267 / 308
第一章 辺境の町
第171話 マジックバッグ
しおりを挟むこれで私の『索敵』範囲内には、反応がなくなった訳だけど……。
「……まだ、いる?」
「いや……とりあえず今のところはまだ大丈夫だ。お疲れさん」
思わずリノと顔を見合せ、ほっと安堵の息を吐いた。ラグナードの『索敵』範囲は広いから一安心です。
「ありがとうございます。これ以上、連戦にならなくて良かったです……」
「本当、そうだよね。助かった」
さて、後はこの大量の素材をどうするかだけど……。
「まあ、流石に全部は持ち帰れないよね」
「そうだな。勿体無いが選別することにしよう」
「……はい、仕方ないですよね」
三体分のスモールボアの解体と、広範囲に散らばっている大量のサイレントキラー・プランツの実。
幸い、短時間の安全なら確保出来たようなので、それぞれの得意分野で手分けして作業することにした。
『解体』スキルを持つラグナードとリノがスモールボアをばらしている間に、『採取』スキルがある私が実を集めてまわる。
相次ぐ戦いで損傷した実は多く、『嗅覚強化』があるせいかやたらと甘ったるい匂いが鼻につく。こうなるともう、美味しそうとは思えないというかね。
例えるなら、何種類もの香水をまとめてぶちまけたような強烈過ぎる香りに包まれているといった感じかな。頭が痛くなるほどだ。
私でさえそうなのだから、より『嗅覚強化』スキルのレベルが高い二人にはもっと深刻そうで、少しでも早くこの場所から離れるべく、手早く作業を進めていった。
無事なものを選別し一袋分集めた所で、ラグナード達も一体の解体をほぼ終わらせたらしい。
「そろそろ離れた方がいい。急ごう」
「はい」
「分かった」
ここまでで、結構時間が経っている。
実を拾うのは中止して、魔石と二本の大きな牙、毛皮、枝肉に分けられた素材を仕舞っていく。大きいので一体だけでもかなりの重量になる。これで三人分の背負子は一杯になるだろう。
「……やっぱり、残り二体のお肉、置いていくとなると惜しくなっちゃいます」
「残念だけどね……運べないし。何気にお肉が食べれる大型魔物って、私達は初成果だったし惜しい気もするけど」
「ですよね。分かっているんですけど……マジックバッグがあればなぁって思っちゃうんです」
「まあね。でもあれってすごく高いから私達じゃ当分買えないから。それこそラグナードくらい強くならないと」
「確かにそれくらい稼げる人じゃないと無理ですよね。というかラグさんならもう持ってたり、したりして……?」
んんっ?
今、ピクピクって耳が動いたんですけど、それって……?
「えっ、まさか……?」
「はぁ仕方ない。これは秘密だ……守れるな?」
「う、うん。もちろん……じゃあ?」
「ああ、持っているよ」
やっぱり。耳や尻尾が条件反射で動いてしまうので、誤魔化せなかったらしい……なんかゴメン。
「人族の町では絶対数が少なすぎて、持っているだけでトラブルの元になるからな。町の奴らには知らせていない」
「そうだったんですか。私達、絶対言いませんから。でも、確かにマジックバッグ持っている人って今まで一度も見たことないです。高いだけじゃなくて数自体も少なかったんですね」
「あれ? でもマールさんの魔道具屋に一個だけ売ってたような?」
「ああっ、確かに」
「あるにはあるが……あの店主、金を積まれても売るつもりはないみたいだったぞ」
客寄せ的な意味合いと、店の格のために一つだけ置いてあるって事らしい。
「そうだったんですか」
「ああ。じゃあもうバレた事だしあっちのも取ってくるか。ここは頼む」
「はい」
「分かった」
丸ごと回収してくると言って、ラグナードが残り二体のある場所へ向かっていく。
乱立する樹木と背の高い草藪、不規則に隆起する地形により、三頭の倒れた位置は近いのにそれぞれが微妙に死角になっているため、すぐにその姿は見えなくなった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
925
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる