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2章
2章79話(180話)
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そして、休みの日。私とアル兄様、シー兄様、ヴィニー殿下でファロン家の産婆をしていたという女性に会いに行った。
その家を見た時に、小さな家だなと思った。ファロン家の屋敷よりも小さい。まるで隠れているような……ひっそりとした佇まいの家で、どうしてこんなところに住んでいるのだろうと考えているとシー兄様が扉をノックした。
「……誰だい?」
「初めまして、ミセス。少々お尋ねしたいことがあるのですが……」
扉を小さく開いて恐る恐るというように顔を見せる女性。……彼女が、産婆?
「なんだい、あんたたち……? ……っ、そ、の……子は……」
眉を顰めて確認するように私たちを回し見て、私の存在に気付くとひゅっと息を飲んだ。シー兄様はがしっと玄関の戸を掴んで、彼女に向けてこう言った。
「うちの可愛い妹の件で、聞きたいことがあるんだ」
「い、妹……!?」
「協力してくれるよね、ミセス?」
すっとヴィニー殿下が一歩前に出て、なにかを取り出した。それを見た彼女は可哀想になるくらい青ざめて「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
「お、王族……!?」
……王族の証でも見せたのかしら。彼女はふらふらとしながらも、なんとか私たちを家に入れてくれた。アル兄様が少し肩をすくめたのが見えた。
「怯えさせてどうするのさ」
「仕方ないじゃないか、こうでもしないと中に入れてくれなかっただろうし」
ひそひそと話すアル兄様とヴィニー殿下に、私は眉を下げるしか出来なかった。……私を見て、彼女は驚いたような表情を浮かべたけれど……、それは、私の銀色の髪と黄金の瞳を見たからなのか……それとも、別の理由があるのか……。
「こ、高位貴族に出すには……あまりに安いお茶ですが……」
「あ、お気遣いなく」
そう言いつつもシー兄様は率先してお茶を飲み、アル兄様とヴィニー殿下に向けて小さく首を縦に動かした。……毒味を、したようだった。
「……それで、この老いぼれになんの用でしょうか」
「……さっき、僕の妹を見て驚いていたよね。誰かに似ていた?」
アル兄様がいきなりそんなことを言った。彼女はさっと視線を逸らす。……その誰か、が気になるところね。ジェリーなのか、……別の人なのか。
「……なにが知りたいんだい……」
「アカデミーに在籍しているジェリー・ブライトが……ファロン家の子ではないかということを」
私の言葉に、ばっと顔を上げて私を見つめる女性。……その表情は怯えを含んでいて……思わず首を傾げてしまった。
「ジェリー・ブライトがアカデミーに入学していた……!?」
そう口にして、しまったとばかりに口を手で塞ぐ彼女に、アル兄様が視線を送り続ける。その視線に負けたのか、彼女はゆっくりと息を吐いて「……そうか」と呟いた。
「表に出てしまったのか……」
……ジェリーがアカデミーに通っていることを知らなかった……?
「あなたがファロン家で産婆をしていたことは知っている。僕らが求めるのは、真実だ。そのために、あなたの血を一滴いただきたい」
アル兄様の真剣な表情に、「血……?」と怪訝そうな表情を浮かべる彼女。アル兄様はこくりとうなずく。
「僕の名はアルフレッド・アンダーソン。巫子の力を継いでいる」
「あ、アンダーソン公爵家……!」
「そう。二年前に、ファロン家の少女を養子に迎えたアンダーソン家の者だ」
シー兄様がちらりと私に視線を向けた。彼女は苦し気に胸元に手を置いて、服をぎゅっと握った。
「……僕の魔法で、あなたの過去を見たい。なぜ、『ジェリー』が生きているのかを、確認したいんだ」
そう言って一枚の紙を取り出す。アル兄様の作り上げた魔法の力を、私は身をもって知っている。女性は、迷うように視線をあちこちに飛ばし、……観念したように小さくうなずいた。
「協力、感謝します。それじゃあ、一滴いただきますね」
針を取り出して、差し出された手にぷすっと刺し、その血が紙に落ちた。アル兄様が紙に向けて魔力を込めると、辺りがぼやけ始めた。――『血の記憶』が始まる。
その家を見た時に、小さな家だなと思った。ファロン家の屋敷よりも小さい。まるで隠れているような……ひっそりとした佇まいの家で、どうしてこんなところに住んでいるのだろうと考えているとシー兄様が扉をノックした。
「……誰だい?」
「初めまして、ミセス。少々お尋ねしたいことがあるのですが……」
扉を小さく開いて恐る恐るというように顔を見せる女性。……彼女が、産婆?
「なんだい、あんたたち……? ……っ、そ、の……子は……」
眉を顰めて確認するように私たちを回し見て、私の存在に気付くとひゅっと息を飲んだ。シー兄様はがしっと玄関の戸を掴んで、彼女に向けてこう言った。
「うちの可愛い妹の件で、聞きたいことがあるんだ」
「い、妹……!?」
「協力してくれるよね、ミセス?」
すっとヴィニー殿下が一歩前に出て、なにかを取り出した。それを見た彼女は可哀想になるくらい青ざめて「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
「お、王族……!?」
……王族の証でも見せたのかしら。彼女はふらふらとしながらも、なんとか私たちを家に入れてくれた。アル兄様が少し肩をすくめたのが見えた。
「怯えさせてどうするのさ」
「仕方ないじゃないか、こうでもしないと中に入れてくれなかっただろうし」
ひそひそと話すアル兄様とヴィニー殿下に、私は眉を下げるしか出来なかった。……私を見て、彼女は驚いたような表情を浮かべたけれど……、それは、私の銀色の髪と黄金の瞳を見たからなのか……それとも、別の理由があるのか……。
「こ、高位貴族に出すには……あまりに安いお茶ですが……」
「あ、お気遣いなく」
そう言いつつもシー兄様は率先してお茶を飲み、アル兄様とヴィニー殿下に向けて小さく首を縦に動かした。……毒味を、したようだった。
「……それで、この老いぼれになんの用でしょうか」
「……さっき、僕の妹を見て驚いていたよね。誰かに似ていた?」
アル兄様がいきなりそんなことを言った。彼女はさっと視線を逸らす。……その誰か、が気になるところね。ジェリーなのか、……別の人なのか。
「……なにが知りたいんだい……」
「アカデミーに在籍しているジェリー・ブライトが……ファロン家の子ではないかということを」
私の言葉に、ばっと顔を上げて私を見つめる女性。……その表情は怯えを含んでいて……思わず首を傾げてしまった。
「ジェリー・ブライトがアカデミーに入学していた……!?」
そう口にして、しまったとばかりに口を手で塞ぐ彼女に、アル兄様が視線を送り続ける。その視線に負けたのか、彼女はゆっくりと息を吐いて「……そうか」と呟いた。
「表に出てしまったのか……」
……ジェリーがアカデミーに通っていることを知らなかった……?
「あなたがファロン家で産婆をしていたことは知っている。僕らが求めるのは、真実だ。そのために、あなたの血を一滴いただきたい」
アル兄様の真剣な表情に、「血……?」と怪訝そうな表情を浮かべる彼女。アル兄様はこくりとうなずく。
「僕の名はアルフレッド・アンダーソン。巫子の力を継いでいる」
「あ、アンダーソン公爵家……!」
「そう。二年前に、ファロン家の少女を養子に迎えたアンダーソン家の者だ」
シー兄様がちらりと私に視線を向けた。彼女は苦し気に胸元に手を置いて、服をぎゅっと握った。
「……僕の魔法で、あなたの過去を見たい。なぜ、『ジェリー』が生きているのかを、確認したいんだ」
そう言って一枚の紙を取り出す。アル兄様の作り上げた魔法の力を、私は身をもって知っている。女性は、迷うように視線をあちこちに飛ばし、……観念したように小さくうなずいた。
「協力、感謝します。それじゃあ、一滴いただきますね」
針を取り出して、差し出された手にぷすっと刺し、その血が紙に落ちた。アル兄様が紙に向けて魔力を込めると、辺りがぼやけ始めた。――『血の記憶』が始まる。
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