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第一章 辺境の町

第223話 聞き取り

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「これは!? 蔓状の魔樹ですかっ。よく森の中でこのトレントを……。見つけてくださり感謝します……」

 流石に、一目みただけで言い当ててきた。やはりと言うか彼も『鑑定』スキル持ちらしいね。

 超ベテランの元職員さんらしく、当然ながら蔓状の魔樹の危険性も十分に理解していたので、早速詳しい聞き取りに入った。話が早くて助かる。

「それで……これはどこにありました? 個体数は分かりますか。大きさとかも?」

 次々とされる質問に、ラグナードが代表して答えていく。

「見つけたのは、果樹の林を越えて虹色の樹の群生地近く。場所は中奥地帯だが、比較的外周寄りまで出てきている。反応は一体だけだ。大きさは把握できていない」

 質問に答える形で、調査内容を詳しく説明していった。

 低い樹が密に生い繁り、そこに背の高い草藪と蔓性の植物が旺盛に繁殖をしている場所だった事。
 広範囲に渡ってそれぞれが複雑に絡み合い見通しも利かず足場も悪く、本体のある場所まで辿り着けなかった事。

 その為、正確な大きさや位置までは不明な事を、包み隠さず聞かれるまま詳細に答えた。


「周辺の木々は元気にみえた。足元には魔樹の反応がなかったし、まだ根を張り巡らせれるほど育っていないか、この場所に移動してきたばかりなんだろう。それほど大きく成長していないと思うが、断言は出来ない」

「……ありがとうございます。まずはそれだけ分かれば十分です」

 町へと本格的に侵略してくる前に擬態を見破った。まだ森の中にいる内に、蔓状の魔樹を発見できたのは大きいと、本気で感謝された。

「さっそく討伐隊を編成しなければ。出来るだけ人数を揃えて一気に殲滅したいですね。集めるのに少し時間はかかりますが」

「上級冒険者が協力してくれたら少人数で済むんだけどな……」

「残念ながら中々この辺境までは来てくれませんから。そもそも依頼料が高額過ぎて出せませんしね。ここは地味だけど確実な人海戦術といきましょう」

「そうするしかないか。今回も他の長寿種族は協力しないだろうしな」

「それは……仕方ありません。人族の町の防衛戦に参加してくださる方は滅多にいらっしゃいませんし。今町にいる方々もこの町を監視するためにいらっしゃているだけですからね。いつも通り、傍観の姿勢を取られると思います」



 ――そうなんだよね。

 シルエラさんも協力要請されたけど受けないって言ってたし……いざとなればお店ごと時空間魔法で転移して逃げるんだって。
 その時は一緒に私を連れていくからって言われたけど……。じゃあパーティーメンバーもお願い出来ないかと頼んでみたら断られた。ラグナードはいいけど、リノは人族だから駄目って言われたんだ。

 ――この問題は相当根深いらしい。

 異世界人で、元人間のにわかエルフにはデリケート過ぎて、確かな信頼関係を築いてからじゃないと迂闊に踏み込めないよ。
 あんなに冷たい顔をしたシルエラさんを見たのは初めてだったから、それ以上何も言えなかった……。




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