王子の宝剣

円玉

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第五章

#111 この手があったかと思いきや ※R

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 Rー15くらいです  

――――――――――――――――――――――――――――
大急ぎで鞍を付けて馬に跨がる。
王城の馬車道を飛ばしてとにかく駆ける。

宮殿の門衛に止められたが俺の顔を見ると「は、召喚者様!」と姿勢を正して敬礼をする。「エレオノール殿下がこちらにいらっしゃると聞いてッ」
「あ、はい。侍従長にお尋ね頂ければ」
俺は下馬すること無くそのまま長いアプローチを走りエントランスの馬車寄せ近くに進む。その時点で俺の存在に気づいた衛兵と侍従が慌てて寄ってきて「コレは召喚者様。そのようにお急ぎで何事かございましたか」と下馬後の馬をフォローしてくれたり玄関を開けて侍女達に声がけしたりしている。
玄関ホールに足を踏み入れたとき、即座に対応出来る位置にいた者達だけが慌てて整列して「ようこそ召喚者様」とお辞儀してくれた。

こういうときって先触れしないといけないんだったっけ。いきなり来ちゃうのはタブーなんだよな。でもそんな事言ってられるか。
「殿下は?お具合はどうなんですか?」
「は?」
「デュシコス様から殿下がお倒れになったと聞いて」
「・・・・・・」
「・・・・・・はっ、どうぞこちらに」
侍従長と女官長二人揃って一瞬沈黙した後急にハッとした侍従長が俺を誘導してくれた。その場で軽く頭を下げた女官長の目がうっすら笑っていたように感じたがその時はそれどころじゃ無かった。

王族の居住する宮殿という事もあり豪華な部屋が続いているような廊下を次々と通り過ぎ客室棟の方に移動する。
何故なんだ。本当に王子は俺が浮気していると思われているのか?
ただでさえお忙しいのにきっと随分と気を揉ませてしまったに違いない。
あり得ないのに。殿下だけなのに。

金の装飾が施されている白いドアの前に立つ護衛兵に侍従長が俺の来訪を告げ取り次いで貰う。
ドアの奥は次の間になっており、更に奥へと取り次ぐ。
少しの隙間だったドアが大きく開放され「どうぞ奥へ」と促されたときに俺は大股で突き進み奥の室内に足を踏み入れた。
入り口から正面のソファに王子の姿を見つけた途端、ダイブでもするかのように王子の座るソファの足元に滑り込み片膝をついて王子のお手を取り縋った。
「殿下!俺は浮気なんかしていませんッ!初めて殿下に忠誠を誓ったあの時のまま、俺の全ては殿下だけのものですッ!頭のてっぺんから足の先まで!産毛一本に至るまで殿下のお為以外には存在しません!どうか信じて下さい」
「・・・え、ダ、・・・ダイ?」
お目をまん丸に見開いて驚いている王子が俺の勢いに引いてしまったのか握られている手を少し引く。お顔がいつもより紅い。そう思うと耳も染まっている。
「お熱があるのですか?横になっていなくて大丈夫なのですか?お運びします。掴まって・・・」
「い、いえ、その必要はありません」
背と膝裏に腕を回して抱き上げようとする俺の手を王子が制した。

「ダイ?どうしたのですか?そんなに慌てて。少し冷静になって」
そう言われて俺は初めて気づいた。
その室内には王子以外に何人もの人が居ることに。

王子の脇の窓際にはホランド様。その手前のワゴン傍にはナーノ様。
そして。
入室時は背面では有ったものの王子と向かい側にあたる二つのソファには王太子殿下と宰相。その向こうに団長とオーデュカ長官が佇んでいた。

「息災のようだな、召喚者殿」
王太子は威厳を湛えた眩い笑顔でお声をかけて下さった。

・・・やっちまった・・・!


「ディコが・・・?」
戸惑ったように王子が呟くと団長とオーデュカ長官は爆笑し王太子は肩をふるわせた。
宰相は額を押さえてため息をつく。
何故かナーノ様は殺意の籠もった目で俺を見ていた。ホランド様は・・・まあ、いつものように天使の微笑みで。

「・・・確かに疲れが出て暫く休ませて欲しいと仮眠させて貰いました。・・・別に倒れたわけではないのですよ。ちょっとディコには大袈裟に伝わってしまったのでしょうか」
「いや、殿下、大事なところはそこじゃ無くないですか?」
オーデュカ長官が腹を抱えながら突っ込む。王子がポカンとしていると団長と宰相は「あっ、コラ!余計なことを」とオーデュカ長官を黙らせようとした。
王太子が余裕を感じさせる微笑みのまま「で?」と促した。
「第一声が『浮気なんかしていません』だった理由は?」
団長と宰相が固まった。

だからデュシコス様にいきなり叱責されたことやルネス様から見せられたゴシップ誌の事を伝えた。
頭を抱えているところを見ると団長と宰相はその記事を知っている様子だ。
「へえ、新聞ねえ・・・。あっ!ルネスその新聞持ってんだよね?・・・そっか、じゃあ後で見せてもらえばいいんだ」
オーデュカ長官がブツブツ言い始めた途端宰相が立ち上がり長官を引きずって「失礼します」と退室していった。団長はあからさまに『アイツ逃げやがった』という顔をしてそわそわし始めた。
「・・・まあ、先ずは二人でじっくりと話し合いなさい。我々は退散することにしよう。行くぞエヴォルト。ホランドも来い。ナーノは召喚者殿に茶を出したら退室するように」
王太子は立ち上がり、俺達二人きりにしてくれるために人払いを命じて出て行った。
その様子をただ見送るだけの状態でいつまでも王子の御前に跪いたままの俺を、王子が自分の横の座面に無言のまま招く。

気まずい沈黙が流れる中、ナーノ様がお茶を淹れる音だけが 聴こえる。
目の前に丁寧に茶器を置き姿勢を正し「それでは私もコレにて失礼させていただきます」と一礼してドアに向かう。
ただ、ナーノ様は去り際に爆弾を投下していった。
「ヤディンセン侯爵令息はまだ学生でございましたね。どうぞご自重を」
「いやっ、だから!そういうんじゃないから!」
思わず立ち上がる。が、俺の言葉が終わらないうちにドアを閉められてしまった。

「・・・ヤディンセン侯爵令息・・・・・・?」
呆然と閉じたドアを見つめ佇む俺の斜め下から王子の呟きが聞こえた。
「違います!シェルトンとは何も疚しいことは・・・」
「シェルトン!」
あ。
侯爵令息をファーストネーム呼び捨てしてしまった。
「親しげですね」
「・・・・・・最近、友達になりました」
「相手は学生なのに?」
「ダンジョンで知り合ったのです。彼は4人組のパーティのリーダーで」
ああ、ダンジョンで・・・と王子は何か納得したように纏っている空気が緩んだ。今だ!と思って俺は一気に知り合ってからのいきさつを話した。

何故デュシコス様が『浮気ネタ』に絡めて彼のことを訊いてきたのかは正直分からない。もし文官棟の立体庭園のテラスで二人で話し込んでいるところを誰かが見て誤解したとしても噂がデュシコス様に伝わるの早すぎない?
ゴシップ誌の破局記事にしてもまるで見てきたように決めつけた記事ばかりで悪意を感じるよまったく。
よほど俺達を破局させたいヤツが居るんだな。

「困りましたね」
王子が呟きながら俺の手を握り悲しげな眼を向ける。久し振りに間近で見る王子の憂いを含んだ瞳に心臓がぎゅううぅっとなった。
「これからは安心してダンジョンにも出かけさせられなくなってしまう」
そっと俺の脇から腕を回して抱きつきながらボソリと。
「もういっそどこかに閉じ込めてしまいたい」
わーっ!ヤンデレ発言来ちゃったよー。いや若干声の調子が含み笑いっぽかったから冗談だとは思うけど。
しかもアレだ。
ビミョーにやに下がっている俺がいる。いやいや別にそういう嗜好があるわけじゃないよ?久々のベタベタが嬉しいだけだよ?
ああ、ヤバい。ずっとご無沙汰だった王子の匂いが・・・。直撃。

なんだろう。少し物憂げな瞳が・・・誘っているようにしか見えない。
思わず唾を飲む。
えっと。・・・イイですよね。キスくらいなら。

王子の髪に指を滑り込ませて後頭部を支え最初は触れるだけの、そして下唇を食むような口づけを繰り返すと悩ましく息を吐いて王子の顎が上がる。
それを合図のように忍び込んで次第に深いキスをする。
舌を絡め合い、舌先で擽りながら誘い込み強く吸う。何度も角度を変えて深く弄る。
何故エロい気持ちが盛り上がるとやたら唾液の分泌が激しくなるのだろうか。
思わず音を立てて啜る。口内の水分が多くなるに従っていちいち音が激しくなるのが気恥ずかしいやら興奮するやら。
王子の掌が俺の背中を彷徨い時折チュニックを握りしめ、細い腰が時折切なげに身じろぐ。
あ、ヤバい。黄色信号。
いや違うな。既に赤信号だよ。止めろ。止めなきゃ。

だんだんとお互いの息が熱くなる。
王子の華奢な体を何かを探すみたいに弄り擦り上げる。時折良いところを掠めるとビクリと強ばって反応する。

いかん。・・・・・・ブ、ブレーキ・・・。

理性よ。俺の理性よ。仕事しろ。
王子はお疲れで限界だからここでお休みしていたんだから。

「・・・申し訳ありません。殿下の貴重な休憩時間に割り込んでしまい。・・・これ以上は自重します」
心を鬼にしてやっとの思いで僅かに離れ、抱きしめながら乱れる息のまま王子の耳元でそっと告げた。
「・・・んっ・・・」
その瞬間王子は拳で口許を押さえぎゅっと目を閉じて体を震わせた。
・・・ん?この反応?・・・え、ひょっとして・・・?

「酷い」
王子は俺の顔を両手で挟んで縋るように抗議してきた。
「そんな顔でそんな声で、私のことをこんなにして!このまま放置していくのですか?」
うっすらと気がついていたけど王子の中心が少し硬くなってアタっている。いやまあ俺のも既にキているのだけども。
「許しません。責任を取ってください」
もう半べそで言われてしまっては・・・。
「殿下がお望みであれば・・・でも、殿下はこの後も明日もお忙しいと・・・」
またそんな風に間近で密やかに囁くと、更に王子の体が戦慄いて。
「・・・ふぁ・・・っ、あ、ダメッ・・・も、もう声だけでイキそうッ」
再び拳で口許を押さえながら身を捩って膝をもじつかせる姿はもう俺の理性をすっ飛ばすには充分で。

思わず王子を抱き上げて素早く奥の扉を開け天蓋付きの寝台に抱いたまま倒れ込むように覆い被さって唇を貪った。
「お許しください。殿下は、お体を・・・休めなくてはならないのに」
「違うのです!私が・・・参っているのは、あな、あなたが・・・足りないからなんです。あっ、あなたに会えなすぎて・・・はぁ、何もかもがイヤになって・・・兄上や、アルマンド・・・に当たって、しまっ・・・いた、の・・・で・・・」
お互いに息を荒らげながら追い立てられるように相手のボタンを外し自分のベルトを外しはだけた隙間から手を滑り込ませ素肌を愛撫しながら服を剥ぎ取っていく。
王子のような繊細でやんごとなきお方に何て雑で荒々しい所業をぶちかましているんだ俺、このケダモノ!と思いながらも、それが何だか酷くイヤらしいことをしているような気がして更に昂ぶる。

「あっ・・・、あぁ・・・っ、んぁ・・・」
王子の吐息が甘くなり喘ぎに変わる。
後ろから抱きしめながら肩やうなじを食み、甘噛みする。片手で王子の局部を掴みそれぞれの指をバラバラに緩急を付けて握り根元から擦り上げるように扱く。
空いている方の手で前面を撫で擦った。
ほどよく引き締まっては居るが決して硬くは無い腹筋や細い腰回り、ほんのりと緩やかに曲線を描く胸元とその先端の突起。
相変わらず感じやすい腰骨のラインを指先でなぞると細切れの息を吐きながら腰を揺らす。
滑らかな内腿に俺の猛ったものを擦り付け、徐々に位置を変えて王子の裏側を刺激する。ややローリングするように少しだけ王子を俯かせ気味に倒して腰を動かす。
王子の切ないお声を聞きながら次第に自分の思考能力が低下していくのを感じる。

ああ・・・殿下。
・・・・・・もう、無理。
止められません!

思考能力が低下しつつも俺の頭の片隅でちらっとよぎった打算。
今、真っ昼間だから神殿光っても誰にも見えないよな・・・。
考えてもみなかった。
昼間にやりゃあ良いんじゃね?

翌日の朝刊には、『久し振りの逢瀬!』『昼間っからラブラブ!破局報道払拭』『神殿が虹色のもやで霞んだ!』という見出しが。

何その虹色のもやって!
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