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しおりを挟むあと数歩で通りに出るという所で、フィーは足を止めた。
予め用意してあったカツラと布を、慌てて買い物籠から取り出して装着する。
先日判明した事だが、フィーの髪色は自分以外からだと蜂蜜色に見えているらしい。しかも鮮やかな…なのだそうだ…。
考えれば、自分が見ている色と、他人が見ている色が違うなんて思いもしないし、態々確認したりしない。
その為先日まで知らなかったのだが……燻み色ならまだしも、鮮やかと言うなら不味い。
それと言うのも、ボーカイネン王国の低位貴族から平民の髪色は、若干の濃淡はあれどほぼ茶色だ。
それ以外の色の場合、多くは貴族か他国民なのだが、その上で鮮やかな色味となると貴族である事が殆どなのだ。
つまり……目立つのは勿論、貴族と勘違いされる恐れがある。
撫子色も珍しい色合いではあるが、これまでフィーがオファーロ公爵邸から出るとしても、王宮か学院のみで、しかも馬車移動だ。
メイドである事は服装からも一目瞭然で、アンネッタを始めとした貴族令息令嬢の髪色や瞳の色に埋没出来ていた。
しかし下町の露店街となると話は別で、埋没する事は難しいだろう。
そのせいで警戒されては困る。
何故そんな色に見えてしまっているのか、フィーにもさっぱりわからないが、そう見えると言われれば、隠すしかないだろう。
カツラを被り、給食当番の様に布を三角巾にして髪を覆う。
顔立ちはどうしようもないが、これで無駄に警戒される事は避けられる筈だ。
ついでに土で手や顔を汚しておく。
買い物籠を腕に掛け、人通りの増え始めた露店通りを歩く。
ぐるりと見回せば、斡旋所が見えた。
フィーは其方へと足を向ける。
建物入り口脇に掲示板があるので、それを見上げた。
単発や短期の清掃業務や荷運び等、他には戦闘技能を必要とする職務募集の場合は、主に冒険者ギルドで取り扱うのだが、長期や住み込みの仕事、戦闘技能を必要としない場合は、斡旋所を見た方が早い。
(さてさて、どんな求人が出されてるのかな……と。
お…住み込みメイドや下男の求人は幾つかあるみたいね。ただ誰が募集してるとかの詳細は、中に入って職員に直接聞かないとダメみたい…。
この辺ってモーソー男爵家以外の貴族家ってあったかしら……)
フィーは掲示板の前で考え込む。
貴族家は記憶になかったが、商会が一つあった事を思い出した。さりげなく探る為には、モーソー男爵家だけに絞って聞き込むのは避けたい。
これでその辺の露店に聞き込みが出来そうである。
買い物を装って立ち並ぶ露店に近付く。
じっくりと観察して、野菜が並ぶ露店の店主に目を付けた。
お喋りで愛想の良さそうな中年女性が、行き交う人に声を掛けている。声を掛けられた人達も笑顔で応えていた。
顔役…とまではいかずとも、それなりに人脈は広そうだ。
「こんにちは」
「おや、嬢ちゃん、お使いかい?」
「うん!」
無邪気な子供を装って返事をすれば、露店の女性は途端に相好を崩した。
「えらいねぇ。それで何を買ってくんだい?」
「んと……」
フィーはポケットに手を突っ込み、小銭を出して見せた。
「今これだけしかないの…」
露店店主はフィーの手の中の小銭を見て、眉尻を下げた。
「そうだねえ、これと…これくらいなら」
女性は人参の様な根菜と小振りの芋を手に取った。
「買える?
良かった…お父さんに食べさせてあげられる」
フィーの呟きに女性が『え』と声を漏らす。
「嬢ちゃん…お父さん病気か何かなのかい?」
「……うん…」
悲し気に目を伏せれば、女性は泣きそうに顔をクシャリと歪めた。
「そうかい…それじゃあこの先不安だねぇ…」
「ぅん…だからお仕事も探さないといけないの…」
「ええ!!?? 嬢ちゃんが働くのかい!?
いや、まぁ…なくはないだろうけど…嬢ちゃんみたいな小さい子だと…」
「あ、私もだけど、お姉ちゃんが居るから」
並べた嘘を、露店の女店主が都合よく解釈してくれる。
「あぁ、姉さんの働き先か…そうだねぇ…嬢ちゃんの姉さんとなると…そうだ。この近くのヌユカ商会が売り子を募集してたと思うよ。
そこの斡旋所で聞くようにって、姉さんに教えてあげな」
「え…あ、ありがとうございます!」
「小さいのに…頑張ってるんだよ」
良い人過ぎて罪悪感に苛まれそうだが、フィーの方から商会名を出す手間が省けた。
だが、欲しい情報はそれじゃない。
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