69 / 81
ろくしょう!
12
しおりを挟む
「ででで、ではあの天使様、お名前を教えて頂いても……?」
アリーの額から背中から、あらゆるところから汗が噴き出す。天使の性格がどんななのか、光属性に縁が無いからまったくわからない。
だからアベルからの情報で知識を得るしかなかったのだが、アベルに聞いても「ほぼほぼクソです」としか言わない。
しかしせっかく光の天使様とお近づきになれるチャンス、そりゃ前のめりにもなるだろう。苦々しい顔でアリーを見ている縦ロールはそりゃもう気の強そうな美人(美男子?)で、扱いが面倒くさそうなのは明白なのだが。
『下々に教えてやる名前などない。気安く話しかけないで貰おうか』
天使様に対する幻想をぶち壊す勢いの、とんでもなく尖った声で縦ロールは答えた。
『この状況でよくそんな口がきけますね。今ここで痛ましい事件を起こして差し上げましょうかこの野良天使が』
『いででででででっ!』
アベルの手のひらが縦ロールの頭頂部を掴み、メキメキと音を立てる勢いで絞り上げる。
<さすが魔王、強いんだなあ>
《面倒くさいので端折るが、天界を追い出されたアベルたちのご先祖はとてつもなく苦労したらしいからな。闇の使徒たちがジジババっ子なのは、そこらへんに原因があると思うぞ》
たっくんの言葉に、アリーはなるほどとうなずいた。
天使と魔族、方向性は真逆だが同レベルに美形な二人が醸し出す禍々しい雰囲気は、まだ当分終わりそうにない。
初めて肉眼で見た光の天使の姿を網膜に叩きつけるように観察する。それでも手持ち無沙汰なので、アリーは両手を組み合わせてお祈りをすることにした。
慈悲などまったくなさそうだし、期待値は流れ星レベルだろうが、やっぱり願わずにはいられない。目を閉じて、心の中でそっと呟く。
「ああ縦ロール様、一日たりとてあなたのことを考えなかった日はありません。どうかお願いです、わたしに治癒魔法をください! 決してわたしを切り捨てたりしないアベルの方が素晴らしい人格者だと思うし、普通頑張ってる人を見たら応援したくなるもんなのに一向に呼び掛けに応えてくれなかったのは恨んでるし、礼を欠きまくりの聖女ミア相手にどうして親切にしてるのかわからないけど、とりあえず急場をしのげるだけの光属性をください縦ロール様!」
『だから縦ロールって呼ぶなって言ってんだろうがっ!』
また刺々しい声が飛んできた。しまった、心の声が漏れちゃってたっぽい、などと反省しながら、アリーは目を開けた。
『俺の名前は智天使マディロール! 特別にマディと呼ぶことを許してやるから、二度と縦ロールって呼ぶなよ!』
マディロール、とアリーは復唱した。なるほど理解した、外見がこれで名前がそれなら、あだ名は確実に縦ロールだ。名前ネタはマディロールをナーバスにさせるに違いないから、もう触れないでおこうと決意する。
『あと、さっきの願い事だけど。はっきり言って無理だから』
気持ちよいくらいにストレートな、非常に想定内な返事が返ってきた。無理か、やっぱりな、とアリーは悄然と肩を落とした。
光の天使って、どういう基準で人間に優劣の差をつけてるんだろう。突き付けられた聖女ミアに劣る判定は、アリーを一気にウルトラネガティブにさせた。
<やっぱり筋トレだけでは、道は切り開かれないのかあ……。いかん、泣きそう>
アリーの落ち込みっぷりが尋常でないのを見て取ったのか、マディロールが「しまった」という顔つきになる。
『おい堕天使、もう一回俺を痛めつけろ』
『はあ?』
マディロールの唐突すぎる申し出に、彼の頭を握り締めたままのアベルの眉間の皺が深くなる。
『だから! 拷問されて仕方なくゲロったって体裁が必要なんだよ察しろそれくらい。俺はまだ堕天使になるわけにはいかないんだ!』
『なにそれ面倒くさい』
といいつつも、光の天使に対する恨み骨髄に徹しちゃってるらしいアベルは、容赦なくマディロールの頭を締め上げた。
『いでででで! こっちだって、好きで天使に対する憧れや期待を踏みにじってんじゃないんだ。落ち込んだり、のたうち回ってる人間を自由に救いたくても、天界はお役所仕事なんだよ。予算と人数の枠がきっちり決まってて、決められたとおりに仕事をするしかない』
『本当ですか? ご先祖様の話では、使役者と天使が一丸となって光魔法を操り、多くの人を救済したと聞いていますが?』
『いでででででっ! だから、堕天使らのご先祖が出て行った後に、天界に大異変が起きたんだって! 今の天界は縦割り行政なの、色んな世界と繋がってる魔界と違って、横の連絡・調整がほとんどなくて、それぞれが縦のつながりだけで世界を管理してるの! 上位世界から気まぐれにとんでもない案件が降ってきても、俺たちには逃げ場がないんだよ!』
アベルの手に力がこもると、マディロールが待ってましたとばかりに白状する。一体何を見せられてるんだわたしは、と思いながらも、アリーは「とんでもない案件」という言葉に背筋を震わせた。
アリーの額から背中から、あらゆるところから汗が噴き出す。天使の性格がどんななのか、光属性に縁が無いからまったくわからない。
だからアベルからの情報で知識を得るしかなかったのだが、アベルに聞いても「ほぼほぼクソです」としか言わない。
しかしせっかく光の天使様とお近づきになれるチャンス、そりゃ前のめりにもなるだろう。苦々しい顔でアリーを見ている縦ロールはそりゃもう気の強そうな美人(美男子?)で、扱いが面倒くさそうなのは明白なのだが。
『下々に教えてやる名前などない。気安く話しかけないで貰おうか』
天使様に対する幻想をぶち壊す勢いの、とんでもなく尖った声で縦ロールは答えた。
『この状況でよくそんな口がきけますね。今ここで痛ましい事件を起こして差し上げましょうかこの野良天使が』
『いででででででっ!』
アベルの手のひらが縦ロールの頭頂部を掴み、メキメキと音を立てる勢いで絞り上げる。
<さすが魔王、強いんだなあ>
《面倒くさいので端折るが、天界を追い出されたアベルたちのご先祖はとてつもなく苦労したらしいからな。闇の使徒たちがジジババっ子なのは、そこらへんに原因があると思うぞ》
たっくんの言葉に、アリーはなるほどとうなずいた。
天使と魔族、方向性は真逆だが同レベルに美形な二人が醸し出す禍々しい雰囲気は、まだ当分終わりそうにない。
初めて肉眼で見た光の天使の姿を網膜に叩きつけるように観察する。それでも手持ち無沙汰なので、アリーは両手を組み合わせてお祈りをすることにした。
慈悲などまったくなさそうだし、期待値は流れ星レベルだろうが、やっぱり願わずにはいられない。目を閉じて、心の中でそっと呟く。
「ああ縦ロール様、一日たりとてあなたのことを考えなかった日はありません。どうかお願いです、わたしに治癒魔法をください! 決してわたしを切り捨てたりしないアベルの方が素晴らしい人格者だと思うし、普通頑張ってる人を見たら応援したくなるもんなのに一向に呼び掛けに応えてくれなかったのは恨んでるし、礼を欠きまくりの聖女ミア相手にどうして親切にしてるのかわからないけど、とりあえず急場をしのげるだけの光属性をください縦ロール様!」
『だから縦ロールって呼ぶなって言ってんだろうがっ!』
また刺々しい声が飛んできた。しまった、心の声が漏れちゃってたっぽい、などと反省しながら、アリーは目を開けた。
『俺の名前は智天使マディロール! 特別にマディと呼ぶことを許してやるから、二度と縦ロールって呼ぶなよ!』
マディロール、とアリーは復唱した。なるほど理解した、外見がこれで名前がそれなら、あだ名は確実に縦ロールだ。名前ネタはマディロールをナーバスにさせるに違いないから、もう触れないでおこうと決意する。
『あと、さっきの願い事だけど。はっきり言って無理だから』
気持ちよいくらいにストレートな、非常に想定内な返事が返ってきた。無理か、やっぱりな、とアリーは悄然と肩を落とした。
光の天使って、どういう基準で人間に優劣の差をつけてるんだろう。突き付けられた聖女ミアに劣る判定は、アリーを一気にウルトラネガティブにさせた。
<やっぱり筋トレだけでは、道は切り開かれないのかあ……。いかん、泣きそう>
アリーの落ち込みっぷりが尋常でないのを見て取ったのか、マディロールが「しまった」という顔つきになる。
『おい堕天使、もう一回俺を痛めつけろ』
『はあ?』
マディロールの唐突すぎる申し出に、彼の頭を握り締めたままのアベルの眉間の皺が深くなる。
『だから! 拷問されて仕方なくゲロったって体裁が必要なんだよ察しろそれくらい。俺はまだ堕天使になるわけにはいかないんだ!』
『なにそれ面倒くさい』
といいつつも、光の天使に対する恨み骨髄に徹しちゃってるらしいアベルは、容赦なくマディロールの頭を締め上げた。
『いでででで! こっちだって、好きで天使に対する憧れや期待を踏みにじってんじゃないんだ。落ち込んだり、のたうち回ってる人間を自由に救いたくても、天界はお役所仕事なんだよ。予算と人数の枠がきっちり決まってて、決められたとおりに仕事をするしかない』
『本当ですか? ご先祖様の話では、使役者と天使が一丸となって光魔法を操り、多くの人を救済したと聞いていますが?』
『いでででででっ! だから、堕天使らのご先祖が出て行った後に、天界に大異変が起きたんだって! 今の天界は縦割り行政なの、色んな世界と繋がってる魔界と違って、横の連絡・調整がほとんどなくて、それぞれが縦のつながりだけで世界を管理してるの! 上位世界から気まぐれにとんでもない案件が降ってきても、俺たちには逃げ場がないんだよ!』
アベルの手に力がこもると、マディロールが待ってましたとばかりに白状する。一体何を見せられてるんだわたしは、と思いながらも、アリーは「とんでもない案件」という言葉に背筋を震わせた。
214
あなたにおすすめの小説
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます
ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。
理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。
……正直、めんどくさい。
政略、責任、義務、期待。
それらすべてから解放された彼女は、
聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。
毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。
何もしない、何も背負わない、静かな日常。
ところが――
彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、
一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが
異様なほど平和になっていく。
祈らない。
詠唱しない。
癒やさない。
それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。
「何もしない」ことを選んだ元聖女と、
彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。
これは、
誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、
いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる