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EPILOGUE
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しおりを挟む茜に染まった空は、まるで見知らぬ夢の一場面だった。
風は生ぬるく、遠くから微かに潮の匂いが混じる。
少年の靴裏が擦れる音だけが静かな通りに響く。
足元のボールが転がるたび、小さな手がそれを追いかけようとするが、ためらうように止まる。
「こっちへおいで。」
静かな声。
柔らかく、それでいてどこか影を孕んだ響き。
少年はかすかに顔を上げる。
夕陽に逆光となった輪郭、襟元が乱れ、疲れたような空気を纏う男がそこにいた。
知らない顔なのに、不思議と親しげな空気がある。
風が止んだ。
一瞬の間。
空気の流れすら固まり、時間が引き延ばされていく。
差し出された手は、逃げるように拒めばよかったのかもしれない。
なのに、少年はそうしなかった。
指先が触れた瞬間、微かな温もりが伝わる。
「いい子だね。」
風景が、ゆっくりと溶けていく。
闇に沈む街並み、消える光。
全てが、誰かの手のひらの中に吸い込まれていった。
ー10年前ー
画面が切り替わり、夜のニュース番組のタイトルが静かに浮かび上がりアナウンサーの冷静な声が響く。
「速報です。誘拐事件が……。」
画面は、警察署の記者会見へと切り替わる。
「誘拐されたとみられる5歳の少年です。」
警察官が報道陣の前で話している。
幼さの残る、どこか見覚えのある顔が映し出される。
「目撃情報によりますと、事件当時、少年は自宅近くの路地で一人で遊んでいました。その後、50代前後の作業着姿の男が声をかける様子が目撃されています。」
画面には、少年が遊んでいたとされる通りの映像が映し出される。
傍らには、通行人が当時の状況を語る姿があった。
「男が軽トラックに……。」
画面には、警察が公開した簡易な似顔絵が映される。
「現在も捜索が続いていますが、少年の行方は依然として分かっていません。」
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