326 / 353
4章
4章98話(398話)
しおりを挟むお茶会が終わって数日が経ち、ヴィニー殿下から杖が完成したという手紙が届いた。私は早速お母様に伝えて、魔塔に行くことを告げると、お母様と一緒に居たアル兄様が「僕も行く!」と元気よく手を上げた。でも、お母様から肩を掴まれて、笑顔で「ダメよ」と却下されていた。
「どうしてもダメ?」
と小首を傾げて聞いていたけれど、お母様は笑顔を崩さずにうなずいた。見るからにしゅんとしたアル兄様に、なんて声を掛けたら……と考えていると、お母様が声を掛ける。
「馬車を用意させるから、カインと一緒に行きなさいね」
「ありがとうございます、お母様。行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい。魔塔の方々によろしくね」
「あ、リザ! 帰って来たら、これだけは教えてくれる?」
アル兄様が私に近付いて耳元で囁いた。……ヴィニー殿下の安否確認をお願いされた……。アル兄様も、ヴィニー殿下が徹夜で杖を作っていたことを知っているのね……いいえ、もしかしたら、アル兄様もヴィニー殿下と一緒に徹夜で作っていたのかも……?
「……大丈夫だとは思うけれど」
「僕もそうだと思うけど、魔術バカのヴィーだからね。油断は出来ないのさ」
腕を組んでしみじみと呟くアル兄様に、くすくすと笑うと、お母様がアル兄様の肩に手を置いて、笑みを深めた。
「アルフレッド、魔術バカなのはあなたもでしょう? わたくし、気付いていてよ。あなたの部屋の灯りが、夜明けまでついていることを」
ギクッと身体を強張らせるアル兄様に、私はやっぱり笑ってしまって、それを見たふたりも一緒に笑った。
そんな和やかなお母様の執務室から出て、カインを呼ぶ。カインはいつも近くに居てくれるみたいで、呼べばすぐに来てくれる。
「魔塔に行くから、護衛をお願い」
「かしこまりました」
お母様が馬車を用意してくれるみたいだから、私は一度部屋に戻って外出用のドレスに着替えてから指にヴィニー殿下からもらった指輪を嵌めた。
玄関前に馬車が用意されていることに、素早い、と少し驚きつつも、馬車に乗る。カインは馬に乗っていくようだ。
御者に「魔塔まで」とカインが伝えると、馬車が動き出した。魔塔までの風景を眺めながら、どんな杖になったのだろう? と想像を膨らませた。
それにしても……、杖ってそんなに簡単に作れるもの……ではないわよね? それを一週間もしないうちに完成させるなんて、ヴィニー殿下、一体どれだけの睡眠時間を削ったのかしら……と不安を感じてしまう。
お茶会の日に現れた以上の隈だったらどうしよう……。杖の完成を急いでくれたのは嬉しいけれど、やっぱり自分のことを大切にして欲しい。
そう考えながら、窓から流れる風景を眺めていた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
8,761
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。