釣った魚、逃した魚

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#02 神子様との出会い

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 マクミラン・デスタスガス。22歳。

北東の山岳地帯にある質素な、実にアクセスの悪い地方出身の貧しい一代騎士爵。

たまたま田舎者の平民にしては魔力も強く魔獣の出没率が高い地域で生まれ育ったから魔獣に関する知識と討伐慣れをしていたというのもあり、12歳から冒険者登録をしていた。

 16歳の時。
当時行動を共にしていた冒険者パーティが受けた隣領の森に入った。
その途中で瘴気発生の知らせを受けた当時の王太子を隊長とする遠征隊が訪れたのと遭遇した。
そして瘴気に惹かれ寄ってきた魔獣に襲われかけた一行を仲間と共に助けた。

それがきっかけでその一行の一人であった騎士団長に誘われ王都の騎士団に入団した。
その後二度ほど偶然、間一髪の王太子を救った事があったために報賞を受け騎士爵を叙勲した。

・・・それが俺の経歴だ。

今、俺の仕えている主人は、数年前からあちこちに頻繁に出現するようになった瘴気ポイントを浄化するために異世界から召喚された神子様だ。
艶やかな黒髪と愁いを帯びた漆黒の瞳。細い首筋と指先。中性的なきめ細やかな肌。そして上質だが体にフィットした灰色の服に身を包み、現れた時から神秘的だった。

何故か大した身分でも無いのに俺もその召喚儀礼の場に居た。魔力が強く膨大だからだと言われた。

召喚され、光る魔方陣から現れたその人は酷く怯えながら辺りを見回した。
召喚の責任者であった王太子は魔方陣の光が消えると即座に駆け寄りその人に手を差し伸べた。
差し伸べられた手を前にその人は警戒して石床に坐したままむしろ手を取られまいと避けた。
穏やかな声音で王太子は魔法の秘術を用いてあなたを異世界から召喚したと告げた。瘴気を浄化し民を治癒するチカラを持った神子として。いかにこの国家が、無辜の民達が苦しみ犠牲になっているか。・・・故に何とか力になって欲しい。と。
そのようなことを大雑把に語り、未だ戸惑ったままのその人を導いて王宮内に連れて行った。

彼の人。
タカシ・ミクラ。召喚の時26歳。現在は29歳。
俺より7歳も年上だというのだが、外見的には年下にしか見えない。
いやむしろなんなら実年齢よりも10歳近くも若く見える。まだ少年の危うさが残るかと思えるような儚げな、しかし、どことなく凜とした芯の強さを感じさせるお方だ。

王太子に連れ去られた後神子様がどのような扱いを受けていたか、不自由なく過ごせていたかは人から聞いたただの噂に過ぎない。
それでもあの方が丁重に扱われていることや、なかなか納得は出来ず警戒を解くことも困難な様子でありながらそれでも少しずつ魔力操作の訓練をうけるようにもなり、この世界の歴史や生活、慣習やマナーなどを学ぶようになったという噂を聞いた。

26年間も暮らしてきた元の世界から、日常を急にぶった切るように無理矢理この世界に召喚されてしまったのだ。
どれほど懊悩されただろうか。
本来ならば憤慨して『今すぐ元の世界に戻せ!』と喚かれても仕方ないことであろうに。
いや、もしかするとそういったやりとりは有ったかも知れない。だが、王家のメンツとして漏らさなかっただけかも知れない。

王宮内に用事があった際にごくまれにものすごく遠巻きにその姿を見掛ける事があった。
たいていの場合は王太子と護衛達、時に神官などと一緒だった。
そして、それでもそのうちにだいぶ打ち解けてきたという噂を聞き、かすかな笑顔を垣間見たとき俺は僅かに安堵した。

その後半年近くしてから瘴気ポイント浄化、そして結界の展開の為、各地を訪れる遠征隊が組織された。
瘴気ポイントの近辺には瘴気に引き寄せられて凶悪化した魔獣が出没するようになる。ゆえに我々騎士団も同行し、魔獣討伐も同時に行う。
俺は元々魔獣討伐の手際が評価され騎士団に採用された身だ。案外簡単に遠征隊に加わることが出来た。

神子様は国土の瘴気ポイントをことごとく浄化していった。浄化が済むと俺達が対応している魔獣の勢いも格段に落ちて仕留めやすくなる。
そして魔獣を仕留めればそこから魔石を手に入れられるのだ。
常に魔獣出現の危機と背中合わせの村で育った自分からしたら、神子様という存在は本当にありがたい奇跡のようなお方なのだ。
ただ、昨今の瘴気ポイント発生率は高く、ろくな休みも無く移動して次々と浄化していかなくてはならなかった。
度々疲労の色を浮かべてはいたが、遠征は容赦なく進む。

遠征隊が王都を出発した当初は知らないメンバーが大半だったせいもあり、そして神子様にとっては初めての遠征という事もあり、だいぶ緊張している様子だった。

王城の中で遠く見掛けたときに少し打ち解け始めていたように見えた表情も、再び硬くなってしまった。
常にお側に付いていた統括チームの面々はだいぶ気を遣っていたのは確かだ。だが、気遣いが空回ることも度々あり、苛立ちも見えた。
勝手に召喚しておいて有無を言わさず重責を担わせておきながら、対応がかたくなだと苛立つなどとは一体何様なのだろうと俺は思った。

それでも、さすがに王太子は終始穏やかに神子様をサポートしていたように思う。
ときに見過ごせないほど親密な接触を図る場面もあったが、異世界人の神子様はそれを王太子の気遣いなのだと捉えていたフシがある。
だから、そんな中で神子様が王太子に依存的になるのは致し方なかったのだろう。次第に二人の親密度は増した。
そう思っていた。

あの時までは。
あの、野営地の傍の森の中で唇を重ねる二人を見るまでは。

神子様はとっさに離れ走り去ろうとしたが、その手を引き留められ引き寄せられた。
王太子は懇願していた。受け入れて欲しい。そなたも気づいていただろう、と。
「いえ、そんなつもりはありません。誤解を生んだのなら謝罪します」
王太子に耳元で何かを囁かれ、神子様は抵抗をやめ引き寄せられるに任せた。
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