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「来る、きっと来る、隣国の着ぐるみ王太子」
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どうもお久しぶりです!わたし、新婚ホヤホヤのユーリア!またの名をカミュ先生のリア!!人妻のリアのがいいかしら?!
わたしとカミュ先生は、わたしが学院を卒業してから半年後に結婚した。通常、貴族の結婚は婚約期間を1年程度は設けてその間に結婚式の準備などをするのだけど、わたしとカミュ先生の場合、カミュ先生の方がうちにお婿さんにきてくれるということと、領地に引っ込む予定なこともあってか大した準備も必要ないということになり異例の速さで結婚に至ったのだ。
まあ、実のところカミュ先生のわたしへの愛が深すぎて待ちきれなかったとか?!そんな感じ?!
「単にあんたがフラフラしそうで心配だったから早めに捕獲しただけじゃないの?」
「名誉毀損!!」
「後はアレク達への当てつけかしらねー。カミュって先行逃げ切りタイプね」
「人の旦那様を競走馬扱いしないで?!」
「いやあ、後半のアレク達の追い込みもなかなかすごかったわよねえ。もうちょっとコースが長かったらどの馬が1着だったかわからなかったんじゃない?」
「だから競馬じゃない!!」
卒業してもルルの毒舌は健在だ。
「何よ。着ぐるみじゃなくなったアレク達に迫られてまんざらでもなかったくせ。」
「う…」
「言い返せないでしょう」
「うう……ルルの意地悪…」
だってだってだって!!!
着ぐるみじゃなくなったアレク様もシルヴィ様もレイトン様もミラ様もみんなみんなアイドルばりの美少年だったんだもん!!アイドル級の美少年に迫られたらときめくのもふらっとくるのも仕方ないじゃない!わたしイケメンが大好きなんだものっ!!
「ま、カミュもそれを見越して最速で結婚まで持ち込んだんだから見事の一言よねえ。関心したわ。」
そういうルルはといえば婚約相手との結婚を間近に控えている。ルルの方はしっかり1年の婚約期間を設けてからの結婚だ。
エイレーン様は皇太子様からの熱烈なアプローチを受けて婚約が内定したとこの間こっそり教えていただいた。もうしばらくしたら正式に発表されるらしい。大親友のレイチェル様は婚活中、なかなかいい人がいないと嘆いていたけどそろそろ決めるつもりだとも言っていたので嬉しい知らせももうすぐだろう。
「それにしても…」
ルルの溜息に、
はっと自分達がどこにいたかを思い出しそっと姿勢を伸ばしてから扇で顔を隠す。顔は動かさず、目線だけで周囲へ視線をめぐらし、ほっと息を吐いた。
「緊張するね。初めての社交界!」
「あんたの保護者がいないから余計にね…」
「大丈夫、人妻になったからにはキース理事長にだってぐらつかないから!」
「どうだか…」
そう。
わたし達は今、成人して初めての夜会に来ているのだ!
学院を卒業し、成人して初めて参加が許される社交界。普通なら婚約中ならその相手と、結婚していれば夫婦で参加するものなのだが、のっぴきならないお腹の事情があってカミュ先生もルルの婚約者も不在である。カミュ先生は最後までわたしも欠席することを勧めてくれていたけれどカミュ先生の妻としてルドフォン伯爵夫人として伯爵家を背負う身として!!夫が出席できないなら代わりに出席してきちんと社交をするのが妻の役目!いよっ!わたしってば妻の鏡!
ちなみに今夜の夜会のためにと夫!が用意してくれた扇は人妻にふさわしい落ち着いた黒。けれどよく見ればレースとパールで飾られた繊細な造りになっている一級品。黒は、夫の色。夫婦で同じ色をどこかに纏うのがマナーなのでこれはカミュ先生の瞳の色。誇らしくて嬉しくて…むずむずしてしまう。
「頼むわよ、本当に。わたしの婚約者のせいでカミュも来れなくなったんだから…あんたに何かあったらわたしもカミュと一緒にいる彼もどんな目に合うかわかんないんだから…」
「やだなぁ。ルルったら大げさなんだから。」
「…無知って罪よね……。」
とにかく!今日のわたしはあんたの監視役だから!と。
婚約してますます美少女っぷりに磨きがかかったルルに睨まれる。何気につかまれた腕が痛い。さすが元着ぐるみ、怪力だ。言ったら殴られそうなので言わないけど。
今夜のルルはさすがは圧巻の、真紅のドレス。金糸の刺繍は胸元だけを飾り華美になりすぎていない。身につけているアクセサリーが小ぶりで控えめなことも派手な色でも下品に見せないのだろう。ルルの婚約者の色は、髪飾りに使われている。ルルのピンクの髪にはブラウンがよく映える。
わたしはといえば、アイスブルーの露出を抑えたドレスだ。胸元が大きく開いたルルのドレスとは対照的な、首元まで詰まったドレスだけれど胸元から上がレースになっているので重くはならない。飾りのないシンプルなドレスだから、大ぶりなダイヤのネックレスをチョイスしてみた。
夜会はまだ始まったばかり。皇族の皆様はもちろん貴族でもまだ到着していない人もいる。こんなに早くから着いているのは夜会に不慣れな人だけかもしれない。わたしとルルみたいに。時間厳守が常識の元日本人同士の悲しい性よね…。
「そういえば隣国から王太子が来てるって聞いた?ルル」
ふと思い出し、隣のルルを見れば
何故かものすごく嫌そうな顔をしていた。
「え、知り合い?」
「そんなわけないでしょ。しがない子爵家の娘が隣国の王太子様と知り合えるわけないじゃない。」
「じゃあどうして…」
「嫌な予感しかしないからよ。」
―――――予感は、的中した。
「…っ、き、き、き………っっ!き、着ぐるみ!!ルル!!一体どういうこと?!どこからどう見ても隣国の王太子様が着ぐるみに見えるんだけど?!」
ゲームは終わったはずじゃなかったの?!せっかくみんな人間に戻ったのになんでまた着ぐるみが出てくるの?!
「ちっ……やっぱりそうきたか…」
「そうきたってどうきてるの?!」
「嫌な予感はしてたのよ。隣国の王太子っていえばアレク達以上の美貌で有名だから。」
駄目だ。
一度持ち上げてから叩き落されるとはこのこと。油断してただけに恐怖が半端ない。
遠目で見てるだけなのにもう鳥肌がたっている。
知らない、そんな噂聞いてない、と。
わたしは泣きそうになりながらルルに無言で訴えた。カミュ先生の扇が折れた音がしたけれどそんなことは今気にしてはいられない。凶器へと変貌した扇を握り締めたまま、ルルの豊かな胸に助けを求める。
「金の着ぐるみ再び…」
隣国の王太子様は、アレク様だった金の着ぐるみがバージョンアップしたような姿だった。でかい。アレク殿下達より遥かにデカイ。2メートル以上はありそうだ。無理。
「アレクが太陽ならあれは月って言われてるらしいわよ。」
「ここにきてまた中2病!?太陽も月も人間でも着ぐるみでもなくて惑星だよ?!」
「ちょっと野生的なところがたまらないわよね。しかもかなりの切れ者っていう噂。独身、婚約者なしの花嫁募集中。」
「棒読みだよルル!!」
「切れ長の目が…」
「確かにいくらか目は小さい?!でも着ぐるみ!しっかりした布感!」
何故、今更。
とうに学院も卒業した今、どうしてまた着ぐるみ再来なのか。呪いは解けたのではなかったのだろうか。
「…………………………き…のせい~かなぁ?!着ぐるみがこっちに向かって歩いてるように見える?」
「……………あんたとわたし、どっちだと思う?」
「何言ってるの?!ヒロインはルルなんだからルルでしょう?!ちょっ…ちょっと離して??何で掴むのっ」
わたしもルルも。
迫り来る着ぐるみから目が逸らせないまま、後ろ手では懸命の攻防をしていた。
「親友を置いて一人だけ逃げるなんて許さないわよ。」
「に、逃げるだなんてそんな、ひ、人聞きの悪い。モブは邪魔しちゃいけないと思って」
「まさかの続編スタートね。ヒロインはまだわたしなのか、それともあんたか。」
「にゃ、にゃんでわたし??!!」
「続編ではヒロインが変わることもよくあることよ。続編というよりアナザーストーリーかしらね。」
どうして。
何で。
ゲームの世界とは完全に分離したはずだったのに!!!
「…やっぱり世界の陰謀なの……?」
「元はひとつだったものだからくっつきやすいのかも…ほら、引力的な…」
「世界の悪意しか感じない………!!!」
「初めましてレディ、よろしければわたしと踊っていただけませんか?」
「「だが断る!!!」」
わたしとカミュ先生は、わたしが学院を卒業してから半年後に結婚した。通常、貴族の結婚は婚約期間を1年程度は設けてその間に結婚式の準備などをするのだけど、わたしとカミュ先生の場合、カミュ先生の方がうちにお婿さんにきてくれるということと、領地に引っ込む予定なこともあってか大した準備も必要ないということになり異例の速さで結婚に至ったのだ。
まあ、実のところカミュ先生のわたしへの愛が深すぎて待ちきれなかったとか?!そんな感じ?!
「単にあんたがフラフラしそうで心配だったから早めに捕獲しただけじゃないの?」
「名誉毀損!!」
「後はアレク達への当てつけかしらねー。カミュって先行逃げ切りタイプね」
「人の旦那様を競走馬扱いしないで?!」
「いやあ、後半のアレク達の追い込みもなかなかすごかったわよねえ。もうちょっとコースが長かったらどの馬が1着だったかわからなかったんじゃない?」
「だから競馬じゃない!!」
卒業してもルルの毒舌は健在だ。
「何よ。着ぐるみじゃなくなったアレク達に迫られてまんざらでもなかったくせ。」
「う…」
「言い返せないでしょう」
「うう……ルルの意地悪…」
だってだってだって!!!
着ぐるみじゃなくなったアレク様もシルヴィ様もレイトン様もミラ様もみんなみんなアイドルばりの美少年だったんだもん!!アイドル級の美少年に迫られたらときめくのもふらっとくるのも仕方ないじゃない!わたしイケメンが大好きなんだものっ!!
「ま、カミュもそれを見越して最速で結婚まで持ち込んだんだから見事の一言よねえ。関心したわ。」
そういうルルはといえば婚約相手との結婚を間近に控えている。ルルの方はしっかり1年の婚約期間を設けてからの結婚だ。
エイレーン様は皇太子様からの熱烈なアプローチを受けて婚約が内定したとこの間こっそり教えていただいた。もうしばらくしたら正式に発表されるらしい。大親友のレイチェル様は婚活中、なかなかいい人がいないと嘆いていたけどそろそろ決めるつもりだとも言っていたので嬉しい知らせももうすぐだろう。
「それにしても…」
ルルの溜息に、
はっと自分達がどこにいたかを思い出しそっと姿勢を伸ばしてから扇で顔を隠す。顔は動かさず、目線だけで周囲へ視線をめぐらし、ほっと息を吐いた。
「緊張するね。初めての社交界!」
「あんたの保護者がいないから余計にね…」
「大丈夫、人妻になったからにはキース理事長にだってぐらつかないから!」
「どうだか…」
そう。
わたし達は今、成人して初めての夜会に来ているのだ!
学院を卒業し、成人して初めて参加が許される社交界。普通なら婚約中ならその相手と、結婚していれば夫婦で参加するものなのだが、のっぴきならないお腹の事情があってカミュ先生もルルの婚約者も不在である。カミュ先生は最後までわたしも欠席することを勧めてくれていたけれどカミュ先生の妻としてルドフォン伯爵夫人として伯爵家を背負う身として!!夫が出席できないなら代わりに出席してきちんと社交をするのが妻の役目!いよっ!わたしってば妻の鏡!
ちなみに今夜の夜会のためにと夫!が用意してくれた扇は人妻にふさわしい落ち着いた黒。けれどよく見ればレースとパールで飾られた繊細な造りになっている一級品。黒は、夫の色。夫婦で同じ色をどこかに纏うのがマナーなのでこれはカミュ先生の瞳の色。誇らしくて嬉しくて…むずむずしてしまう。
「頼むわよ、本当に。わたしの婚約者のせいでカミュも来れなくなったんだから…あんたに何かあったらわたしもカミュと一緒にいる彼もどんな目に合うかわかんないんだから…」
「やだなぁ。ルルったら大げさなんだから。」
「…無知って罪よね……。」
とにかく!今日のわたしはあんたの監視役だから!と。
婚約してますます美少女っぷりに磨きがかかったルルに睨まれる。何気につかまれた腕が痛い。さすが元着ぐるみ、怪力だ。言ったら殴られそうなので言わないけど。
今夜のルルはさすがは圧巻の、真紅のドレス。金糸の刺繍は胸元だけを飾り華美になりすぎていない。身につけているアクセサリーが小ぶりで控えめなことも派手な色でも下品に見せないのだろう。ルルの婚約者の色は、髪飾りに使われている。ルルのピンクの髪にはブラウンがよく映える。
わたしはといえば、アイスブルーの露出を抑えたドレスだ。胸元が大きく開いたルルのドレスとは対照的な、首元まで詰まったドレスだけれど胸元から上がレースになっているので重くはならない。飾りのないシンプルなドレスだから、大ぶりなダイヤのネックレスをチョイスしてみた。
夜会はまだ始まったばかり。皇族の皆様はもちろん貴族でもまだ到着していない人もいる。こんなに早くから着いているのは夜会に不慣れな人だけかもしれない。わたしとルルみたいに。時間厳守が常識の元日本人同士の悲しい性よね…。
「そういえば隣国から王太子が来てるって聞いた?ルル」
ふと思い出し、隣のルルを見れば
何故かものすごく嫌そうな顔をしていた。
「え、知り合い?」
「そんなわけないでしょ。しがない子爵家の娘が隣国の王太子様と知り合えるわけないじゃない。」
「じゃあどうして…」
「嫌な予感しかしないからよ。」
―――――予感は、的中した。
「…っ、き、き、き………っっ!き、着ぐるみ!!ルル!!一体どういうこと?!どこからどう見ても隣国の王太子様が着ぐるみに見えるんだけど?!」
ゲームは終わったはずじゃなかったの?!せっかくみんな人間に戻ったのになんでまた着ぐるみが出てくるの?!
「ちっ……やっぱりそうきたか…」
「そうきたってどうきてるの?!」
「嫌な予感はしてたのよ。隣国の王太子っていえばアレク達以上の美貌で有名だから。」
駄目だ。
一度持ち上げてから叩き落されるとはこのこと。油断してただけに恐怖が半端ない。
遠目で見てるだけなのにもう鳥肌がたっている。
知らない、そんな噂聞いてない、と。
わたしは泣きそうになりながらルルに無言で訴えた。カミュ先生の扇が折れた音がしたけれどそんなことは今気にしてはいられない。凶器へと変貌した扇を握り締めたまま、ルルの豊かな胸に助けを求める。
「金の着ぐるみ再び…」
隣国の王太子様は、アレク様だった金の着ぐるみがバージョンアップしたような姿だった。でかい。アレク殿下達より遥かにデカイ。2メートル以上はありそうだ。無理。
「アレクが太陽ならあれは月って言われてるらしいわよ。」
「ここにきてまた中2病!?太陽も月も人間でも着ぐるみでもなくて惑星だよ?!」
「ちょっと野生的なところがたまらないわよね。しかもかなりの切れ者っていう噂。独身、婚約者なしの花嫁募集中。」
「棒読みだよルル!!」
「切れ長の目が…」
「確かにいくらか目は小さい?!でも着ぐるみ!しっかりした布感!」
何故、今更。
とうに学院も卒業した今、どうしてまた着ぐるみ再来なのか。呪いは解けたのではなかったのだろうか。
「…………………………き…のせい~かなぁ?!着ぐるみがこっちに向かって歩いてるように見える?」
「……………あんたとわたし、どっちだと思う?」
「何言ってるの?!ヒロインはルルなんだからルルでしょう?!ちょっ…ちょっと離して??何で掴むのっ」
わたしもルルも。
迫り来る着ぐるみから目が逸らせないまま、後ろ手では懸命の攻防をしていた。
「親友を置いて一人だけ逃げるなんて許さないわよ。」
「に、逃げるだなんてそんな、ひ、人聞きの悪い。モブは邪魔しちゃいけないと思って」
「まさかの続編スタートね。ヒロインはまだわたしなのか、それともあんたか。」
「にゃ、にゃんでわたし??!!」
「続編ではヒロインが変わることもよくあることよ。続編というよりアナザーストーリーかしらね。」
どうして。
何で。
ゲームの世界とは完全に分離したはずだったのに!!!
「…やっぱり世界の陰謀なの……?」
「元はひとつだったものだからくっつきやすいのかも…ほら、引力的な…」
「世界の悪意しか感じない………!!!」
「初めましてレディ、よろしければわたしと踊っていただけませんか?」
「「だが断る!!!」」
応援ありがとうございます!
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