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3章

3章84話(294話)

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「なかなか会いにいけなくて、ごめんなさいね。最終日だから、お姉様に我儘わがままを聞いてもらったの」
「愛娘に会いたいなんて、妹の可愛らしいお願いだもの。こっそり抜けてきちゃったの。お忍びだから、そんなに時間は取れないのだけど……うん、会いに来てみて良かったわ。あの時よりも、いい表情かおをしているもの」

 じっと私を見つめる王妃殿下に、私は眉を下げて微笑んだ。愛されることを知り、愛することを知った今の私は、とても安定していると思う。

 王妃殿下にお会いするのは久しぶりだけど、今でも気に掛けてくださっているんだと思うと、なんだか嬉しかった。

「そして、あなたがクラウディア王女ね」

 ディアがハッとしたように顔を上げて、それからカーテシーしようとしたけど、王妃殿下がそれを止めた。

「やめてちょうだい、仰々ぎょうぎょうしいのは。お忍びなのよ?」

 なんて茶目っ気たっぷりに笑いながら。

「今まで『舞姫』として三人が建国祭を盛り上げていたところを、陰ながら応援していたわ」

 お母様が柔らかい言葉をかける。私たちは顔を見合わせる。ちゃんと、『舞姫』としての役目が果たせているのなら良かった、と安堵の息を吐く。

 お父様に下ろしてもらい、お母様たちを見上げた。

「……あの、とても貴重な機会をありがとうございました」

 ディアがおずおずと声を掛けた。すると、王妃殿下はふっと目尻を下げて微笑んだ。

「こちらこそ、『舞姫』を引き受けてくれてありがとう」

 そっとディアの手を取ると、彼女と視線を合わせる。王妃殿下はジーンへも顔を向けて、その手を差し出した。ジーンは少し戸惑ったように私を見たけれど、私が小さくうなずくのを見て、王妃殿下の手を取った。

「ジーン嬢も引き受けてくれてありがとう。三人の『舞姫』のダンスで、建国祭を見に来ていた人々の気持ちが盛り上がったと思うわ」

 王妃殿下の言葉を聞いて、ジーンもディアも驚いたように目をみはった。それから、慌てたように首を横に振る。

「勿体ないお言葉です、王妃殿下」
「ふふ、ありがとう。あなたたちのダンス、楽しみにしているわね」

 にこりと微笑んでから、王妃殿下は手を離した。ジーンとディアは緊張したように身体を硬直させている。

「さてと、それじゃあわたしくたちはこれで。ホテルに置いてある私物は、使用人たちに頼んで運んでもらうわね」
「ありがとうございます」
「あ、クラウディア王女。建国祭が終わったら、エリザベスと一緒にアンダーソン邸に来てくださる?」
「え? あ、はい!」

 お母様の言葉に、ディアは弾かれたように顔を上げて戸惑ったように視線を彷徨わせたけれど、すぐにきゅっと胸元で拳を握り、こくりとうなずいた。
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