282 / 353
4章
4章54話(354話)
しおりを挟む「そのときはゆっくりと歩けると良いね。前の目的は光の柱だったから、辺りを見る余裕はなかったし」
「そうですね……」
光の柱で見た光景を思い出して、小さく息を吐く。魂を縛られていたようにも見えた。カナリーン王国の最期は、国民を巻き込んでいたから……、その魂たちが眠れていたら、良いな。
「ああ、そういえば、ブランドン様から手紙が届いたよ」
「お元気そうでしたか?」
「……あのパワフルさはどこから来るんだろうね?」
肩をすくめるヴィニー殿下に、少し笑ってしまった。彼は手紙を探すために立ち上がると、テーブルに向かい「どこだっけ……」と小さく呟きながらテーブルの上に置いてある本を捲っていた。
「あ、あったあった」
本の下から手紙を抜くと、本を元の位置に戻して戻ってきた。そして、私にその手紙を差し出す。
「……私が読んでも良いのですか?」
「うん、大丈夫」
じゃあ、と手紙を受け取り、中身を確認する。ブランドン様の文字は力強く、それでいて丁寧な文字で読みやすかった。
ブランドン様とアミーリア様は、私たちが寝込んでいる間にカナリーン王国の様子を見ていたらしく、魔物が現れるのならば退治しなくてはと張り切っていたらしい。
でも、魔物は現れなく、あの地には草花が満ちて驚いた、と書いてあった。そして、あの重苦しい魔力も感じなくなったらしく、とても過ごしやすい場所に変わったと……。手紙を読み終えて、ヴィニー殿下に顔を向ける。
ヴィニー殿下は小さく笑って、「きみの力かな?」と首を傾げた。
「……良かった、と言ってもいいのでしょうか」
「あの村の人たちにとっては、過ごしやすくなるだろうし……それに」
一度言葉を切って、ヴィニー殿下は私の傍でしゃがみ込み、顔を覗き込むように見上げた。
「あの地の人々を救ったのはきみだよ、リザ」
「……月の女神の力です」
「うん、でも、それを使って人々の魂を天に導いたのはきみだろう? きみは、それを忘れちゃいけない」
目を瞬かせると、ヴィニー殿下は立ち上がり、ぽんぽんと私の肩を叩いた。
「……月の女神の生まれ変わりとして、きみはやるべきことをやった。それは誇っていいことだ」
トン、とヴィニー殿下が自分の胸元を叩く。
……不思議ね。ヴィニー殿下の言葉が、心の中に沁み込んでいく。
「……ありがとうございます、ヴィニー殿下」
私の言葉に、彼はキョトンとした表情を浮かべる。幼さを感じるその表情に、小さく口角を上げた。
「そうですよね、私は……やれることをやった。その結果が、ああなったのですよね」
「そうだよ。きみたちは背負っていたもの以上の結果を出したと思う」
月の女神の生まれ変わりとして、私たち三人が背負ったもの。それぞれが『簡単に幸せになれない』という運命を背負っていた。
私も、ジュリーも、ジェリーもこれからの人生がどうなるかわからない。――それでも、自分の幸せに向けて、歩いて行けると信じている。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8,761
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。