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手紙

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 その手紙は、祖国からだった。


 何気なくそれを手に取り、中身を確認する。


 きっと他の友人たちからの連絡だろう。

 心配をかけて申し訳ないなんて、そう思って何も考えずに私はその手紙を開いた。


 ーーが。


 そこに書かれていたのは、心配の手紙でも、どうしているのかという安否確認の手紙でもなかった。


 封筒にあったのは、かつてよく見た押印。


 王家の印章だ。


 その中には、かつての婚約者であったウィリアム殿下が、対隣国の大使になったこと、そして祖国に戻ってきてほしい、戻ってこないとどうなるかわかっているよなという彼直筆の脅し文句が書かれていた。


 私は驚き、慌てて両親に手紙を持っていく。


 手紙を読んだ両親は厳しい顔を浮かべ、すぐに屋敷にて面々を招集した。


 客間の大きなテーブルを囲む一同。


 お父様は上座に腰かけ、その手紙をテーブルの上に置いた。


「本日、祖国から手紙が届いた。内容はこうだ」


 お父様の説明を聞いて、顔色がサッと暗くなる一同。


「……なんで奴だ」
 

 憎々しげな顔で、ノエルの父親はテーブルを叩く。

「今までは、我が祖国の王族として、あくまでもそう接してきたが。まだ我々のことを邪魔し、侮辱しようというのか。あの愚かな王子は!」

「落ち着いてくれ」

 と、ルークの父親。

「今はそう、かっかするべきときではない。問題は、王子からの手紙に書かれていた脅しに関してだ」

「そうね」

 と、ルークの母親は同意する。

「どこまでが本気で、何をするのかがわからないわ」

「もちろん、皆も祖国に戻る気はないのだろう?」

 ルークの父親の言葉に、全員大きく同意する。

「それなら尚更問題なのが、王子の報復だ」

「可能性としてあげられるのは」

 と、お父様。

「領地を奪う、もしくはーー」

「戦争か?」

 と、ノエルの父親。

「だがさすがに、一国の王子でそれはーー」

「最悪の事態を考えなければいけません」

 と、お母様。

「もしそうなってしまえば、私たちの問題ではなくなってしまいますし」

「既に色んなところを巻き込んでいますけどね」

 と、ノエルの母親。

「その考えはありだと思います。平気で娘に暴力を振るうような人間を許容する王族ですしね」


 まだ、彼女はノエルとクロエ王子妃殿下の事件を許してはいないらしい。


 当然だろう。

「よし、それでは」

 と、お父様は締めくくる。

「まずは我らの領地を保護しようーーそれから、もしもの場合に備えて国王陛下への相談の元、兵力を強化しようではないか」
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