キッドナッパー

TERRA

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Day.1

6

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エンジンを切ると、車内に残るのはかすかな風の音だけだった。
駐車場の隅に停めた車の窓には外灯の光がぼんやりと映り、ゆっくりと揺れている。
湿った空気の中で、その光はまるで水面に漂う灯のように揺らめいていた。

遠くに見える街の灯りは霞み、夜の闇に溶けかかっている。
コンビニで買った食べ物の袋が助手席の少年の膝の上に置かれたまま、小さくカサカサと音を立てる。

青年はシートに深くもたれながら、助手席の少年に目を向けた。
「寒くない?」
少年は少し考えるようにしてから、肩をすくめる。
「……ちょっとだけ。」

青年は何も言わずに後部座席へ手を伸ばす。
くしゃっと丸まったライトグレーのパーカーがそこにあった。
繰り返し洗われた生地は柔らかく、袖口のほつれた糸がかすかに浮いている。
「これ、使っていいよ。」
そう言って、そっと少年の膝にかける。

薄い生地のハーフパンツの上に、ふんわりと落ちる布の感触。
思ったよりも温かく、少年は驚いたようにパーカーを指先でなぞる。
「あったかい……。」
小さな声で呟いた。

窓の外では、駐車場の奥に停まっている大型トラックが、かすかに軋む音を立てた。
遠くから聞こえる高速道路の車の走行音は、ほとんど風の音に紛れてしまい、ただ夜の静寂が際立っていた。

少年はパーカーの袖をそっと握る。
どこか懐かしい匂いがする。
洗剤の香りがほのかに残っていて、それが心地よく思えた。
「ありがと。」
青年は少しだけ視線を落とし、穏やかに頷く。
車内の空気は、少しだけ柔らかくなった気がする。

雨上がりの夜の匂いが、かすかに窓の隙間から入り込んでいる。
やがて、少年の呼吸がゆっくりと落ち着いていく。

車のボディが微かに冷え始めていた。
窓の外には、点々と並ぶ街灯の明かりが滲んでいる。
遠くでは、またひとつ、星が流れた。
静かに、旅の夜が更けていった。
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