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2章
2章86話(187話)
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「……ええと、それはどういうことだい?」
シー兄様が困惑したように眉を下げてソルとルーナに尋ねた。ソルとルーナは顔を見合わせて、淡々とカナリーン王国のことについて話し始めた。
「カナリーン王国は、人間の男性と月の女神が結婚して出来た国」
「ふたりの子が初代の王様」
「ソルとルーナは、月の女神がカナリーン王国を見守るものとして作り出した、精霊」
「ソルは太陽、ルーナは月。朝も夜もずっと見守っていた」
……ちょっと待って、人間の男性と月の女神が結婚して出来た国? 多分、みんな考えていることは同じだろう。困惑していると、さらに言葉が続いた。
「月の女神の瞳は宝石眼、髪の色は銀色」
「人間の男性の瞳の色は黄金。……そう。エリザベスみたいに」
ルーナがぴょんと私の胸元に飛び込んできたので、慌てて抱きとめる。ふわふわとした毛並みが震えていた。
ソルがちらりとこちらを見て、私に近付いて来た。ソルの頭を撫でると、どこかホッとしたように、大人しく撫でられていた。
「……なんか、壮大な話だね……?」
アル兄様がソルたちに向かいそう言葉を掛けると、シェイドが困惑しているようにうろうろと左右に身体を動かす。ヴィニー殿下が「落ち着いて」とシェイドに触れたけれど、今度はピンと伸びてしまった。
「……僕らはカナリーン王国についてなにも知らないからね。生まれる前に滅んだ国だし……」
「ソフィアさんが誕生から滅亡まで知っているみたいだけど……」
「それは」
「そうだろう」
ルーナが顔を上げ、ソルも私をじっと見て肯定した。ソルとルーナは、ソフィアさんのことも知っているのかな?
「ソフィアは長生きだもん」
「エルフだからな」
うんうん、とうなずき合うソルとルーナに、昔からの付き合いを感じる。……ソフィアさん、そんなことは言っていなかったような……。精霊たちが言うのを待っていた、のかもしれない。
「……カナリーン王国が、魔法に特化していたのって、そういう理由があるからなのか?」
シー兄様がそう尋ねると、ルーナが私の胸元からぴょんと跳んでテーブルに着地した。そして、精霊たちは顔を見合わせて、
「……多分?」
頭を傾げた。……可愛らしい仕草ではあるのだけれど、言葉は曖昧なのね……。
「カナリーン王国での事例しか知らない」
「他の国の成り立ちは知らない」
「人間界のことはよくわからない」
……精霊たちにとっても、この世界のことはよくわからない、ということなのかしら?
「……でも、カナリーン王国のことを知っているのなら、どうして教えてくれなかったの?」
私が眉を下げて尋ねると、今度はしゅんとしたように頭を下げてしまった。
「……だって、カナリーン王国はもうないし」
「エリザベスに余計なことを言いたくなかったし」
「……ソルとルーナにとって、カナリーン王国は大切にしたい思い出であると共に、苦い思い出の場所でもあるから……」
シェイドの言葉に、ソルとルーナはぎっとシェイドを睨みつけた。びくっとシェイドが固まり、隠れるようにヴィニー殿下の影へと潜る。それを見たヴィニー殿下は肩をすくめた。
「ええと、とりあえず、話をまとめようよ。混乱して来た」
「……そうですね」
ヴィニー殿下の提案に私たちは賛成して、今日のことをまとめた。
まず、ジェリー・ブライトはジェリー・ファロンであったこと。……そうだとすれば、二年前に見たあの人型のもやは、マザー・シャドウが仕組んだことだと結論付けられる。アル兄様はずっと疑問に思っていたらしい。赤ん坊の頃に亡くなったのなら、言葉を話せるのはおかしいのではないか、と。
そして、ジェリーの身体にはマザー・シャドウの魂が宿っていること。……マザー・シャドウがなぜ私に悪意をぶつけて来るのかはわからないけれど……。……あの呪いの書は彼女が持っていると考えて間違いないだろう。……どうやって持ち運んでいたのかしら。あれは王族じゃないと持てないと言われているようだけど……。……素手で、と言っていたから、布に包めば持ち運びできるのかしら? 新たな疑問が生まれてしまった。
……さらに、カナリーン王国のこと。人間の男性と、月の女神が結婚して出来た国。……ロマンチックではあるけれど、さすがに実感がわかない。そういう物語はありそうよね。……物語のような話だから……余計にそう思うのかもしれない。
そしてソルとルーナが月の女神に作られた精霊であること。……私がカナリーン王国の王族の血を引いているから、契約してくれたのかな……? なんて思ったりもしたけれど……。カナリーン王国のことを話すソルとルーナは辛そうだったから、それ以上のことは言及しなかった。
シー兄様が困惑したように眉を下げてソルとルーナに尋ねた。ソルとルーナは顔を見合わせて、淡々とカナリーン王国のことについて話し始めた。
「カナリーン王国は、人間の男性と月の女神が結婚して出来た国」
「ふたりの子が初代の王様」
「ソルとルーナは、月の女神がカナリーン王国を見守るものとして作り出した、精霊」
「ソルは太陽、ルーナは月。朝も夜もずっと見守っていた」
……ちょっと待って、人間の男性と月の女神が結婚して出来た国? 多分、みんな考えていることは同じだろう。困惑していると、さらに言葉が続いた。
「月の女神の瞳は宝石眼、髪の色は銀色」
「人間の男性の瞳の色は黄金。……そう。エリザベスみたいに」
ルーナがぴょんと私の胸元に飛び込んできたので、慌てて抱きとめる。ふわふわとした毛並みが震えていた。
ソルがちらりとこちらを見て、私に近付いて来た。ソルの頭を撫でると、どこかホッとしたように、大人しく撫でられていた。
「……なんか、壮大な話だね……?」
アル兄様がソルたちに向かいそう言葉を掛けると、シェイドが困惑しているようにうろうろと左右に身体を動かす。ヴィニー殿下が「落ち着いて」とシェイドに触れたけれど、今度はピンと伸びてしまった。
「……僕らはカナリーン王国についてなにも知らないからね。生まれる前に滅んだ国だし……」
「ソフィアさんが誕生から滅亡まで知っているみたいだけど……」
「それは」
「そうだろう」
ルーナが顔を上げ、ソルも私をじっと見て肯定した。ソルとルーナは、ソフィアさんのことも知っているのかな?
「ソフィアは長生きだもん」
「エルフだからな」
うんうん、とうなずき合うソルとルーナに、昔からの付き合いを感じる。……ソフィアさん、そんなことは言っていなかったような……。精霊たちが言うのを待っていた、のかもしれない。
「……カナリーン王国が、魔法に特化していたのって、そういう理由があるからなのか?」
シー兄様がそう尋ねると、ルーナが私の胸元からぴょんと跳んでテーブルに着地した。そして、精霊たちは顔を見合わせて、
「……多分?」
頭を傾げた。……可愛らしい仕草ではあるのだけれど、言葉は曖昧なのね……。
「カナリーン王国での事例しか知らない」
「他の国の成り立ちは知らない」
「人間界のことはよくわからない」
……精霊たちにとっても、この世界のことはよくわからない、ということなのかしら?
「……でも、カナリーン王国のことを知っているのなら、どうして教えてくれなかったの?」
私が眉を下げて尋ねると、今度はしゅんとしたように頭を下げてしまった。
「……だって、カナリーン王国はもうないし」
「エリザベスに余計なことを言いたくなかったし」
「……ソルとルーナにとって、カナリーン王国は大切にしたい思い出であると共に、苦い思い出の場所でもあるから……」
シェイドの言葉に、ソルとルーナはぎっとシェイドを睨みつけた。びくっとシェイドが固まり、隠れるようにヴィニー殿下の影へと潜る。それを見たヴィニー殿下は肩をすくめた。
「ええと、とりあえず、話をまとめようよ。混乱して来た」
「……そうですね」
ヴィニー殿下の提案に私たちは賛成して、今日のことをまとめた。
まず、ジェリー・ブライトはジェリー・ファロンであったこと。……そうだとすれば、二年前に見たあの人型のもやは、マザー・シャドウが仕組んだことだと結論付けられる。アル兄様はずっと疑問に思っていたらしい。赤ん坊の頃に亡くなったのなら、言葉を話せるのはおかしいのではないか、と。
そして、ジェリーの身体にはマザー・シャドウの魂が宿っていること。……マザー・シャドウがなぜ私に悪意をぶつけて来るのかはわからないけれど……。……あの呪いの書は彼女が持っていると考えて間違いないだろう。……どうやって持ち運んでいたのかしら。あれは王族じゃないと持てないと言われているようだけど……。……素手で、と言っていたから、布に包めば持ち運びできるのかしら? 新たな疑問が生まれてしまった。
……さらに、カナリーン王国のこと。人間の男性と、月の女神が結婚して出来た国。……ロマンチックではあるけれど、さすがに実感がわかない。そういう物語はありそうよね。……物語のような話だから……余計にそう思うのかもしれない。
そしてソルとルーナが月の女神に作られた精霊であること。……私がカナリーン王国の王族の血を引いているから、契約してくれたのかな……? なんて思ったりもしたけれど……。カナリーン王国のことを話すソルとルーナは辛そうだったから、それ以上のことは言及しなかった。
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