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3章
3章55話(265話)
しおりを挟む私はソルを肩に乗せ、ルーナを抱っこして大きく深呼吸をした。
「喜んでくれるといいね」
「そうね、喜んでくれると嬉しいわ」
「きっと喜ぶ。エリザベスからの贈りものだからな」
ソルとルーナは自信満々に胸を張っている。私がソルとルーナを撫でると、気持ちよさそうに表情を綻ばせていた。
「……不用心だなぁ」
突然、後ろから声を掛けられてびっくりした。肩が跳ねあがり、ソルが警戒するように飛んだ。
「……ハンフリーさん……」
昨日の今日で、また会うなんて……。
ソルとルーナがハンフリーさんを睨みつけている……ように見えた。
「相変わらずめーちゃんだけの味方だなぁ」
呆れたように肩をすくめて、少しずつ近付いて来る。
……何の用かしら?
「護衛もなくこんなところにいるなんて、危険じゃない?」
「さっきまで居ました。私が用事を伝えて、その用事を優先してくれたのです」
「……そう。でも、やっぱり危険だよ。こんなところで、女の子が一人でいちゃあ」
ハンフリーさんは辺りを見渡した。見晴らしの良い高い場所。
夜のステージまではまだ時間がある。私は目元を細めて、街の様子を眺めた。
「私になにか用が?」
「うん、ちょっと、昔話でもしようかと思って。めーちゃんの護衛が戻って来るまで」
徹底的に私のことを『めーちゃん』と呼ぶハンフリーさんに、小さく息を吐いた。ソルとルーナが心配そうに私を見ている。
「前世の話なら、お断りします」
「どうして? めーちゃんには知る権利がある」
「前世は過去のこと……。私は『めーちゃん』ではなく、『エリザベス・アンダーソン』です。前世のことに、興味はありません」
ばっさりと言ったつもり。すると、ハンフリーさんはふっと目元を細めた。それでも、と口を開く。
「きみは知るべきだよ、――月の女神の、生まれ変わりなんだから」
ハンフリーさんの言葉に、ソルとルーナが反応した。
「なにを、言って……?」
「その通りの意味だよ。――変だと思わなかったの? その魔力の高さで、生き続けられていることが」
私は困惑するように表情を歪めた。ソルとルーナはなにも言わない。
ハンフリーさんはただ、静かに微笑んでいる。
「魔力って魂で決まるんだ。きみの魔力が高いのは、めーちゃんの生まれ変わりだから」
「……『めーちゃん』……」
「そう。月の女神だから、めーちゃん。名前は最期まで教えてくれなかったからね。勝手に付けちゃったんだ」
懐かしむように目元を細めて、ハンフリーさんは空を見上げた。
月の女神の……伴侶、だったということ……? それが、ハンフリーさんの前世……?
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