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第一章 辺境の町
第166話 大体、噂のせい
しおりを挟む「とっても美味しいです……」
「ふふっ、お口にあってよかったわ。こうして同族と食事するのも久しぶりだから、張り切っちゃったっ」
そう言ってシルエラさんが、すごく嬉しそうに微笑んだ。あ、耳が控えめにピコピコ動いてるっ。そうか、エルフってうれしいと耳が自然に動くんだ……知らなかった。可愛いなぁ、もう!
「そういえば人族の間では、エルフの若さの秘訣は昆虫食を食べてるからだって昔から信じられてたらしいわよ。もちろん違うんですけれどね」
「へぇ、そんな事が……」
――誰だそんな傍迷惑な噂を流したの。
エルフの外見は、生まれて十年間で人族に例えると二十年分くらい急成長をするけど、それ以降は寿命を終えるまでほぼ容姿に変化はない。
それは種族特性によるもので、決して昆虫食のせいじゃないと言うのに、今でも根強く信じる人もいるらしい。
まぁ、歳を重ねても若々しい外見に憧れるというのも、分からなくはないんだけどね。
その誤解から、エルフの郷土料理は広まっていったようなものなんだって。伝えられた調理法が思いの外簡単だった事と、素材が辺境ほど手に入りやすい上に栄養価も高く美味しい事から、今では人族のどの町でも食べられるようになったという……。
シルエラさんも一時期、冒険者をしていた事があったそうで、その時は人族の町でこんなに身近に食べられていると知って驚いたんだって。でも、おかげで故郷の味を恋しく思い出す事もなく、快適な旅ができたらしい。
私にとっては衝撃の料理だったけど、そんな歴史があったとは……。昆虫食って聞くと、苦手意識もあってどうしても身構えちゃうけど、多分きっと最初よりは慣れたはず。
私が食べる姿を見ながら、シルエラさんが嬉しそうにしているをみていると、姿煮とかストレートに虫を感じさせるエグいやつじゃなければ、もう何でも乗り越えられそうな気がしてきた。何より、美味しいしね。
と言うわけで結局、薦められるままシルエラさんの手料理をお腹いっぱいいただく事になった。
食後にはまた、例の栄養ドリンクを出してくださったので、練習で減った魔力の補給もバッチリ。心も体も元気にしてもらいました。
近いうちにまたおじゃますることを約束して、いただいたお土産のジャムと借りた本を持ってシルエラさんのお店を後にした。
――宿へ帰る道筋に、ちょうど冒険者ギルドがある。
閉門時間の十八時を過ぎる頃が一番込み合うらしいけど、少し早い今も、割りと人が多く喧騒が表まで聞こえてくる。
ギルド前に設置された報償金の変動が貼られた掲示板にも、ポツポツ人がいて最新情報を追っていた。
こうして見に来るのは、私達のような駆け出しで収入の少ない冒険者が中心。
見ない人の方が多いけれど、全財産が290シクルしかない私には、この少しの差額がとっても大事なんだよね。なので、一通り確認するのが日課になっているんだ。
そんなわけで、今日も必要になりそうな情報だけ覚えてから、帰ることにした。
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