233 / 308
第一章 辺境の町
第233話 殲滅
しおりを挟む全方位から徐々に、討伐部隊が集まり出す。
各班のリーダーが集まり確認したところ、小さな怪我はあるものの、ひどいものはポーションで治療済みだとかで全員無事みたい。よかった。
――さあ、それじゃあ最後の仕上げといきますか!!
まずは地面に油を撒き、よく土に染み込ませ、しばらく経ってから松明を放り込む。
勢いよく一気に燃え、火柱が立つ。こうして土の中に潜んでいる蔓状の魔樹の本体を炙り出していくんだ。
――来た。
ボコボコと音を立てながら炎に包まれた本体が土の中から蠢きつつ出てきたっ。
それを合図に、配置に着いていた討伐隊が一斉に火矢と火魔法をありったけ放つっ。この場所なら燃え移る心配もないからね、全勢力で行くよ!
狙うは魔核一点のみ。
弧を描きながら、次々と着弾していく!
益々ひどく全身を燃え上がらせながらも、魔樹の動きは止まらないっ。
懲りずに四方八方へ伸ばそうとしていた触手を、今度はシュルシュルと中心部分の一ヶ所にまとめ、瞬く間に魔核を守るようにして隙間無く丸まってしまった。まるでダンゴムシのように……。
どうやらこの形態になると、蔓状の魔樹を追い詰めることに成功したといえるらしい……けど。
炎を纏って巨大な丸い火の玉になっていたトレントは今、外周から全方位に蠢く触手をちらつかせる異様な姿となっていってるっ。だから気持ち悪いってばっ。
思わず討伐隊の攻撃の手も止まってしまい……。
――次の瞬間。
その隙を突いて炎をまといながらも蠢く触手を使い、大玉転がしみたいに結構な速度を出して転がってきたっ。
なにその動きっ、不気味なんですけど!?
観察していたところ、どうやら転がる勢いを利用し、体に燃え移った炎を消そうとしているらしい。
でも、中々意図するように上手く消せてないみたい。まあ、油をたっぷり吸った地面の上じゃ効果は薄いよね。
ここは一気に畳み掛ける時だと、迫り来る敵に確実に火魔法を重ねてお見舞いする。
四方八方から私と同じように火魔法の使い手達が魔法を放っているんだけど、効いているのかどうか、その動きは中々止まらないっ。
蠢き転がりながら、時には触手を使って宙を舞ったりなんかして攻撃をかわし、体操選手顔負けな着地を華麗に決めたりもする。なんなのこれ、なんでこんなに元気なの!?
どうやら純粋な火よりも火魔法の方が効きやすいらしいけど、そこから逃げようとしてアクロバットを繰り広げているみたい。
ただ、火魔法の使い手は各部隊に配置してあるのでどちらに逃げても魔法攻撃が飛んでくるから、逃げ場はない……と思われる。
変則的な動きで最後の足掻きとばかりに逃げ回る蔓状の魔樹を、本体を守っている外側の触手の層から地道に削っていく。周囲に焼け焦げた臭いが充満するようになると……。
――やがて。
火が、消えていくような音がした。
燃え盛っていた蔓状の魔樹の姿が、炎が収束していくにつれ、萎むように小さくなってゆく。
最期に一度、弾けるようにバチッと音を立てて燃え上がった後、一番動きが激しかった末端の触手でさえ、ピクリとも動かなくなっていった。
シン……とした一瞬の静けさの後。
周囲から圧し殺したような歓声が上がりはじめる。
「やったぞっ……!」
「倒したんだっ。これで終わりだ!」
それは徐々に周りを取り囲む人たちにも広がり、次第に安堵と喜びの入り混じったような歓喜のざわめきとなった。
……あんまり大声を出すと魔物が寄って来ちゃうから、遠慮しながらちっさい声でだったけど、ね。
結局、その日の早朝から昼過ぎまでかかった蔓状の魔樹の討伐は、予定通り人海戦術により一気に片付ける事ができ、一人の死者も出さず無事に終わったのでした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
925
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる