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3章
3章80話(290話)
しおりを挟む一瞬で移動したからか、ジーンとディアは身体を硬直させていた。ホテルにつくと、「今のって……」と小声で呟く。
「ソルとルーナの魔法よ。精霊たちには簡単なことみたい」
転移の魔法の使い方は大体決まっている。魔法陣の中に入り、転移するのが普通の使い方だ。だけど、精霊であるソルとルーナには魔法陣は関係なく転移の魔法が使える。
たぶん、シェイドも使えるとのこと。
私はジーンとディアの手を取って、ホテルへ足を進めた。ジーンもディアも、ただ黙ってついて来てくれた。
簡単な食事を摂ってから、部屋へ向かう。ドアをぱたんと閉じて、ソルとルーナに防音の魔法をお願いした。
「ヴィニー殿下は……、ずっと刺客に狙われているの?」
「……これは私の予想も入るけれど、いいかしら?」
私の問いに、ジーンは少しの間考えるように沈黙し、それから意を決したように顔を上げた。その真剣な瞳に、私は小さくうなずく。
ジーンは「とりあえず、座りましょう」と私とディアをベッドの上に座らせた。そして、自分もすとんと座り、ぽつぽつと言葉を紡いでいく。
「ヴィンセント殿下は魔力と巫子の力がお強いでしょう? 巫子の力はトレイシー王妃殿下から、国民に向けて少しだけ説明されているの」
「国民に向けて……?」
「ええ。巫子の力がどういうものなのか、アンダーソン家の人たちじゃないとよくわからないし……。だから、王妃殿下は陛下と結婚する時に巫子の力のことを少しだけ国民に説明したらしいわ。新聞にも載っているわよ。気になるなら、あとで探してみて」
陛下と王妃殿下の結婚は私が生まれる前のことだから、知らなかった。いや、ファロン家にいたからこそ、そういう情報は与えられていなかった……と考えるべきだろう。
「……巫子の力」
ディアが小さく口にする。そういえば、こういう情報は他国の人たちってどこまで知っているのかしら?
「留学する前にウォルテア王国の歴史を調べましたが、なかなか興味深い話がたくさんありましたわ」
「興味深い?」
「歴史が長い国ですから……」
ディアは頬に片手を添えて、調べたことを思い出しているようだった。
「そうですわね、近年ですと二十年くらい前にあった戦争を止めたのは王妃殿下の巫子の力と言われておりますわね」
王妃殿下が戦争を止めた? 巫子の力で未来が視えたのかしら……? 王妃殿下の巫子の力はとても強いとお母様から聞いていたから、きっとそうなのだろう。
未来が視える、とはどんな気持ちになるのかしらね……?
「ヴィンセント殿下が生まれて、王妃殿下の巫子の力は弱くなった。だからこそ、王妃殿下に取り入ろうとする人も、邪魔者扱いする人も居たそうよ。まあ、それは置いといて。ヴィンセント殿下の魔力はとても高かったから、幼い頃はずっと宮殿で王妃殿下と過ごしていたらしいわ」
「……詳しいのね」
「公開されている情報よ。王族のことに関しては、国民全員興味があるからね」
なるほど。……ああ、だからヴィニー殿下は、私と一緒にいると気が楽そうだったのね。過去を知らない私だから。『現在』の彼は『過去』をどう思っているのだろう?
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