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閑話①
閑話ーリーベルタスとソフィアー
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ある晴れた日の午後、先日第2子である女の子を出産したスペンサー男爵夫人の元へ、朱色の髪を一括りにまとめた整った顔の色白の青年が訪ねてきた。
薄い桃色の産着を着せられた金色の髪の赤子を、若い母親が腕の中のに抱いている。食事が終わったばかりの赤子は、機嫌よくウトウトしているようだ。
「リーベル兄様っ! 戻られたのねっ!! おかえりなさい……っ?……ふぇぇっ!?」
「ソフィーっ、元気な女の子だってねっ バーナードもヒューイも喜んでるだろう …おめでとう」
機嫌のいい青年の声が帰ってくるが、それどころではない。赤子と同じ瑠璃色の大きな目が久しぶりに訪ねてくれた親しい来訪者の腕の中を見つめて、固まった。
「えぇ……ありがとう…リーベル兄様。で……、そのかわいい子は何処で攫ってきたのかしら?」
換気の為に開けられている窓から入り込んだ風が、赤子を抱いている若い母親ソフィアの銀色の髪をふわりと揺らした。その正面で自身と同じ髪色の首が座ったばかりであろう赤子を抱えている朱色の髪の来訪者リーベルタス。
この2人は、3歳違いで、年上のリーベルタスの母親とソフィアの父親が兄妹であり、いとこ同士にあたる。その上、幼い頃同じ邸で一緒に育てられた為、実の兄妹のような関係を築いている。
「やだなぁ、ソフィー。人を誘拐犯みたいに言わないでくれよっ」
「……リーベルタスお兄様っ!! ご説明をっ」
ソフィアが待望の第2子を産んでまだ2・3ヶ月の頃だった。1年半以上、姿を見せていなかった従兄であり兄のような存在であり、この国の第2王子であるリーベルタス・デューク・カークス若き公爵が、小さな――まだ首が座ったばかりであろう――赤子を抱いて現れたのだ。しかも、傍らにその親らしき人物も見当たらない。驚かない方がおかしな話だ。
妹のような存在であるソフィアに詰め寄られるがリーベルタスは何でもないことの様に、淡々とでも少し楽しそうに話してくれた。
「僕の子だよ。彼女がね、僕の為に産んでくれたんだ」
腕の中の子を愛おしそうに見つめるその横顔が、心から嬉しそうな半面ひどく寂しそうに見える。ソフィアは言葉に詰まってしまった。
「彼女は?」
「……一緒には来れないって」
「そんな…」
「いや、始めっから判ってたことなんだよ。向こうで一緒にいることはできても、こちらには来れない…」
「兄様……そんなの悲しいわ」
「大丈夫だよソフィア 僕は諦めたわけじゃないからねっ」
ソフィアたちが暮らすクラーワ王国を囲む切り立った岩肌の山々の奥深く、人の足では到底たどり着けないであろう奥地に、何処の国にも属さない一族が人知れず暮らしている。自国に腰を据えるのを嫌がるリーベルタスは、いつからかその地へ通う様になり、そこで一人の女性と出会った。互いに大事な関係になり、密かに親交を深めていた。その事はソフィアも本人から聞いて知っていた。
――いずれ、お会いできると思っていますのに
それこそ何年も前、リーベルタスが王都の高等学園に通っている頃からの関係であり、ソフィアや星獣達以外知らない秘密の恋人だった。
――ずっと、ずっと想い合っているのですものね
リーベルタスは第2王子という立場はあるが、出自のせいでその身の置き所が宙に浮いている。王族側に負目のある事情がある為、幸いなことに政略結婚や本人の意向を無視するような強引な扱いは受けてないない。
「兄様……」
スースーと寝息を立て始めた娘を近くのベビーベッドへと寝かすと、ソフィアはリーベルタスも向いのソファに座る様に促した。リーベルタスが席に着くのを見計らってソフィア付きの従者である一角獣座のユニがお茶を入れてくれる。ユニはにこにこと微笑み「さすがお坊ちゃま」などと言って喜んでいるようだ。
「……兄様が決めた事だものね…私にできる事ならなんだって協力するわっ」
「ありがとうソフィー、早速なんだけどね?」
リーベルタスの腕の中で、朱色の髪がもそもそと揺れ動いている。目は開いていないが、そろそろ起きるのかもしれない。
「なぁに? リーベル兄様」
「うん。緊急を要するんだけどねソフィア。赤子に飲ませる乳は余っていないかい?」
その言葉に、ソフィアの小さな口が、パカッと開いてしまった。「持たせてもらったミルクもうなくなっちゃって」と頭を搔きながら笑うリーベルタスに、執事のユニも呆れた顔を向けていた。
「リーベル兄様? まさか何の手立てもなく乳飲み子連れてきたのかしら? ……考えなさ過ぎで、呆れを通り越して怒りを覚えるわよ…兄様」
「いつも苦労を掛けるねっ ソフィー、僕の可愛い妹姫、想定してたよりもいっぱい飲むんだよこの子っ! お願いだよソフィーっ」
「はぁ…私が子を産んだって、ここに来てから知ったんでしょう? 全くどうするつもりだったのですかっ!!」
「本当にねっ……うん、実にいいタイミングだった。さすが優秀で可愛いソフィーだと思ったよっ」
「リーベル兄様……いつも都合いい時だけ、そういうふうに言うんだからっ」
「だめじゃないだろう?」
仕方ないと溜息をおとす従妹に、リーベルタスはいつもと変わらない風に笑顔を返す。
「丁度、セリーナの乳母をお願いする方を探していたの…候補の方々がいらっしゃるわっ……聞いてみましょう」
リーベルタスはいい子で寝ている我が子をベビーベッドの中のセリーナの隣に寝かし、少々スペンサー家の使用人に世話を任せてソフィアと共に部屋を出た。世話をしてくれるのは、リーベルタスもソフィアもお世話してもらった事のある使用人だった。
*
*
快くリーベルタスの子、ルードヴィヒの乳母を引き受けてくれた女性を伴って部屋に戻ってくると、ベビーベッドの中で向かい合いお互いの指をしゃぶり合っているセリーナとルードヴィヒの姿がそこにあった。ちょうど同じころに目を覚まし、泣きもせずお互いの顔を触って遊んでいたそうだ。
セリーナはお腹いっぱいで眠ったが、ルードヴィヒに関してはソロソロお腹を空かせて不機嫌に泣いていてもいい頃のはずだった。
「ねぇ兄様、この子……ちょうだい。いっその事この子、家で育てるわっ」
「っ!? 何言ってるんだいソフィー」
「だってこんなに仲がいいんだもの。引き離すのは可愛そうでしょう? 私が双子を産んだことにすれば…」
「ソフィー……いくらソフィーでも、僕から愛おしい我が子を取り上げるのは許さないよっ? 」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2人が産まれた頃のお話しでしたっ
リーベルタスはきっと腹黒だと思う。身内に優しく、敵には真っ黒……かな?
薄い桃色の産着を着せられた金色の髪の赤子を、若い母親が腕の中のに抱いている。食事が終わったばかりの赤子は、機嫌よくウトウトしているようだ。
「リーベル兄様っ! 戻られたのねっ!! おかえりなさい……っ?……ふぇぇっ!?」
「ソフィーっ、元気な女の子だってねっ バーナードもヒューイも喜んでるだろう …おめでとう」
機嫌のいい青年の声が帰ってくるが、それどころではない。赤子と同じ瑠璃色の大きな目が久しぶりに訪ねてくれた親しい来訪者の腕の中を見つめて、固まった。
「えぇ……ありがとう…リーベル兄様。で……、そのかわいい子は何処で攫ってきたのかしら?」
換気の為に開けられている窓から入り込んだ風が、赤子を抱いている若い母親ソフィアの銀色の髪をふわりと揺らした。その正面で自身と同じ髪色の首が座ったばかりであろう赤子を抱えている朱色の髪の来訪者リーベルタス。
この2人は、3歳違いで、年上のリーベルタスの母親とソフィアの父親が兄妹であり、いとこ同士にあたる。その上、幼い頃同じ邸で一緒に育てられた為、実の兄妹のような関係を築いている。
「やだなぁ、ソフィー。人を誘拐犯みたいに言わないでくれよっ」
「……リーベルタスお兄様っ!! ご説明をっ」
ソフィアが待望の第2子を産んでまだ2・3ヶ月の頃だった。1年半以上、姿を見せていなかった従兄であり兄のような存在であり、この国の第2王子であるリーベルタス・デューク・カークス若き公爵が、小さな――まだ首が座ったばかりであろう――赤子を抱いて現れたのだ。しかも、傍らにその親らしき人物も見当たらない。驚かない方がおかしな話だ。
妹のような存在であるソフィアに詰め寄られるがリーベルタスは何でもないことの様に、淡々とでも少し楽しそうに話してくれた。
「僕の子だよ。彼女がね、僕の為に産んでくれたんだ」
腕の中の子を愛おしそうに見つめるその横顔が、心から嬉しそうな半面ひどく寂しそうに見える。ソフィアは言葉に詰まってしまった。
「彼女は?」
「……一緒には来れないって」
「そんな…」
「いや、始めっから判ってたことなんだよ。向こうで一緒にいることはできても、こちらには来れない…」
「兄様……そんなの悲しいわ」
「大丈夫だよソフィア 僕は諦めたわけじゃないからねっ」
ソフィアたちが暮らすクラーワ王国を囲む切り立った岩肌の山々の奥深く、人の足では到底たどり着けないであろう奥地に、何処の国にも属さない一族が人知れず暮らしている。自国に腰を据えるのを嫌がるリーベルタスは、いつからかその地へ通う様になり、そこで一人の女性と出会った。互いに大事な関係になり、密かに親交を深めていた。その事はソフィアも本人から聞いて知っていた。
――いずれ、お会いできると思っていますのに
それこそ何年も前、リーベルタスが王都の高等学園に通っている頃からの関係であり、ソフィアや星獣達以外知らない秘密の恋人だった。
――ずっと、ずっと想い合っているのですものね
リーベルタスは第2王子という立場はあるが、出自のせいでその身の置き所が宙に浮いている。王族側に負目のある事情がある為、幸いなことに政略結婚や本人の意向を無視するような強引な扱いは受けてないない。
「兄様……」
スースーと寝息を立て始めた娘を近くのベビーベッドへと寝かすと、ソフィアはリーベルタスも向いのソファに座る様に促した。リーベルタスが席に着くのを見計らってソフィア付きの従者である一角獣座のユニがお茶を入れてくれる。ユニはにこにこと微笑み「さすがお坊ちゃま」などと言って喜んでいるようだ。
「……兄様が決めた事だものね…私にできる事ならなんだって協力するわっ」
「ありがとうソフィー、早速なんだけどね?」
リーベルタスの腕の中で、朱色の髪がもそもそと揺れ動いている。目は開いていないが、そろそろ起きるのかもしれない。
「なぁに? リーベル兄様」
「うん。緊急を要するんだけどねソフィア。赤子に飲ませる乳は余っていないかい?」
その言葉に、ソフィアの小さな口が、パカッと開いてしまった。「持たせてもらったミルクもうなくなっちゃって」と頭を搔きながら笑うリーベルタスに、執事のユニも呆れた顔を向けていた。
「リーベル兄様? まさか何の手立てもなく乳飲み子連れてきたのかしら? ……考えなさ過ぎで、呆れを通り越して怒りを覚えるわよ…兄様」
「いつも苦労を掛けるねっ ソフィー、僕の可愛い妹姫、想定してたよりもいっぱい飲むんだよこの子っ! お願いだよソフィーっ」
「はぁ…私が子を産んだって、ここに来てから知ったんでしょう? 全くどうするつもりだったのですかっ!!」
「本当にねっ……うん、実にいいタイミングだった。さすが優秀で可愛いソフィーだと思ったよっ」
「リーベル兄様……いつも都合いい時だけ、そういうふうに言うんだからっ」
「だめじゃないだろう?」
仕方ないと溜息をおとす従妹に、リーベルタスはいつもと変わらない風に笑顔を返す。
「丁度、セリーナの乳母をお願いする方を探していたの…候補の方々がいらっしゃるわっ……聞いてみましょう」
リーベルタスはいい子で寝ている我が子をベビーベッドの中のセリーナの隣に寝かし、少々スペンサー家の使用人に世話を任せてソフィアと共に部屋を出た。世話をしてくれるのは、リーベルタスもソフィアもお世話してもらった事のある使用人だった。
*
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快くリーベルタスの子、ルードヴィヒの乳母を引き受けてくれた女性を伴って部屋に戻ってくると、ベビーベッドの中で向かい合いお互いの指をしゃぶり合っているセリーナとルードヴィヒの姿がそこにあった。ちょうど同じころに目を覚まし、泣きもせずお互いの顔を触って遊んでいたそうだ。
セリーナはお腹いっぱいで眠ったが、ルードヴィヒに関してはソロソロお腹を空かせて不機嫌に泣いていてもいい頃のはずだった。
「ねぇ兄様、この子……ちょうだい。いっその事この子、家で育てるわっ」
「っ!? 何言ってるんだいソフィー」
「だってこんなに仲がいいんだもの。引き離すのは可愛そうでしょう? 私が双子を産んだことにすれば…」
「ソフィー……いくらソフィーでも、僕から愛おしい我が子を取り上げるのは許さないよっ? 」
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