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2章
2章88話(189話)
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私とシー兄様は宝石店へ、アル兄様とヴィニー殿下は王宮へ。それぞれ顔を見合わせて、うなずき合ってから歩を進めた。
「……リザ、大丈夫かい?」
「……ええ、シー兄様こそ、大丈夫ですか?」
シー兄様を見上げてそう問うと、シー兄様は目尻を下げて微笑み、私の頭をポンと撫でてくれた。
「アルのほうが心配だな」
「……ですね」
「……二年経っても中々敬語取れないね」
「……えっ? あっ……」
思わず自分の口元を手で隠すように覆う。そんな私を見て、シー兄様が肩をすくめた。それから、口を覆った私の手を取って宝石店へと足を運ぶ。
「まぁ、オレは屋敷にあんまりいなかったからなぁ」
「……騎士団のお仕事だったから……」
「妹との時間を取れなくて残念だったよ、あの頃は」
思い出しているのか、すっと目元を細めた。
シー兄様は、あの頃すでに騎士団に所属していて、魔物討伐の要請があればどこにでも行っていた記憶がある。アカデミーを守る騎士になったのは、アル兄様を支えるため、かな?
「シー兄様は……」
「うん?」
「……その、自分の将来を、いつ決めたのかなって……」
「将来? んー、元々オレ、戦うほうが好きだったんだよ。好きって言うのもおかしいな。戦闘狂ではないからね。身体を動かしているほうが楽というか……。……アカデミーを飛び級したのだって、本当は座学が苦手だったからだしね」
その言葉を聞いて私は目をぱちぱちと瞬かせた。シー兄様がアカデミーを飛び級したのは、アル兄様のためではなかったの? 思わずシー兄様を凝視すると、きまり悪そうに頬を掻いているのが見えた。
「飛び級してから騎士団に入団したのですか?」
「んー……、オレの場合、スカウトされたからって言うのもあるかな。アカデミーで剣術大会があって……オレが優勝したんだ。上級生も参加していたけど」
……その当時からシー兄様は強かったのね……!
戦っている最中のシー兄様は見たことがない。アル兄様やエドと剣を交えている時は、指導という感じだったし……。
「人には向き不向きがあるから……。ま、一番は自分が好きなことを選べたら良いよな。リザは、将来を悩んでいるのか?」
「……はい。この二年間は公爵令嬢として振る舞えるように努力してきました。……でも、私がなにになりたいかは、わからないの……」
「……そっか。アンダーソン家の令嬢として頑張ってくれていることは知っていたけど……、将来を見据える暇はなかったんだな」
たまに屋敷に帰って来ては、私たちを甘やかしてくれたシー兄様。シー兄様は難しい顔をしていたけれど、宝石店についたので一度この話題を切り上げた。……私、シー兄様に相談したかったのかな、と言葉にしてから思った。
自分の道を歩んでいるシー兄様になら、と……。
「話してくれてありがとうな、リザ。あとでまた、ゆっくり話そう」
「聞いて頂けただけでも、少しスッキリしました」
「そう? それなら良かった」
にこりと微笑みを浮かべると、シー兄様はどこか安堵したように息を吐いた。
宝石店に入り、宝石を眺める。サファイア、ルビー、……アメジスト。煌めく宝石たちを眺めていると、視線を感じた。……いいえ、これは私への視線ではなくて、シー兄様への視線ね。わかるわ、シー兄様も格好良いもの。……『も』? 私は一体、誰と比べたのかしら……?
「リザ、これとこれ、どっちがいいと思う?」
「え、えっと、シー兄様はどちらが良いと思いますか?」
「オレ? そうだな、オレはこっちかな」
……なら、反対側を選んだほうが良さそうね。シー兄様が私に見せたのは、サファイアだった。どちらもとても澄んでいるように見えるけれど、こういう時にはアル兄様の教えに添って反対を選ぶ。魔力を込めるのに適している宝石が手に入る……と、思う。
それから私たちは、宝石を巡りに巡ってから帰った。カインから買って来てもらったのも、まだ少し残っている。
「宝石って不思議だよな」
「シー兄様?」
「原石とは想像もつかない輝きを放つから。……そういう意味では、リザはまだ原石なのかもしれないな」
「私が、原石?」
「そう。リザがどんな道を歩むのかわからないけれど、その時には宝石になっていそうだなぁ……」
……そうだったらいいな。私という個人が、どんな煌めきを放つ宝石になれるのか……楽しみ。……楽しみと思えるくらいには、成長していると信じたい。
私が一番、自分を信じられていないのかもしれないわね……。
「全部アミュレットにするのか?」
「う~ん。さすがに全部はちょっと難しいかも……」
「そっか。じゃあ、リザがアミュレットの作り方を教えたら良いんじゃないかな?」
シー兄様の提案に、私は思わずシー兄様の手を握り「その案、いただきます!」と目を輝かせた。
「……リザ、大丈夫かい?」
「……ええ、シー兄様こそ、大丈夫ですか?」
シー兄様を見上げてそう問うと、シー兄様は目尻を下げて微笑み、私の頭をポンと撫でてくれた。
「アルのほうが心配だな」
「……ですね」
「……二年経っても中々敬語取れないね」
「……えっ? あっ……」
思わず自分の口元を手で隠すように覆う。そんな私を見て、シー兄様が肩をすくめた。それから、口を覆った私の手を取って宝石店へと足を運ぶ。
「まぁ、オレは屋敷にあんまりいなかったからなぁ」
「……騎士団のお仕事だったから……」
「妹との時間を取れなくて残念だったよ、あの頃は」
思い出しているのか、すっと目元を細めた。
シー兄様は、あの頃すでに騎士団に所属していて、魔物討伐の要請があればどこにでも行っていた記憶がある。アカデミーを守る騎士になったのは、アル兄様を支えるため、かな?
「シー兄様は……」
「うん?」
「……その、自分の将来を、いつ決めたのかなって……」
「将来? んー、元々オレ、戦うほうが好きだったんだよ。好きって言うのもおかしいな。戦闘狂ではないからね。身体を動かしているほうが楽というか……。……アカデミーを飛び級したのだって、本当は座学が苦手だったからだしね」
その言葉を聞いて私は目をぱちぱちと瞬かせた。シー兄様がアカデミーを飛び級したのは、アル兄様のためではなかったの? 思わずシー兄様を凝視すると、きまり悪そうに頬を掻いているのが見えた。
「飛び級してから騎士団に入団したのですか?」
「んー……、オレの場合、スカウトされたからって言うのもあるかな。アカデミーで剣術大会があって……オレが優勝したんだ。上級生も参加していたけど」
……その当時からシー兄様は強かったのね……!
戦っている最中のシー兄様は見たことがない。アル兄様やエドと剣を交えている時は、指導という感じだったし……。
「人には向き不向きがあるから……。ま、一番は自分が好きなことを選べたら良いよな。リザは、将来を悩んでいるのか?」
「……はい。この二年間は公爵令嬢として振る舞えるように努力してきました。……でも、私がなにになりたいかは、わからないの……」
「……そっか。アンダーソン家の令嬢として頑張ってくれていることは知っていたけど……、将来を見据える暇はなかったんだな」
たまに屋敷に帰って来ては、私たちを甘やかしてくれたシー兄様。シー兄様は難しい顔をしていたけれど、宝石店についたので一度この話題を切り上げた。……私、シー兄様に相談したかったのかな、と言葉にしてから思った。
自分の道を歩んでいるシー兄様になら、と……。
「話してくれてありがとうな、リザ。あとでまた、ゆっくり話そう」
「聞いて頂けただけでも、少しスッキリしました」
「そう? それなら良かった」
にこりと微笑みを浮かべると、シー兄様はどこか安堵したように息を吐いた。
宝石店に入り、宝石を眺める。サファイア、ルビー、……アメジスト。煌めく宝石たちを眺めていると、視線を感じた。……いいえ、これは私への視線ではなくて、シー兄様への視線ね。わかるわ、シー兄様も格好良いもの。……『も』? 私は一体、誰と比べたのかしら……?
「リザ、これとこれ、どっちがいいと思う?」
「え、えっと、シー兄様はどちらが良いと思いますか?」
「オレ? そうだな、オレはこっちかな」
……なら、反対側を選んだほうが良さそうね。シー兄様が私に見せたのは、サファイアだった。どちらもとても澄んでいるように見えるけれど、こういう時にはアル兄様の教えに添って反対を選ぶ。魔力を込めるのに適している宝石が手に入る……と、思う。
それから私たちは、宝石を巡りに巡ってから帰った。カインから買って来てもらったのも、まだ少し残っている。
「宝石って不思議だよな」
「シー兄様?」
「原石とは想像もつかない輝きを放つから。……そういう意味では、リザはまだ原石なのかもしれないな」
「私が、原石?」
「そう。リザがどんな道を歩むのかわからないけれど、その時には宝石になっていそうだなぁ……」
……そうだったらいいな。私という個人が、どんな煌めきを放つ宝石になれるのか……楽しみ。……楽しみと思えるくらいには、成長していると信じたい。
私が一番、自分を信じられていないのかもしれないわね……。
「全部アミュレットにするのか?」
「う~ん。さすがに全部はちょっと難しいかも……」
「そっか。じゃあ、リザがアミュレットの作り方を教えたら良いんじゃないかな?」
シー兄様の提案に、私は思わずシー兄様の手を握り「その案、いただきます!」と目を輝かせた。
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