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第一章 小麦姫と熊隊長の青春
5 孤児院
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家畜の勉強を始めてみると、アルフレードは飼育に大変興味を持ち、ファブリノは加工に大変興味を持った。農業は、勉強すればするほど奥が深く、どんどん楽しくなっていく。
それと同時に、アルフレードはビアータの笑顔にどんどん惹かれていった。ビアータは、どんなことにも前向きで、些細なことに笑い、わからないことは一緒に考えてくれる女の子だった。
〰️ 〰️ 〰️
ある日の放課後、鍛錬場からアルフレードとファブリノが来たタイミングで、コルネリオが切り出した。
「ねぇ、明日、王立図書館へ5人で行かないか?」
「ほんと!!行きたい!
辻馬車に乗らないと行けないのよね。ビアータと二人だと護衛もいないし不安だったから、行けなかったの」
サンドラが無条件でその案に飛びついた。
「サンドラ、子どもたちとの約束もあるのよ」
ビアータが少し困った顔をしていた。
「それは、午前中に行って、お昼過ぎに、3人と待ち合わせたらいいんじゃない?
ねえ、ビアータ、お願いよ」
サンドラが必死の様子だ。
「午前中に、どこへ行くの?」
アルフレードは、本を選びながら聞いた。ジャンルはもちろん家畜だ。
「孤児院よ。月に2度くらい行っているの。先々週、子どもたちとまた行くって、約束をしたの」
「ああ、この近くにあるらしいね」
ファブリノも迷わず本を選ぶ。
「そう、そこよ」
「コル、リノ、僕たちも一緒に行こうよ。もちろん、ビアータとサンドラに迷惑じゃなかったら、だけど」
ビアータとサンドラは顔を合わせた。3人へと顔を向ける。
「「迷惑なわけないじゃない!!」」
「じゃあ、僕らも行こう!いいよね、リノ?」
コルネリオも乗り気だ。
「ああ、当たり前だろう!アル、鍛錬場は、次の日でいいよな」
「ああ、そうしよう」
翌日の午前中、孤児院で思いっきり遊んだ。男の子の来訪者は大変珍しいらしく、3人は大人気であった。
孤児院でたっぷり遊んだ後、アルフレードたちは、べニートに教えてもらった屋台市場へビアータたちを連れていき、食事を済ませると、辻馬車で王立図書館へ向かった。学園とは比べ物にならないほどの本の数に、サンドラは大興奮だった。
こうして、孤児院へ行くときには、午後に王立図書館へ行くということが5人での暗黙の約束となった。
〰️ 〰️ 〰️
冬休みになると、アルフレードとファブリノは騎士団の鍛錬場へ、ビアータとサンドラとコルネリオは、午前中に植物の世話をして、午後には王立図書館か、学園の図書室に行くようになった。日が短いので、夕方の図書室には行けない。なので、アルフレードとファブリノは、朝に温室へ顔を出して、挨拶するようにしていた。
べニートは、騎士団見習いの鍛錬場の指導当番の帰りに、アルフレードとファブリノを食事に誘い、いつも屋台へと繰り出した。その日は、ロマーナが先に来ていた。
「あら?二人になっちゃったの?」
ロマーナは、残念そうだ。
「いろいろありまして」
ファブリノとアルフレードは、協力しながら、夏休み明けからのことを話した。
「コル君はやりたいことが見つかるなんて、すごいことだわ。さらに彼女までできたなんて」
理由を知ったロマーナは、笑顔になった。
「いや、きっとまだ告白なんてできてないでしょうけど」
ファブリノが手を口へ運び笑いを堪えた。
「それにしても、ビアータ嬢は、領地で農作業、学園で農業の勉強か。よほど、領地経営に興味を持ってるみたいだな」
べニートは、ワインを飲みながら、肉をつまむ。
「そうなんだ。だからさ、余計に、爵位のない僕に声をかけるって、おかしいだろう?」
アルフレードはまだ爵位を気にしていた。いや、ビアータが気になるからこそ、爵位が気になった。
「ビアータさんは、跡取りではないの?」
ロマーナの言うように、これだけ領地経営に興味があるなら、爵位持ちだと思って当然だ。
「お兄さんとお姉さんがいるって聞いてますよ。お兄さんところに赤ちゃんが生まれた話もしていたな」
ファブリノは、いつの間にかそんなことまで聞き出していた。アルフレードは自分も知ってはいたが、ファブリノが知っていることに驚いた。
「そう。でもねぇ、それより大切なことあるでしょう?アル君は、ビアータさんと交流してみて、ビアータさんのこと、どう思っているの?」
アルフレードは、みるみるうちに赤くなった。
「おいおい、ずいぶんとわかりやすいな」
「ほんとに、べニートと兄弟なんだわって感じるわね」
ロマーナは、にっこりとして、横上目遣いでべニートを見た。
「なっ!!」
べニートも、真っ赤になった。
「ねぇ、アル君、あなたは3ヶ月プロポーズされていたのでしょう?今度はあなたから、プロポーズしてみてはどう?」
「プ、プロポーズ!?そ、そんなじゃないです!ただ、女の子にそんなこと言われたことなかったから、びっくりしているだけです」
アルフレードは、手を振って一生懸命に否定した。
「本当にそれだけか?アル、本当は、最近何も言われないこと、気にしているんだろう?」
アルフレードは赤くなって、小さく頷く。
「あら、まぁ」
ロマーナは嬉しそうだ。
「ビアータの気持ちは変わっていないと思うけど、なぁ。今は近くにいるから、何も言ってこないだけだと思うぞ」
ファブリノは、アルフレードの変わりに現状を伝えた。
「尚更、いいじゃないか、プロポーズ!アル、やってみろ!案外うまくいくもんだぞ」
「自分は2年もかかったくせに」
アルフレードがべニートを睨んだ。
「とにかく、僕からなんてありえないよ。今まで断ってきたし」
アルフレードは、肉にかぶりついた。肉に八つ当たりをしているようだと、ファブリノは思った。
「お前はどうして、俺にだけ強いんだ?」
べニートが項垂れてしまった。ロマーナがべニートに優しくナデナデする。
〰️ 〰️ 〰️
冬休みが終わると、以前の生活に戻った。アルフレードは、まだ、自分の気持ちを測りかねていた。ビアータが気になるし、気に入っているのは間違いないが、どうしても、アルフレードを狙う考えがわからず、一歩踏み出せない。
そんな2月中旬の週末、いつものように孤児院に行くが、ビアータが院長先生に違う部屋へと案内される。
「アル、気になるなら、一緒に行った方がいいわ」
サンドラのアドバイスで、アルフレードはビアータについていった。
院長先生に連れて行かれた部屋には、10歳以上と思われる男の子が4人、女の子が4人いた。
「今日は8人に、お仕事のお話に来たの。8人は、今、初等学校の勉強をここでしているわね」
子どもたちが、それぞれ頷く。
「それと、11歳になって春になったら、この孤児院を出なくてはならないことは知っているわね?」
子どもたちは、それぞれ、急に不安な顔になり、小さく頷く。それを確認して、ビアータも頷いた。アルフレードは、その様子を、どことはなしに見ながら、ビアータの言葉を待った。
「それでね、もし、お仕事が見つからないようだったら、この国の南にある『私の家』で働いてほしいなと、思っているの。夏休みには、君たちのお兄さんたちがもう3人来てくれているのよ。お兄さんたちの面倒を見てくれている先生からのお手紙では、3人は、お勉強もお仕事も、頑張っているそうだわ」
ビアータは、子どもたちの前に、手紙を広げた。おそらく、その『先生』からの手紙だろう。
8人はキョロキョロする。院長先生が、男の子の名前を3人の出して、8人は納得したようだ。
「『私の家』では、農業をやっているのよ。牛の世話とか、野菜作りとか、小麦作りとか。それをお手伝いしてもらいたいの。
まだ、始めたばかりで、たくさんのお小遣いをあげることはできないけど、お腹いっぱい食べさせてあげることと、残りの初等学校の分と、希望者には中等学校の分のお勉強をさせてあげることは約束するわ。
他のお仕事よりはお金は少ないし、大変かもしれない。だから、お仕事が見つからなかったらでいいの。考えてみて」
アルフレードは、ビアータの家が農家であることは、予想がついていたので、驚かなかった。だが、まだ、学生のビアータが領地内で、人を雇うような役職にあるのだろうか?
それにしても、平民でも中等学校へ行けない者は多いのに、孤児であるこの子たちに、その教育を受けさせるという。わかっている者からみたら、破格の扱いだ。
「3月の20日、この町を出発します。『私の家』は、ここから馬車で5日もかかる場所だから、すぐにここに戻ってくるのは無理ね。だから、一月、ゆっくり考えて。11歳まではもう少しある子もいるわよね。今回行けなくても、みんなが『私の家』へ行きたいなと思ったら、いつでも院長先生に相談してみてね」
ビアータは、そう伝えて話を終えた。
それと同時に、アルフレードはビアータの笑顔にどんどん惹かれていった。ビアータは、どんなことにも前向きで、些細なことに笑い、わからないことは一緒に考えてくれる女の子だった。
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ある日の放課後、鍛錬場からアルフレードとファブリノが来たタイミングで、コルネリオが切り出した。
「ねぇ、明日、王立図書館へ5人で行かないか?」
「ほんと!!行きたい!
辻馬車に乗らないと行けないのよね。ビアータと二人だと護衛もいないし不安だったから、行けなかったの」
サンドラが無条件でその案に飛びついた。
「サンドラ、子どもたちとの約束もあるのよ」
ビアータが少し困った顔をしていた。
「それは、午前中に行って、お昼過ぎに、3人と待ち合わせたらいいんじゃない?
ねえ、ビアータ、お願いよ」
サンドラが必死の様子だ。
「午前中に、どこへ行くの?」
アルフレードは、本を選びながら聞いた。ジャンルはもちろん家畜だ。
「孤児院よ。月に2度くらい行っているの。先々週、子どもたちとまた行くって、約束をしたの」
「ああ、この近くにあるらしいね」
ファブリノも迷わず本を選ぶ。
「そう、そこよ」
「コル、リノ、僕たちも一緒に行こうよ。もちろん、ビアータとサンドラに迷惑じゃなかったら、だけど」
ビアータとサンドラは顔を合わせた。3人へと顔を向ける。
「「迷惑なわけないじゃない!!」」
「じゃあ、僕らも行こう!いいよね、リノ?」
コルネリオも乗り気だ。
「ああ、当たり前だろう!アル、鍛錬場は、次の日でいいよな」
「ああ、そうしよう」
翌日の午前中、孤児院で思いっきり遊んだ。男の子の来訪者は大変珍しいらしく、3人は大人気であった。
孤児院でたっぷり遊んだ後、アルフレードたちは、べニートに教えてもらった屋台市場へビアータたちを連れていき、食事を済ませると、辻馬車で王立図書館へ向かった。学園とは比べ物にならないほどの本の数に、サンドラは大興奮だった。
こうして、孤児院へ行くときには、午後に王立図書館へ行くということが5人での暗黙の約束となった。
〰️ 〰️ 〰️
冬休みになると、アルフレードとファブリノは騎士団の鍛錬場へ、ビアータとサンドラとコルネリオは、午前中に植物の世話をして、午後には王立図書館か、学園の図書室に行くようになった。日が短いので、夕方の図書室には行けない。なので、アルフレードとファブリノは、朝に温室へ顔を出して、挨拶するようにしていた。
べニートは、騎士団見習いの鍛錬場の指導当番の帰りに、アルフレードとファブリノを食事に誘い、いつも屋台へと繰り出した。その日は、ロマーナが先に来ていた。
「あら?二人になっちゃったの?」
ロマーナは、残念そうだ。
「いろいろありまして」
ファブリノとアルフレードは、協力しながら、夏休み明けからのことを話した。
「コル君はやりたいことが見つかるなんて、すごいことだわ。さらに彼女までできたなんて」
理由を知ったロマーナは、笑顔になった。
「いや、きっとまだ告白なんてできてないでしょうけど」
ファブリノが手を口へ運び笑いを堪えた。
「それにしても、ビアータ嬢は、領地で農作業、学園で農業の勉強か。よほど、領地経営に興味を持ってるみたいだな」
べニートは、ワインを飲みながら、肉をつまむ。
「そうなんだ。だからさ、余計に、爵位のない僕に声をかけるって、おかしいだろう?」
アルフレードはまだ爵位を気にしていた。いや、ビアータが気になるからこそ、爵位が気になった。
「ビアータさんは、跡取りではないの?」
ロマーナの言うように、これだけ領地経営に興味があるなら、爵位持ちだと思って当然だ。
「お兄さんとお姉さんがいるって聞いてますよ。お兄さんところに赤ちゃんが生まれた話もしていたな」
ファブリノは、いつの間にかそんなことまで聞き出していた。アルフレードは自分も知ってはいたが、ファブリノが知っていることに驚いた。
「そう。でもねぇ、それより大切なことあるでしょう?アル君は、ビアータさんと交流してみて、ビアータさんのこと、どう思っているの?」
アルフレードは、みるみるうちに赤くなった。
「おいおい、ずいぶんとわかりやすいな」
「ほんとに、べニートと兄弟なんだわって感じるわね」
ロマーナは、にっこりとして、横上目遣いでべニートを見た。
「なっ!!」
べニートも、真っ赤になった。
「ねぇ、アル君、あなたは3ヶ月プロポーズされていたのでしょう?今度はあなたから、プロポーズしてみてはどう?」
「プ、プロポーズ!?そ、そんなじゃないです!ただ、女の子にそんなこと言われたことなかったから、びっくりしているだけです」
アルフレードは、手を振って一生懸命に否定した。
「本当にそれだけか?アル、本当は、最近何も言われないこと、気にしているんだろう?」
アルフレードは赤くなって、小さく頷く。
「あら、まぁ」
ロマーナは嬉しそうだ。
「ビアータの気持ちは変わっていないと思うけど、なぁ。今は近くにいるから、何も言ってこないだけだと思うぞ」
ファブリノは、アルフレードの変わりに現状を伝えた。
「尚更、いいじゃないか、プロポーズ!アル、やってみろ!案外うまくいくもんだぞ」
「自分は2年もかかったくせに」
アルフレードがべニートを睨んだ。
「とにかく、僕からなんてありえないよ。今まで断ってきたし」
アルフレードは、肉にかぶりついた。肉に八つ当たりをしているようだと、ファブリノは思った。
「お前はどうして、俺にだけ強いんだ?」
べニートが項垂れてしまった。ロマーナがべニートに優しくナデナデする。
〰️ 〰️ 〰️
冬休みが終わると、以前の生活に戻った。アルフレードは、まだ、自分の気持ちを測りかねていた。ビアータが気になるし、気に入っているのは間違いないが、どうしても、アルフレードを狙う考えがわからず、一歩踏み出せない。
そんな2月中旬の週末、いつものように孤児院に行くが、ビアータが院長先生に違う部屋へと案内される。
「アル、気になるなら、一緒に行った方がいいわ」
サンドラのアドバイスで、アルフレードはビアータについていった。
院長先生に連れて行かれた部屋には、10歳以上と思われる男の子が4人、女の子が4人いた。
「今日は8人に、お仕事のお話に来たの。8人は、今、初等学校の勉強をここでしているわね」
子どもたちが、それぞれ頷く。
「それと、11歳になって春になったら、この孤児院を出なくてはならないことは知っているわね?」
子どもたちは、それぞれ、急に不安な顔になり、小さく頷く。それを確認して、ビアータも頷いた。アルフレードは、その様子を、どことはなしに見ながら、ビアータの言葉を待った。
「それでね、もし、お仕事が見つからないようだったら、この国の南にある『私の家』で働いてほしいなと、思っているの。夏休みには、君たちのお兄さんたちがもう3人来てくれているのよ。お兄さんたちの面倒を見てくれている先生からのお手紙では、3人は、お勉強もお仕事も、頑張っているそうだわ」
ビアータは、子どもたちの前に、手紙を広げた。おそらく、その『先生』からの手紙だろう。
8人はキョロキョロする。院長先生が、男の子の名前を3人の出して、8人は納得したようだ。
「『私の家』では、農業をやっているのよ。牛の世話とか、野菜作りとか、小麦作りとか。それをお手伝いしてもらいたいの。
まだ、始めたばかりで、たくさんのお小遣いをあげることはできないけど、お腹いっぱい食べさせてあげることと、残りの初等学校の分と、希望者には中等学校の分のお勉強をさせてあげることは約束するわ。
他のお仕事よりはお金は少ないし、大変かもしれない。だから、お仕事が見つからなかったらでいいの。考えてみて」
アルフレードは、ビアータの家が農家であることは、予想がついていたので、驚かなかった。だが、まだ、学生のビアータが領地内で、人を雇うような役職にあるのだろうか?
それにしても、平民でも中等学校へ行けない者は多いのに、孤児であるこの子たちに、その教育を受けさせるという。わかっている者からみたら、破格の扱いだ。
「3月の20日、この町を出発します。『私の家』は、ここから馬車で5日もかかる場所だから、すぐにここに戻ってくるのは無理ね。だから、一月、ゆっくり考えて。11歳まではもう少しある子もいるわよね。今回行けなくても、みんなが『私の家』へ行きたいなと思ったら、いつでも院長先生に相談してみてね」
ビアータは、そう伝えて話を終えた。
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