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第10話 初恋の終わり

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 この時の彼女は十六歳……成人してから一年も経っており、既に無作法を許されるような年齢ではない。まるで市井の娘のように自由に振る舞う姿を、珍獣でも見るようにガン見してしまう。

 しかし国王を頂点にした、厳格な身分制度の中で育てられた王子にとって、その姿はとても新鮮に映ったようだ。元々、我が強い彼は、最近では王家の第一王子として生まれたことを窮屈に感じ、鬱々とするようになっていた。

 そんな時に、今まで出会ったことのない種類の女性をみて、その姿に憧れていた自由を感じてしまったのだろう。

 不審がっていたのは最初だけ。次第に貴族令嬢とは毛色の異なる彼女を気にして、目で追うようになっていく。



 男爵家の令嬢では、身分が低すぎて王子妃にはなれない。まさか殿下が軽率なことをなさるまいと言う油断もあったのかもしれない。

 次第に、彼女を通して新たにできた取り巻きの青年貴族達と一緒にいる機会が多くなり、ユーミリアに入れあげるようになっていくのを止めることが出来なかった。

 ――王子としての立場も、二人の未来も、周囲の視線の意味も考えないその振る舞いが、どれだけ自分の婚約者に苦痛を与えているか、気付こうともしない……。



 幼き日々に優しい思い出を共有し、一度政略結婚ではあっても愛を育めるかもしれないという希望を持ってしまったアンドレアにとって、自分の婚約者が、目の前で別の令嬢に惹かれていく様子を見なくてはいけないのは、とても苦しかった。

 王子の隣に立つのに恥ずかしくないよう、常に己を高める努力を続け、時には自分にも王子にも厳しく接する公爵令嬢のアンドレアよりも、身分差など関係ないと自由に振る舞い、可愛らしく媚を売っては甘やかしてご機嫌を取ってくれる、町娘のような彼女といるのは気が楽だったのだろう。


 わたくしの初恋の王子様、ずっと前から気づいていたのです。貴方の目がもう私を、あの幼い頃のように愛しい女性として見ていないことには……。



 ◇ ◇ ◇



 ――政略結婚に愛を求めてはいけない……。

 そう教育されてきたにも関わらず、幼き日々の優しい思い出が希望を持たせ、邪魔をしていたのだけれど……。
 脇目も振らず国の為、王子を守る為にと努力してきた結果が、この理不尽な婚約破棄宣言ですもの。淡い初恋も冷めるというもの……。

 本来はわたくしとロバート第一王子の婚約式前夜を祝うために開かれたはずの舞踏会で、よもやこのような辱めを受けることになるとは……。

 不幸な生い立ちの王子には同情の余地がないとはいえませんが、こうなってはもう、わたくしも僅かに残っていた幼馴染みとしての情とも決別し、キッパリと腹を決めることに致しますわ。



 ベビーピンクの砂糖菓子さんに踊らされ、盛大にやらかしたこのお馬鹿さんはもう、見捨てさせていただくとしましょう。

 どうやら殿下は彼女に夢中になってのめり込んでしまわれたこの半年間の内に、真実の愛のためならば、キャメロン公爵家という絶対的な守りの盾がなくなっても一向に構わないとお思いになったようですし……ね?




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