9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

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ろくしょう!

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「ででで、ではあの天使様、お名前を教えて頂いても……?」

 アリーの額から背中から、あらゆるところから汗が噴き出す。天使の性格がどんななのか、光属性に縁が無いからまったくわからない。
 だからアベルからの情報で知識を得るしかなかったのだが、アベルに聞いても「ほぼほぼクソです」としか言わない。
 しかしせっかく光の天使様とお近づきになれるチャンス、そりゃ前のめりにもなるだろう。苦々しい顔でアリーを見ている縦ロールはそりゃもう気の強そうな美人(美男子?)で、扱いが面倒くさそうなのは明白なのだが。

『下々に教えてやる名前などない。気安く話しかけないで貰おうか』

 天使様に対する幻想をぶち壊す勢いの、とんでもなく尖った声で縦ロールは答えた。

『この状況でよくそんな口がきけますね。今ここで痛ましい事件を起こして差し上げましょうかこの野良天使が』

『いででででででっ!』

 アベルの手のひらが縦ロールの頭頂部を掴み、メキメキと音を立てる勢いで絞り上げる。

<さすが魔王、強いんだなあ>

《面倒くさいので端折るが、天界を追い出されたアベルたちのご先祖はとてつもなく苦労したらしいからな。闇の使徒たちがジジババっ子なのは、そこらへんに原因があると思うぞ》

 たっくんの言葉に、アリーはなるほどとうなずいた。
 天使と魔族、方向性は真逆だが同レベルに美形な二人が醸し出す禍々しい雰囲気は、まだ当分終わりそうにない。
 初めて肉眼で見た光の天使の姿を網膜に叩きつけるように観察する。それでも手持ち無沙汰なので、アリーは両手を組み合わせてお祈りをすることにした。
 慈悲などまったくなさそうだし、期待値は流れ星レベルだろうが、やっぱり願わずにはいられない。目を閉じて、心の中でそっと呟く。

「ああ縦ロール様、一日たりとてあなたのことを考えなかった日はありません。どうかお願いです、わたしに治癒魔法をください! 決してわたしを切り捨てたりしないアベルの方が素晴らしい人格者だと思うし、普通頑張ってる人を見たら応援したくなるもんなのに一向に呼び掛けに応えてくれなかったのは恨んでるし、礼を欠きまくりの聖女ミア相手にどうして親切にしてるのかわからないけど、とりあえず急場をしのげるだけの光属性をください縦ロール様!」

『だから縦ロールって呼ぶなって言ってんだろうがっ!』

 また刺々しい声が飛んできた。しまった、心の声が漏れちゃってたっぽい、などと反省しながら、アリーは目を開けた。

『俺の名前は智天使マディロール! 特別にマディと呼ぶことを許してやるから、二度と縦ロールって呼ぶなよ!』

 マディロール、とアリーは復唱した。なるほど理解した、外見がこれで名前がそれなら、あだ名は確実に縦ロールだ。名前ネタはマディロールをナーバスにさせるに違いないから、もう触れないでおこうと決意する。

『あと、さっきの願い事だけど。はっきり言って無理だから』

 気持ちよいくらいにストレートな、非常に想定内な返事が返ってきた。無理か、やっぱりな、とアリーは悄然と肩を落とした。
 光の天使って、どういう基準で人間に優劣の差をつけてるんだろう。突き付けられた聖女ミアに劣る判定は、アリーを一気にウルトラネガティブにさせた。

<やっぱり筋トレだけでは、道は切り開かれないのかあ……。いかん、泣きそう>

 アリーの落ち込みっぷりが尋常でないのを見て取ったのか、マディロールが「しまった」という顔つきになる。

『おい堕天使まおう、もう一回俺を痛めつけろ』

『はあ?』

 マディロールの唐突すぎる申し出に、彼の頭を握り締めたままのアベルの眉間の皺が深くなる。

『だから! 拷問されて仕方なくゲロったって体裁が必要なんだよ察しろそれくらい。俺はまだ堕天使になるわけにはいかないんだ!』

『なにそれ面倒くさい』

 といいつつも、光の天使に対する恨み骨髄に徹しちゃってるらしいアベルは、容赦なくマディロールの頭を締め上げた。

『いでででで! こっちだって、好きで天使に対する憧れや期待を踏みにじってんじゃないんだ。落ち込んだり、のたうち回ってる人間を自由に救いたくても、天界はお役所仕事なんだよ。予算と人数の枠がきっちり決まってて、決められたとおりに仕事をするしかない』

『本当ですか? ご先祖様の話では、使役者と天使が一丸となって光魔法を操り、多くの人を救済したと聞いていますが?』

『いでででででっ! だから、堕天使おまえらのご先祖が出て行った後に、天界に大異変が起きたんだって! 今の天界は縦割り行政なの、色んな世界と繋がってる魔界と違って、横の連絡・調整がほとんどなくて、それぞれが縦のつながりだけで世界を管理してるの! 上位世界から気まぐれにとんでもない案件が降ってきても、俺たちには逃げ場がないんだよ!』

 アベルの手に力がこもると、マディロールが待ってましたとばかりに白状する。一体何を見せられてるんだわたしは、と思いながらも、アリーは「とんでもない案件」という言葉に背筋を震わせた。
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