお嬢様」
さあ、どうしますかとメイドに決定を迫られ、私は仕方なく答えを出した。
「追い返して頂戴。今のマリアンヌと合わせると、非常に不味いことになるわ」
「承知いたしました」
さて、これで一件落着。
みんなは幸せに暮らしました。
ーーとはいかないのが、世の常だ。
馬鹿は馬鹿だし、それは永遠であるということに、今日はじめて気付かされた。
「セシリア!」
メイドが立ち去ってまもなく、さて一息つこうと紅茶を入れていると、また扉を勝手に開ける者がいる。
マリアンヌの甲高い声ではない。若い男の声だ。
私は今日何度目かわからないため息をついた。
あのメイドめ。逃がしたか。
「単刀直入に言う、我が恋人マリアンヌを解放しろ!」
心底うざい声で男は叫んだ。
何言ってんだ、こいつは。
「マリアンヌと誰が恋人同士ですって?」
うざったいので、馬鹿の方を見ずに私は尋ね返す。
「あなたは今、婚約者がいらっしゃいますよね?」
「は? なんと嫌味な女だ。自分が愛されないからと言って、あんなに愛らしいマリアンヌを閉じ込めてしまうとは」
……駄目だ。ぜんっぜん話が通じない。
頭痛くなってきた。
「なにをおっしゃっているのですか?」
「だから、マリアンヌを返せと言っている」
「あのですねえ」
私は痛む頭を抑えながらようやく振り返った。
「マリアンヌは殿下の『物』ではありませんし、そもそもあなたには別の婚約者がいるでしょう?」
「そんなわざとらしい言い回しで、私の気を引こうと思っても無駄だぞ」
「私じゃありません。別の令嬢です」
「は? 何を言っているんだ、お前は馬鹿か?」
ふざけているわけでもなく、至極真面目そうな顔つきで第二王子は言った。
……だんだんわかってきた。
こいつも、私が自分の婚約者だと思っているんだ。
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