201 / 353
3章
3章63話(273話)
しおりを挟む私たちも衣装から着替えて、ジーンがそっと私の手を握ったので、ぎゅっと握り返した。ジーンと一緒に控室から出る。
なにも言わずに歩く私たち。
「……エリザベス、少し、喉が乾かない?」
「じゃあ、飲み物を買いましょうか」
こくん、と首を縦に動かすジーンを見て、辺りをきょろきょろと見渡し、「ちょっと待っていて」と声を掛けた。スタスタと目的地まで早足で向かい、注文をしてお金を払おうとすると、
「舞姫からお金はいただけませんよ。今日のダンスも頑張ってくださいね! 応援しています」
と、笑顔で言われた。五日目にもなると、私たちが舞姫であることが広く知られたようだ。
「……あ、ありがとうございます」
「代わりと言ってはなんですが、美味しかったら宣伝してくださいね!」
「わかりました、ごちそうさまです」
こういう時は素直に受け取ったほうがいい。私は飲み物を二つ渡してもらい小さく頭を下げてからジーンの元に向かった。
「ベンチで座って飲みましょう」
「ええ」
空いているベンチに座り、飲み物を渡す。ジーンは中身を見て目を瞬かせた。
「ココア?」
「うん。建国祭も五日目だし、そろそろ疲れが溜まったんじゃないかなと思って」
白いマシュマロがぷかぷかと浮いたココア。温かいココアだから、マシュマロはすぐに溶けてしまうけど……。こくり、と一口飲んでゆっくりと息を吐いた。
「ジーンはディアが好きなのね」
「え?」
「だから、心配しているのでしょう?」
私の言葉に、ジーンはくすりと笑って「そうね」と呟いてから空を見上げた。
「私たちは貴族という身分に縛られているけれど、王女であるディアはそれ以上に縛られているのかしら……?」
「ジーン?」
確かに私たちは貴族という身分だ。平民と貴族の生活は違う。……平民の暮らしを私たちは知らないけれど。孤児院とはまた違うわよね、きっと。
ファロン家も子爵だったし……。さらに言えばファロン子爵はカナリーン王国の王族の血を引いていたみたいだし……。
「それにしても……、私たち、あまり結婚なんて考えていなかったわね」
「貴族の令嬢なのにね」
ジーンがこくりとココアを飲み込んだ。そして、ほぅ、と息を吐いた。
「本来なら、貴族の令嬢ってこの年齢には婚約者がいるものよね」
「本来ならね」
……アカデミーに通っている令嬢たちには、婚約者がいる人も多いのよね。私にもいつか出来るのだろうけど、なんだか不思議な感じがするわ。
「……あれ? でもヴィニー殿下と同じくらいの令嬢は……」
「ああ、そういう話もあったわね。でも、夢を見る人たちは少ないのよ」
「夢を見る……」
王族と婚約する、というのは確かに夢のような話だけど……。
「あなたがいるからね」
「わ、私?」
驚いて目を見開くと、ジーンはくすくすと笑った。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
8,761
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。