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63話 勝利で幕引き
しおりを挟むセラやムゥは兎も角、まさかアレクが登録できると思っていなかったエリィも暫し呆然とするが、ケイティによれば理由は主に商人達にあったらしい。
従魔への保護機能を、元々輸送用に用いられていた馬や、警備犬等にも求めた結果なのだそうだ。
確かに言われれば納得できる理由ではある。
商人達にとって馬や犬等は、財産であると同時に大事な身内でもあるのだから、守るための機能があるならば使いたいと言いだしてもおかしくはない。
そういう経緯を経て、現在は主人であるギルド員が望めば、魔物ではなくとも登録できるようになったという話だ。
未だ『うにゃぁうにゃぁ』と、ぶぅたれるアレクを全員で宥めているうちに、ゲナイドがもう一人連れて戻ってきた。その後ろにもう一人男性が続いているが、そちらはケイティと同じ紺色のショートマントを羽織っているのでギルド職員だと思われる。
「おう、待たせちまったな。こいつはカムランってんだ、なかなかのイケメンだろ?」
紹介されたカムランもなかなかの高身長だが、ゲナイドほどゴツくないのと、そこそこ若そうに見えるため、5階級ギルド員だとは言われなければわからない。外見だけで言うなら、ホストバーの従業員と言われても違和感がない……こちらに『ホストバー』なるモノがあるかどうかは知らないが。
控えていた男性職員が一歩前に出てエリィに軽く会釈した後、くるりと180度振り返った。
「じゃあゲナイド様とカムラン様、お願いしますね。新人さんの確認ですので、やりすぎないで下さいよ? 特にゲナイド様、いいですね?」
「わーってるてば、相変わらずヴェルザンは細けえな。それじゃお嬢ちゃんはカムランに任せるぜ。俺はあのグリフォンとやりてぇからな」
「……わかった」
「エリィ様の準備が整えば始めましょう」
「はい。アレク、ムゥの事お願いね。セラ、行こうか」
アレクがムゥの身体の端っこを踏みつけるのを後目に、セラが首肯するのを確認すると、エリィも一歩進み出た。
「では武器はこちらの検定用をどちらも使ってください。魔法は…そうですね、今回は使用不可とさせてください。そちらの従魔が放つ魔法となれば、怪我で済まないかもしれませんので。では両者、良ければ訓練場の方へ出ましょうか。開始は任せます」
各々指定された武器を手にしたのを見て、ヴェルザンの言葉に従い全員休憩室から出る。
ヴェルザンとケイティは、出てすぐの場所で止まるが、それ以外の4名――エリィ、セラ、ゲナイド、カムランはそのまま進み、訓練場中央で足を止めた。
エリィとセラ、ゲナイドとカムランがそれぞれ向き合う。
「お嬢ちゃんのタイミングで始めていーぞ」
ニカッと大口を開けて笑うゲナイドに、カムランが溜息を吐いている。
【主殿、彼らの出方を窺うか?】
【どうしましょ…あちらとしては私達の方から仕掛けてほしいようだけど、少しだけ様子を見て、動かないようならこちらから、で】
【承知した】
【それにしてもと言うか、案の定と言うか…セラの魔法は不可になっちゃったわね】
【問題ない】
【頼もしいわ】
「検定なのにかかってこないのか? だったらこっちから行かせてもらうぜ」
言うが早いかゲナイドが、木剣を構えた後横一線にセラの胸元を狙うが、特に構えても居なかったセラが余裕で回避する。
「やるね~。だが、ちーっとばっかし遊んでくれや」
楽しそうな声をあげるゲナイドに、エリィの目の前のカムランの溜息が深まる。
息を吐き切った後、すっと顔を上げたかと思うと腰を落とし一気にエリィとの距離を詰め、上段から木剣を振り下ろす。
エリィはそれを軽く下がって回避した後、トンと跳躍してカムランの背後に着地しようとするが、流石にそう簡単には背後を取らせてはくれない。
振り向き様、カムランは剣を持ち換えて突いてくる。
それも身を引いて躱した刹那、再びエリィが軽く跳躍する。
「同じ手は悪手だぞ」
カムランが呟き、やや身を捻って背後を警戒するが、エリィはその瞬間を見逃さない。
カムランを飛び越えず、手前に着地し、すぐさま身を屈めてカムランの胸元に入り込み、その首元に木剣を突きつけた。
「おいおい、大型新人登場ってか……」
セラと対峙し警戒しながらも、エリィとカムランの様子も見ていたのか、ゲナイドは仲間があっさりと下された事に、驚愕を隠せない声音で呟いた。
視線を一瞬横へと流すゲナイドに、セラは前足で地面を軽く押し上体をやや持ち上げて、その顔面目掛けて前足を構える。
「ック…! どーすんだよ、これ勝てそうにないぜ」
構えて見せた前足をそのまま下へおろし、それを軸足にして身を捩り、間髪入れず後ろ足で蹴り上げる。
集中を戻したゲナイドが眼前に迫るセラの後ろ足を刀身で受け止め、グッと足に力を入れて反撃に転じる。
【そろそろ決着をつけて良いだろうか?】
【ぁ~、ごめんね、こっちがあっさり終わっちゃったせいで…】
【危なげも何もあらへんまま終わってしもてたな~】
【主様すごいのぉ~】
【5階級って言うのがどの程度なのかわからなかったのよ…あんなにすぐ終わるとは……】
繰り出される剣戟を難なく躱していたが、今度はセラが攻勢に転じた。
突き出される木剣を嘴で横から銜え止めるとそのままへし折る。その光景に目を見張っているゲナイドを容赦なく前足で抑え込み、セラが検定の幕を引いた。
「「「「……」」」」
息を乱しても居ないエリィと戦闘態勢を解いたセラに、敗北を喫したゲナイドとカムラン、そしてそれを見ていたケイティとヴェルザンは言葉も出ない。
形容しがたい沈黙が続く中、それを破ったのは大事の字になって寝そべったまま動かなかったゲナイドだった。
「いや~、本気でつえーな。おじさんびっくりだよ! まさかカムランがあんなにあっさり下されるなんざ、思ってもみなかったぜ」
よっこいせと上体を起こしたゲナイドが、一瞬カムランを見上げてからエリィに向けてニカッと笑顔を向けた。
そんな様子を呆然と眺めていたヴェルザンが、ハッと身を乗り出した。
「ゲナイド様、お怪我は?」
「んなモンねーよ、心配ありがとうよ」
ほっとした表情を浮かべたヴェルザンが、エリィ達に近づいてくる。
「お疲れ様でした。確認検定は終わりですので、少しお待ち頂いてもよろしいですか? それとプレートをお預かりさせて下さい」
差し出された手に、エリィは素直にプレートを渡す。
「ありがとうございます。それでは暫くお待ち下さい」
ヴェルザンが受け取ったプレートを手に一礼した後、ケイティに向き直り、彼女の持っていた書類を受け取る。
「私は報告してきますので、皆さんのご案内は任せますよ」
「!……ハ、ハイッ!」
ヴェルザンの後ろ姿に慌てて頭を下げたケイティが、ほぅっとどこか魂の抜けたような吐息を漏らした。
「すごかった……」
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