303 / 353
4章
4章75話(375話)
しおりを挟む魔塔につくまでの馬車の中、ヴィニー殿下といろいろなことを話した。ジーンたちに打ち明けるのはいつにしようか、イヴォンとハリスンさんの結婚の話題、これから先の未来、どんなことをしたいか……いろいろなことを言葉にすると、どんどんと楽しくなって、会話が弾んだ。
だからなのだろう、魔塔につくのがあっという間だった。
ヴィニー殿下にエスコートされながら降り、カインは「外で待っています」と言った。
「わかったわ、それじゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
……こんな風に『行ってきます』や『行ってらっしゃい』を言えることも、幸せのひとつなのだと教えてもらったの。
魔塔に入ると、シーンと静まり返っていた。いつもは照明魔法で明るくなっているのに、真っ暗で少し……いいえ、かなり驚いた。その様子の私に、ヴィニー殿下が手をぎゅっと握ってくれた。精霊たちも出て来ないと言うことは、危険はないのだろう。
こつ、こつ、と小さな足音を立てながら歩く私たち。数歩歩いたところで、いきなりパッと明るくなった。
そして――……
「ご婚約おめでとうございます!」
という、魔塔の人たちの声が重なり、紙吹雪が吹き荒れた。風の魔法で散らしているみたい。
「――びっくりしたかの?」
「ひいおじいさま!」
今度は、私とヴィニー殿下の声が重なった。ひいおじいさま――クリフ様は楽しそうに目元を細めて微笑み、それからパチン、と指を鳴らす。すると、さっきまで吹雪いていた紙たちがパッと消えた。
「あのヴィンセント殿下が婚約をするなんて……!」
「これは魔塔の全員でお祝いしなきゃと急いで用意したんですよ!」
「……なんで……」
ヴィニー殿下は驚きすぎて目を大きく見開いていた。クリフ様がこつん、と杖でヴィニー殿下の頭を軽く叩く。
「お前は本当に人に興味がなさすぎじゃな。魔塔のものたちは、みな、お前たちのことを祝福したいとサプライズしたのに」
「えっと、だから、なんで……?」
本当に困惑しているようだ。そして、声が僅かに震えている。
私はそっと、彼の手をぎゅっと握った。ハッとしたようにヴィニー殿下が私を見て、それから魔塔の人たちを見渡す。みんな、ヴィニー殿下のことが好きなのね。
「きっとみんな、ヴィニー殿下のことを見てきたからじゃないでしょうか」
「リザ?」
「リザの言う通りじゃ」
ぼそっとクリフ様が呟く。耳に届いたのか、ヴィニー殿下の力がすっと抜けた気がする。それからもう一度、魔塔の人たちのことを見て……、ううん、もしかしたら『視た』のかもしれない。顔が赤くなっていたから。
「……ありがとう」
ヴィニー殿下は、心底嬉しそうに……綺麗に微笑んだ。
その表情を見て魔塔の人たちがさらに「おめでとうございます!」や「幸せになってくださいね!」と声を掛ける。
……なんだか不思議な気持ちになったわ。こんな風に祝福してくれる人たちがたくさんいるのって。ヴィニー殿下もそうだったのかもしれない。魔塔の人たちに祝福されたことで、胸に込み上げるものがあったのだろう、彼の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8,761
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。