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4章
4章10話(310話)
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自分に流れるカナリーン王国の血。あのままファロン家に居たら、恐らくマザー・シャドウの傀儡として生きていた可能性のほうが高い。
そっと、ヴィニー殿下が手を握ってくれた。励ますようなその手の温もりに、静かに深呼吸を繰り返した。
「カナリーン王国は月の女神の祝福と魔力の高さを活かして、急速に発展していきました。ですが、月の女神の伴侶が亡くなり、月の女神は天上界に帰ってきなさいと他の神々に言われたそうです。……しかし、月の女神はそれを拒絶し、カナリーン王国に残り続けました」
そこで一度言葉を切り、女性は目を伏せる。ぎゅっとコップを握る。月の女神は、カナリーン王国に残ることを選んだのね……でも、どうして……?
「それから長い年月が経ち、耽ることなく美しい姿をした月の女神を、人々は恐れるようになり、女神に近付かなくなりました。女神は自分が愛した人間たちに恐れられたことに精神を病んでしまい、精霊たちにカナリーン王国を頼み、月へと帰った……と伝えられています」
女性は言葉を止め、コップに入った水をグッと飲み干した。そして、ゆっくり息を吐き、私を見つめた。
「そして、この伝承には続きがあるのです。誰が伝えたのかはわからないのですが……月に帰ったあとの女神のことも口頭で伝えられているのです。そちらもお望みでしょうか?」
「……お願いできますか?」
私が続きをお願いすると、女性は小さくうなずいて再び口を開く。
「月に帰った女神は、新たな『月の女神』が誕生していることを知りました。女神は、自分の居場所はもうどこにもないことに気付き、最高神に転生を望みました。ですが、月の女神としての役割を捨て、人間と共に生きていたことを咎められ、たとえ転生しても簡単に幸せにはなれないと言われたそうです。……女神は、それでも転生することを選んだ、と伝えられております。そして、……月の女神の容姿は、銀色の髪に黄金の宝石を持った女性……そう、まさに、お嬢様のような……」
――……以前、リタが私のことをそう呼んだことがある。カナリーン王国から月の女神の容姿が伝わっていたのかもしれないわね。
そっと自分の頬に触れる。なんだか、いろいろと複雑な感情が胸の中で渦巻いている感じがして、胸元に手を置き、ぎゅっと拳を作った。それを見ていたヴィニー殿下が、ぽん、と私の肩に手を置く。
「リザ、少し散歩をしない?」
「え……?」
「そうだね、行っておいで。ヴィー、リザのことお願いするよ」
「わかっているよ、アル」
ヴィニー殿下は私に手を差し出す。その手を取って立ち上がり、ヴィニー殿下と一緒に宿屋から出て、外の空気を吸った。
そっと、ヴィニー殿下が手を握ってくれた。励ますようなその手の温もりに、静かに深呼吸を繰り返した。
「カナリーン王国は月の女神の祝福と魔力の高さを活かして、急速に発展していきました。ですが、月の女神の伴侶が亡くなり、月の女神は天上界に帰ってきなさいと他の神々に言われたそうです。……しかし、月の女神はそれを拒絶し、カナリーン王国に残り続けました」
そこで一度言葉を切り、女性は目を伏せる。ぎゅっとコップを握る。月の女神は、カナリーン王国に残ることを選んだのね……でも、どうして……?
「それから長い年月が経ち、耽ることなく美しい姿をした月の女神を、人々は恐れるようになり、女神に近付かなくなりました。女神は自分が愛した人間たちに恐れられたことに精神を病んでしまい、精霊たちにカナリーン王国を頼み、月へと帰った……と伝えられています」
女性は言葉を止め、コップに入った水をグッと飲み干した。そして、ゆっくり息を吐き、私を見つめた。
「そして、この伝承には続きがあるのです。誰が伝えたのかはわからないのですが……月に帰ったあとの女神のことも口頭で伝えられているのです。そちらもお望みでしょうか?」
「……お願いできますか?」
私が続きをお願いすると、女性は小さくうなずいて再び口を開く。
「月に帰った女神は、新たな『月の女神』が誕生していることを知りました。女神は、自分の居場所はもうどこにもないことに気付き、最高神に転生を望みました。ですが、月の女神としての役割を捨て、人間と共に生きていたことを咎められ、たとえ転生しても簡単に幸せにはなれないと言われたそうです。……女神は、それでも転生することを選んだ、と伝えられております。そして、……月の女神の容姿は、銀色の髪に黄金の宝石を持った女性……そう、まさに、お嬢様のような……」
――……以前、リタが私のことをそう呼んだことがある。カナリーン王国から月の女神の容姿が伝わっていたのかもしれないわね。
そっと自分の頬に触れる。なんだか、いろいろと複雑な感情が胸の中で渦巻いている感じがして、胸元に手を置き、ぎゅっと拳を作った。それを見ていたヴィニー殿下が、ぽん、と私の肩に手を置く。
「リザ、少し散歩をしない?」
「え……?」
「そうだね、行っておいで。ヴィー、リザのことお願いするよ」
「わかっているよ、アル」
ヴィニー殿下は私に手を差し出す。その手を取って立ち上がり、ヴィニー殿下と一緒に宿屋から出て、外の空気を吸った。
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