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・地下室調教編(Day7~)

二日目 夜 2

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「ちくしょう。こんな……こんな身体にしやがって……」
 青年は、自分を抑えるために、そっと、息を吐いた。大きく肺が自分の胸郭のなかで萎んでいく。心臓がどきどきと脈打っている。そして、空っぽになった肺を大きくふくらませるために、空気を吸った。
 夜、独特の、空気だ。
 地下室にとじこめられているため、外で吸うような静かな透明なすきとおったような感覚はない。それでも、肺のなかに入って来た空気はまぎれもなく夜闇の気配を存分に含んでいた。
 月が出なければ、そこは漆黒。
 誰彼すら見分けがつかない。皆を平等に、全てをその漆黒のなかに閉じ込める。そんな時間帯だ。
 屋敷にきてからは、そんな夜に、空をみあげることになくなっていた。夕方から深夜まで、主にその時間帯が、屋敷が一番盛り上がる時間帯だからだ。
「ここに来る前は、よく、夜空をみあげていたな」
 ふふっと、青年の口元が自然と緩んだ。なつかしい思い出は、いまやはるか遠くへと遠のいてしまっている。
 もし、また――。
 かなうことがあれば。
 このまま、自由になれたら、あのときのように、再び、すがすがしい気分で夜空を見上げる日も来るのだろうか。
 だが――。
「屋敷を出る方法は主に二つ……」
 借金と雪だるま式にどんどん大きくなっていく利子・・をこの屋敷で、肉体・・を売って返して行く方法。
 そしてもうひとつが、脱走。
 前者は、望みが薄い。一秒ごとにバカみたいな利子がついてくるこの屋敷のシステムに飲み込まれたら、それこそ一生外に出れないのではないかと青年は思う。
 使用人の多くはこの屋敷の出身だが、彼らが返済につかった手段は真面目に、ひとつひとつ仕事をこなして、身体でかえしていったのではない。一生、藤滝の所有物・・・であるということを誓約して、それで、利子の追加が止まったから、彼らは借金を返済して、自由の身になることができたのだ。 
 それで屋敷を出ていったものもいると聞くがほとんどが、結局屋敷に残って使用人として藤滝に顎で使われている。すべてのお金を返しおわってあと、既にもう一般的な日常生活に戻れなくなってしまっている、だとか、既に藤滝の所有物となっているから、日常に戻れたとしても、彼がひとこえあげえばすぐに飛んでこなくてはならなくなるから、だとも。
 とにかく、自分が自分のまま、自由を得るためには、残されている道は、脱走しかない。
 だからこそ、これまで、自分ができる限りの手段でそれを試みてきたのだが――。
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