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1.スパイシーなウッディ系の香り
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「由良、無理させてごめん」
腹痛のせいで、今日も朝からトイレに籠もりきりのオレに向かって、辰彦はずっと扉の前で謝ってくる。
低い声は罪悪感に震え、まるで自分が許されない罪を犯したかのような悲壮な声を上げている。
「ホント、ごめん。ちゃんと掻き出したつもりだったのに……」
扉の隙間から見える顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた。
普段の自信に満ちたαの姿からは想像できないほど弱々しい表情に、つい笑みが零れそうになる。
身長180cm越えの大男が、トイレの前でうろたえながら謝り続ける姿は、どこか滑稽で、でも愛おしかった。
「だ、じょ……ぶ、だから……辰彦、出勤……時間……」
オレは呻きながら、声を絞り出す。
腹はさっきからぐるぐると鳴り続け、刺すような痛みが断続的に襲ってくる。
腸の奥で蠢く不快感と、冷や汗が背中を伝う感覚に、歯を食いしばって耐える。
水みたいな便しか出ないし、治まったと思った瞬間、また排泄が促される。
「うぅ、本当にごめん……。今日は早く帰って来るから……欲しい物とか、必要な物があれば連絡して。あと、ヤバそうだったら電話して欲しい。すぐに帰ってくるから」
辰彦の声は切実で、扉の隙間から差し出された手がオレの手を求めている。
オレは差し出された手を押し返し、弱々しく手を振って「早く行け」と促すように手を振るので精一杯だった。
それなのに、辰彦はオレの指を絡め取り、まるで壊れ物を扱うようにそっと指先に口付けを落とす。
唇の熱さと、かすかに残る昨夜の情熱の匂いに、昨夜の記憶が呼び起こされる。
辰彦の舌が肌を這う感覚、熱く硬い彼のモノが奥を抉る快感が、腹の痛みと混ざり合い、複雑な疼きとなって心を乱す。
「んっ……わか、ったから……」
名残惜しいと言わんばかりにゆっくりと指が離れ、ようやく辰彦が出勤していく。
仕事中の辰彦しか知らない人が見たら、驚いて目を丸くし、固まってしまうと思う。
真面目で優秀なα、自信に満ちた鋭い目元とカリスマ性を放つ辰彦が、βでしかも男のオレの前では、こんなにも甘えたなんだから……
オレに対してすぐに泣きそうな顔をするし、オレが離れることを極端に嫌う。
オレが他の人と話していると、オレへの執着を全く隠すつもりがなく、雁字搦めに抱き締めてくる。
心配性で、オレが体調を崩すと仕事に行くのすら嫌がる。
「由良、動かないで。俺が全部やるから」
オレが熱を出したときなんて、ベッドに押し付けてきて、一歩も出してくれない。
心配そうな顔で、額に冷たいタオルを乗せる彼の姿を思い出すと、心が温かくなるのと同時に、切なくなる。
最初は、こんな辰彦の姿に驚いた。
こんな甘えた一面があるなんて、想像もしていなかったから。
辰彦とは大学で出会った。
軽い気持ちで、オレから告白した。
絶対にフラれると思っていたから、玉砕覚悟だった。
あの頃の辰彦とオレは、ただの格好いい先輩とひとつ下の後輩という関係なだけ。
βであるオレが告白しても、迷惑なだけだってわかっていたから……
辰彦は大学でも有名だったから……
α特有の自信に満ちた笑顔、αなのに努力家で、誰にでも優しくて……
人を引きつけるカリスマ性を持った特別な人。
当然、そんな辰彦に惹かれたのは、オレだけじゃない。
辰彦の周りにはたくさんの人が集まっていたし、告白されている姿を何度も目撃した。
みんなハッキリと断られて、失恋した仲間が集まって、飲み会が開催されていたのをオレは知っている。
だから……オレも絶対にフラれると思っていた。
それなのに、辰彦は平凡なβのオレを選んでくれた。
βで、平凡で、取り立てて目立つところもないオレを……
「僕も、由良が好きだ」と、真っ直ぐな瞳で言ってくれた。
あの瞬間を思い出すたび、今でも胸の奥が熱く疼く。
まさかあの告白から、こんなに深く、複雑に絡み合う関係になるとは思ってもみなかった。
オレは、辰彦の鋭い目元と、自信に満ちた笑顔に惹かれた。
短く整えられた少し硬めの黒髪に触れることを許されたのが嬉しかった。
オレより頭ひとつ分背の高い彼が、愛おしげにオレを見つめるその瞳。
大好きな、愛おしくてたまらない、オレの恋人。
でも、それが間違いだったのかもしれない。
オレはβだ。
オレは、αの辰彦と『番』になることなんて、最初からありえない。
「まさか、こんなに長く付き合うことになるとは思ってもみなかった……」
鏡の前でうなじを撫でながら呟いた言葉は、静かな部屋に吸い込まれるように消える。
肩まで伸びた柔らかな黒髪に、透明感のある白い肌。
少し垂れ気味の目元をした中性的な顔立ちの一般男性、それがオレだ。
大学時代はもうちょっと男らしかったはずだが、歳を重ねるごとに中性的な顔に変わっていった。
鏡に映る自分の姿を見つめながら、辰彦の視線がこの肌を、髪を、唇を愛おしげに撫でる瞬間を思い出す。
昨夜、彼の指がオレの首筋を這い、熱い吐息が耳元をくすぐったときの感覚が、身体に蘇る。
「はぁ……」
鏡に映ったオレの首元には、昨夜の辰彦との激しい行為の痕が生々しく残っている。
花弁のようなキスマークに、うなじに刻まれた辰彦の噛みついた跡。
赤く腫れた痕に指を這わせると、鈍い痛みが走り、同時に辰彦の歯が食い込む瞬間、熱く硬い彼のモノがオレの奥を突き上げる快感がフラッシュバックする。
「ン……」
目を閉じるだけで、辰彦の声が聞こえてくる気がした。
『由良、もっと感じて』
甘く切ない辰彦の声。
汗と愛液で滑る肌、結合部から響く淫靡な音が、頭の中でこだまする。
Ωなら、うなじを噛まれるたびに絆が深まり、身体も心も結ばれるのかもしれない。
でもオレはΩじゃないから何度噛まれようが、辰彦とオレの間には『番』としての絆は成立しない。
ただ痛みが残り、オレの身体が悲鳴を上げるだけの行為でしかない。
それでも、辰彦は執拗にうなじを噛んできては、愛おし気にその痕を舐めてくる。
彼の舌が赤く腫れた肌を這うたび、痛みと快感が交錯し、オレの心は揺れる。
『由良は、僕のものだろ?』
囁く辰彦の声が脳裏に思い出され、身体が勝手に反応してしまう。
痛いだけの行為のはずなのに、辰彦が熱い視線でオレを見つめてくるたび、心のどこかで喜びを感じてしまっている。
こんな関係は間違っているってわかっているけど、辰彦の愛を拒むことなんてできない。
「オレはβだから、どれだけお前に愛されても……Ωにはなれないよ。早く、こんなこと……やめなきゃいけないのに、な……」
辰彦が噛んだうなじの痕を撫でながら、ため息と共に呟く。
オレも、諦めが悪いなぁ……
わかってるはずなのに、踏ん切りがつかないなんて……
辰彦が洗濯してくれたふわふわのタオルで顔を拭き、冷蔵庫から炭酸水を取り出す。
冷たい炭酸水を一気に飲み干し、喉の渇きを癒しながら、ソファにどさりと腰を下ろす。
「ほんと、今日は休みにしててよかった……」
ホッと一息つくと同時に、事前に準備をしていた自分を褒める。
今もまだ、 腹の痛みが完全に引いたわけじゃない。
気を抜くと、また腹の奥がゴロゴロ鳴り出し、トイレに駆け込むことになると思う。
だから今は、重い身体をソファに沈み込ませ、窓から差し込む朝の光を目を細めて眺める。
少しでも身体を休めるため……トイレで消耗してしまった体力を温存するために……
今日は、こうなることが予想できていたから、仕事を休んだ。
最近、辰彦に身体を求められると、翌日こうなることが多いから……
嫌じゃないけど、頻度が増えるとさすがに仕事に支障をきたすから困ってしまう。
不意にスマホが震え、メッセージが表示される。
『由良、大丈夫?仕事終わったらすぐ帰るから。なんか必要なものあったら言って欲しい』
短い文面なのに、辰彦の心配そうな声が聞こえてくるようだ。
オレは一瞬、笑みを浮かべそうになるが、すぐに唇を引き締める。
こんな風に優しくされるから、余計に離れられなくなる。
こんな風に愛されるから、いつか来る別れの瞬間が怖くなる。
最近は、こんなことばかり、考えてしまう。
辰彦の笑顔、熱い抱擁、汗と混ざった彼の匂い。
すべてがオレを縛り、自由を奪う。
辰彦に返信を打とうと指を動かしかけたとき、ふと目に入ったのは、ソファの隅に置きっぱなしの辰彦のジャケットだった。
黒い生地に、ほのかに残る彼の匂い。
スパイシーなウッディ系の香り。
シダーウッドのような落ち着いた匂いのなかに、ほのかに燃えるようなカルダモンやブラックペッパーが混じった匂い。
オレの大好きな香り……
そんな匂いに吸い寄せられるようにジャケットを手に取り、胸に抱きしめる。
抱きしめているだけで、辰彦の広い胸に抱かれているような錯覚に、身体が熱くなる。
こんな小さなことで心が揺れるなんて、オレってほんとバカだな……
「辰彦のバカ……こんな関係、続けられるわけないのに……」
呟きながらジャケットを顔に押し当てると、涙が滲んだ。
泣くつもりなんてなかったのに。
こんな情けない自分を見られたら、辰彦はきっとまた困った顔をするだろう。
オレがこんな気分でも、辰彦はきっと笑って「由良、可愛いよ」なんて囁きながら、オレを抱きしめてくれるに違いない。
腹痛のせいで、今日も朝からトイレに籠もりきりのオレに向かって、辰彦はずっと扉の前で謝ってくる。
低い声は罪悪感に震え、まるで自分が許されない罪を犯したかのような悲壮な声を上げている。
「ホント、ごめん。ちゃんと掻き出したつもりだったのに……」
扉の隙間から見える顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた。
普段の自信に満ちたαの姿からは想像できないほど弱々しい表情に、つい笑みが零れそうになる。
身長180cm越えの大男が、トイレの前でうろたえながら謝り続ける姿は、どこか滑稽で、でも愛おしかった。
「だ、じょ……ぶ、だから……辰彦、出勤……時間……」
オレは呻きながら、声を絞り出す。
腹はさっきからぐるぐると鳴り続け、刺すような痛みが断続的に襲ってくる。
腸の奥で蠢く不快感と、冷や汗が背中を伝う感覚に、歯を食いしばって耐える。
水みたいな便しか出ないし、治まったと思った瞬間、また排泄が促される。
「うぅ、本当にごめん……。今日は早く帰って来るから……欲しい物とか、必要な物があれば連絡して。あと、ヤバそうだったら電話して欲しい。すぐに帰ってくるから」
辰彦の声は切実で、扉の隙間から差し出された手がオレの手を求めている。
オレは差し出された手を押し返し、弱々しく手を振って「早く行け」と促すように手を振るので精一杯だった。
それなのに、辰彦はオレの指を絡め取り、まるで壊れ物を扱うようにそっと指先に口付けを落とす。
唇の熱さと、かすかに残る昨夜の情熱の匂いに、昨夜の記憶が呼び起こされる。
辰彦の舌が肌を這う感覚、熱く硬い彼のモノが奥を抉る快感が、腹の痛みと混ざり合い、複雑な疼きとなって心を乱す。
「んっ……わか、ったから……」
名残惜しいと言わんばかりにゆっくりと指が離れ、ようやく辰彦が出勤していく。
仕事中の辰彦しか知らない人が見たら、驚いて目を丸くし、固まってしまうと思う。
真面目で優秀なα、自信に満ちた鋭い目元とカリスマ性を放つ辰彦が、βでしかも男のオレの前では、こんなにも甘えたなんだから……
オレに対してすぐに泣きそうな顔をするし、オレが離れることを極端に嫌う。
オレが他の人と話していると、オレへの執着を全く隠すつもりがなく、雁字搦めに抱き締めてくる。
心配性で、オレが体調を崩すと仕事に行くのすら嫌がる。
「由良、動かないで。俺が全部やるから」
オレが熱を出したときなんて、ベッドに押し付けてきて、一歩も出してくれない。
心配そうな顔で、額に冷たいタオルを乗せる彼の姿を思い出すと、心が温かくなるのと同時に、切なくなる。
最初は、こんな辰彦の姿に驚いた。
こんな甘えた一面があるなんて、想像もしていなかったから。
辰彦とは大学で出会った。
軽い気持ちで、オレから告白した。
絶対にフラれると思っていたから、玉砕覚悟だった。
あの頃の辰彦とオレは、ただの格好いい先輩とひとつ下の後輩という関係なだけ。
βであるオレが告白しても、迷惑なだけだってわかっていたから……
辰彦は大学でも有名だったから……
α特有の自信に満ちた笑顔、αなのに努力家で、誰にでも優しくて……
人を引きつけるカリスマ性を持った特別な人。
当然、そんな辰彦に惹かれたのは、オレだけじゃない。
辰彦の周りにはたくさんの人が集まっていたし、告白されている姿を何度も目撃した。
みんなハッキリと断られて、失恋した仲間が集まって、飲み会が開催されていたのをオレは知っている。
だから……オレも絶対にフラれると思っていた。
それなのに、辰彦は平凡なβのオレを選んでくれた。
βで、平凡で、取り立てて目立つところもないオレを……
「僕も、由良が好きだ」と、真っ直ぐな瞳で言ってくれた。
あの瞬間を思い出すたび、今でも胸の奥が熱く疼く。
まさかあの告白から、こんなに深く、複雑に絡み合う関係になるとは思ってもみなかった。
オレは、辰彦の鋭い目元と、自信に満ちた笑顔に惹かれた。
短く整えられた少し硬めの黒髪に触れることを許されたのが嬉しかった。
オレより頭ひとつ分背の高い彼が、愛おしげにオレを見つめるその瞳。
大好きな、愛おしくてたまらない、オレの恋人。
でも、それが間違いだったのかもしれない。
オレはβだ。
オレは、αの辰彦と『番』になることなんて、最初からありえない。
「まさか、こんなに長く付き合うことになるとは思ってもみなかった……」
鏡の前でうなじを撫でながら呟いた言葉は、静かな部屋に吸い込まれるように消える。
肩まで伸びた柔らかな黒髪に、透明感のある白い肌。
少し垂れ気味の目元をした中性的な顔立ちの一般男性、それがオレだ。
大学時代はもうちょっと男らしかったはずだが、歳を重ねるごとに中性的な顔に変わっていった。
鏡に映る自分の姿を見つめながら、辰彦の視線がこの肌を、髪を、唇を愛おしげに撫でる瞬間を思い出す。
昨夜、彼の指がオレの首筋を這い、熱い吐息が耳元をくすぐったときの感覚が、身体に蘇る。
「はぁ……」
鏡に映ったオレの首元には、昨夜の辰彦との激しい行為の痕が生々しく残っている。
花弁のようなキスマークに、うなじに刻まれた辰彦の噛みついた跡。
赤く腫れた痕に指を這わせると、鈍い痛みが走り、同時に辰彦の歯が食い込む瞬間、熱く硬い彼のモノがオレの奥を突き上げる快感がフラッシュバックする。
「ン……」
目を閉じるだけで、辰彦の声が聞こえてくる気がした。
『由良、もっと感じて』
甘く切ない辰彦の声。
汗と愛液で滑る肌、結合部から響く淫靡な音が、頭の中でこだまする。
Ωなら、うなじを噛まれるたびに絆が深まり、身体も心も結ばれるのかもしれない。
でもオレはΩじゃないから何度噛まれようが、辰彦とオレの間には『番』としての絆は成立しない。
ただ痛みが残り、オレの身体が悲鳴を上げるだけの行為でしかない。
それでも、辰彦は執拗にうなじを噛んできては、愛おし気にその痕を舐めてくる。
彼の舌が赤く腫れた肌を這うたび、痛みと快感が交錯し、オレの心は揺れる。
『由良は、僕のものだろ?』
囁く辰彦の声が脳裏に思い出され、身体が勝手に反応してしまう。
痛いだけの行為のはずなのに、辰彦が熱い視線でオレを見つめてくるたび、心のどこかで喜びを感じてしまっている。
こんな関係は間違っているってわかっているけど、辰彦の愛を拒むことなんてできない。
「オレはβだから、どれだけお前に愛されても……Ωにはなれないよ。早く、こんなこと……やめなきゃいけないのに、な……」
辰彦が噛んだうなじの痕を撫でながら、ため息と共に呟く。
オレも、諦めが悪いなぁ……
わかってるはずなのに、踏ん切りがつかないなんて……
辰彦が洗濯してくれたふわふわのタオルで顔を拭き、冷蔵庫から炭酸水を取り出す。
冷たい炭酸水を一気に飲み干し、喉の渇きを癒しながら、ソファにどさりと腰を下ろす。
「ほんと、今日は休みにしててよかった……」
ホッと一息つくと同時に、事前に準備をしていた自分を褒める。
今もまだ、 腹の痛みが完全に引いたわけじゃない。
気を抜くと、また腹の奥がゴロゴロ鳴り出し、トイレに駆け込むことになると思う。
だから今は、重い身体をソファに沈み込ませ、窓から差し込む朝の光を目を細めて眺める。
少しでも身体を休めるため……トイレで消耗してしまった体力を温存するために……
今日は、こうなることが予想できていたから、仕事を休んだ。
最近、辰彦に身体を求められると、翌日こうなることが多いから……
嫌じゃないけど、頻度が増えるとさすがに仕事に支障をきたすから困ってしまう。
不意にスマホが震え、メッセージが表示される。
『由良、大丈夫?仕事終わったらすぐ帰るから。なんか必要なものあったら言って欲しい』
短い文面なのに、辰彦の心配そうな声が聞こえてくるようだ。
オレは一瞬、笑みを浮かべそうになるが、すぐに唇を引き締める。
こんな風に優しくされるから、余計に離れられなくなる。
こんな風に愛されるから、いつか来る別れの瞬間が怖くなる。
最近は、こんなことばかり、考えてしまう。
辰彦の笑顔、熱い抱擁、汗と混ざった彼の匂い。
すべてがオレを縛り、自由を奪う。
辰彦に返信を打とうと指を動かしかけたとき、ふと目に入ったのは、ソファの隅に置きっぱなしの辰彦のジャケットだった。
黒い生地に、ほのかに残る彼の匂い。
スパイシーなウッディ系の香り。
シダーウッドのような落ち着いた匂いのなかに、ほのかに燃えるようなカルダモンやブラックペッパーが混じった匂い。
オレの大好きな香り……
そんな匂いに吸い寄せられるようにジャケットを手に取り、胸に抱きしめる。
抱きしめているだけで、辰彦の広い胸に抱かれているような錯覚に、身体が熱くなる。
こんな小さなことで心が揺れるなんて、オレってほんとバカだな……
「辰彦のバカ……こんな関係、続けられるわけないのに……」
呟きながらジャケットを顔に押し当てると、涙が滲んだ。
泣くつもりなんてなかったのに。
こんな情けない自分を見られたら、辰彦はきっとまた困った顔をするだろう。
オレがこんな気分でも、辰彦はきっと笑って「由良、可愛いよ」なんて囁きながら、オレを抱きしめてくれるに違いない。
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