9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

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ろくしょう!

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 すごろくが終わって一息つき、自然に解散の流れとなった。スティラはまだ遊びたがったのだが、シェリーゼの「ジャン君は病気なのだからそろそろ休ませてあげなくては」というごもっともな言葉に素直にうなずく。
 皆が出て行った後、アリーはジャンをぎゅうっと抱きしめた。さすが10歳、いいにおいがする。まだ子どもっぽいにおいを嗅ぐ行為は、どんな幸せにも代えがたい。

「もういいって、やめろって。くんくんくんくん、犬かよ」

「うーん、そうかも。でも久しぶりだから、もうちょっと我慢して」

 何年も姉として生きていれば、ジャンやスティラの前では悲しいとか辛いとか、そういうネガティブな感情を切り離すことができる。でも廊下に出たら、絶対に戻ってくる。だから元気を補充しておきたい。

「よーっし、気力充実! また来るからねジャン、ゆっくり休むのよ」

「うん、アリーもしっかり寝ろよ。もしチャンスがあったら、王太子様に会わせてくれよな! ス、スティラ様もすっげえカッコいいって言ってたし!」

「……もしお暇があるようなら、お願いしてみるね」

 たしかにカッコいい、とアリーだって思うようになったが、あのカテゴライズをどう説明したものか。
 ぱっと見が王太子に見えない選手権、みたいなものがあったらマクシミリアンはぶっちぎりでトップだろう。
 でもジャンは覇王系の絵物語大好きだしな、問題ないだろうな、などと思いながらアリーはジャンの頭をぐりぐりと撫で、ばあやと少し話してから部屋を出た。

<うう、聖女ミアの勝ち誇った顔の幻想が襲ってくる……>

 廊下を歩くと、やっぱり感情の波が荒れた。マクシミリアンが「異世界出身」という際立って訳の分からない出自の娘に振り回されているかと思うと、気持ちが黒く塗りつぶされる。

<いかんいかん、自分を取り戻すために山へ行こうかしら>

《それこそいかんいかん、ご主人、アベルが待っているぞ》

 たっくんのツッコミに「そうだった」と我に返ったアリーは小走りで自分の部屋へと向かった。
 ドアを開けると、ひと仕事やり終えた顔をしたアベルが立っていた。浮世離れした美貌がまぶしい。色香漂う正統派闇の美形がアリーを見て微笑んでくれたから、心が少し浮上した。

「おかえりアベル、お疲れ様でした。えーっと、その手に持っているのは、一体何かなあ?」

 魔王の右手を見ながら、アリーは小首をかしげた。彼は真っ白い光を鷲掴みにしていた。とても清純な輝きなのに、なぜか物凄くおどろおどろしく見える光だ。クエスチョンマークが2つ3つ浮かんでいるアリーに、アベルがさらっと答える。

『ピチピチとれたての光のクソ野郎です』

「えええ、光の天使っ!?」

『えええ、光の天使っ!?』

 アリーの発した裏返った大声に被せるように、たっくんまで素っ頓狂な声を出した。

『ことあるごとに人々は平等だと説いている天界の住人にとっても、これはゆゆしき事態ですからね。方向性の違いで何匹か脱退してくるだろうと思ったんです。天使と魔族は、元をたどれば同じ存在ものなので。でも無料の避難場所に使われちゃ困るんですよ』

 アベルは笑いながら怒っている風情で、手の中の光をぎゅうぎゅう締め上げた。綿あめみたいに見える真っ白い光は、それでも懸命に抗ってるっぽい。

魔界うちに来るならお作法にのっとってきっちり堕天したうえで、払うもの払って頂かないと。というか魔界が出来たのはひいひいひい祖父さんの代だっつーのに、今さら親戚面して匿われようとするとはどういう了見だ光のクソ』

 なんか闇の使徒と光の天使、色々あるっぽい。そしてアベルは光の天使が心底嫌いっぽい。

『ほら、アリーに姿が見えるようにしなさい。気まぐれに人々の前に現れては崇められるのが好きなんだから、簡単にできるでしょう』

 アベルはにこやかに命じた。光の塊が数回震えた次の瞬間、アリーの目の前にとんでもなく綺麗な顔をした天使が立っていた。
 アリーの貧困な語彙では表現しきれないが、どこもかしこも芸術的に美しい。性別すらわからない。全身がぴかぴか輝きすぎていて、目に突き刺さりまくる。

<な、なんというゴージャスな縦ロール……っ!>

 甘い感じの顔立ちなのに、光の天使の目は鋭い。ものすごく清らかなのに、どこか性根が腐った感じがする。
 しかし現状、この光の天使がたったひとつの頼みの綱だ。知りたいことがいっぱいありすぎて、何から尋ねればいいのかアリーはパニックに陥った。

「あ、ああああ、あの、縦ロール様! 質問がありますっ!!」

『その呼び方、やめてもらえるかな』

 アベルに首根っこ掴まれたままの光の天使が、非常に刺々しい声で言った。
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