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3章
3章30話(240話)
しおりを挟む正面に立つヴィニー殿下がそっと私の背中に手を回す。私も彼の肩に手を置き互いに視線を交わして小さくうなずく。ステップを踏んでいると自然と笑みが浮かんだ。パーティー会場で踊るよりも自由に踊れた。わぁ、と感嘆の声を上げる。そして、真似るようにペアを組んで「こうかな?」や「こうだよ!」と試行錯誤しながら踊っていた。
どのくらい踊っていたかはわからないけれど、すっかりクタクタになるくらい踊っていた。でも、でもね、思いっきり身体を動かしていたからか、なんだかとてもスッキリしたのよ。
「楽しかったね!」
ダイアンちゃんがとっても楽しそうに声を弾ませてそう言った。私たちは全員、同意のうなずきを返した。
それから、孤児院の子たちが作ったハンカチを買ったり、少しお話をした。
「ずーっとお祭りだったらいいのになぁ」
ぽつりとアーヴィングくんがつぶやいた。きっと、この子たちにとって、お祭りはとても大事な『楽しい日』だろう。
「……そうですわね。……でもね、楽しい日は『普通の日』があるから楽しい日、ですのよ?」
ディアがアーヴィングくんの視線に合わせるように少し屈んで、ウインクをひとつ。ぽっと赤くなったアーヴィングくんに、私はディアのウインクは可愛いなぁ、なんて考えていた。
「そうなの?」
「ええ。考えてみて、毎日お祭りだったら、新鮮さもないのではなくて?」
クスクスと鈴を転がすように笑うディアに、アーヴィングは「そっかぁ!」と納得したようにぽんと手を叩いた。
「昨日もおにーさんが来て楽しかったなぁ……」
ぽつり、とエリナーちゃんが呟く。
「お兄さん?」
「うん、旅芸人、なんだって! お歌を歌ってくれたの!」
「そうなんだ……。とても楽しかったのね」
「うん!」
その人を真似るように楽器を持ち、演奏するような動きをするエリナーちゃんが愛らしくて、思わずその頭を撫でてしまった。頭を撫でられたことに驚いたのか、エリナーちゃんが動きを止めて、それから嬉しそうに笑う。
「舞姫たち」
シスター・ルイザがすっと頭を下げた。私たちは慌てて「シスター?」と声を掛ける。
「この子たちに、楽しい時間を与えていただきありがとうございます」
とても優しい笑みを浮かべて、子どもたちへ視線を巡らせるシスター・ルイザに私たちは緩やかに首を振る。
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
カーテシーをすると女の子たちが「お姫様みたい!」ときゃあきゃあとはしゃいだ。
どうやらそろそろ孤児院の中に戻る時間のようだ。売っていた物をしまい始めたシスター・ルイザたちに挨拶をして、私たちは別の場所へと移動した。
片付けを手伝おうとしたら、シスター・ルイザにやんわりと断られた。片付けを含めて、この子たちのお祭りだから、と。
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