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第一章 小麦姫と熊隊長の青春

6 ビアータからの手紙

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 その日は、王立図書館へ行かず、5人は寮の共同談話室に集まった。コルネリオとファブリノは、サンドラから話を聞いていたようだ。

「孤児院は、11歳になった春に、出ていかなければならないの。仕事を見つけられる子や、奉公でもいいから、寝床を見つけられる子は幸せな方なのよ。私たち、貴族は、貴族ということだけで、18歳まで勉強すること、自由でいることが許されているのに、あの子たちは11歳で未来を決めなければならないの」

 孤児たちの現状を話すビアータは、とても辛そうだった。

「『私の家』では、人手がほしいし、農家だから食べることだけは困らないわ。だから、この春休みの帰省で、希望する子を一緒に連れていくつもりなの」

 それこそが子どもたちに伝えたことだ。

「僕はそんなこと考えたこともなかったよ。ビアータはすごいんだね」

 アルフレードは、今日ずっと思っていたことを口にした。

「ホントに、すごいよ。はん、なんか俺たち、子供だな…」

 ファブリノは、自分の事を鼻で笑っていた。

「サンドラもずっとそれを知ってて手伝ってきたんだろう?」

「ええ、そうね」

 サンドラは、真面目な顔だ。遊びではないということだろう。サンドラにとって、授業にも出ずに、研究している理由なのだから。

「あの子達を食べさせたいから、野菜の品種改良や、家畜の勉強をしているんだね」

 アルフレードは、不安で小さくなっていた子どもたちを思い出す。

「そうよ。今は、少しの孤児院にしか声をかけられない。だけどいつか、希望する子をみんな引き取りたいわ」

「すごい夢だな」

 ファブリノは、ビアータの夢の大きさに、まだついていけていなかった。呆然としているコルネリオとアルフレードもそうだった。

〰️ 〰️ 〰️

 院長先生から連絡があり、今回は男の子2人女の子1人がビアータとともに行くことになった。

 学園の馬車寄せに、ビアータが頼んだ馬車と護衛騎馬2名が入ってきた。馬車にビアータの荷物を積んでいく。馬車の中にはすでに3人の子供たちが乗っていた。

 サンドラたちが、見送りに立っている。

「じゃあ、行ってくるわね!」

「気をつけてね」

 ビアータとサンドラが声を掛け合う中、アルフレードは、声をかけることもできず、ただ、手を振って馬車を見送った。

〰️ 〰️ 〰️


 春休みが明けて、アルフレードたちは2年生になり、新学期が始まる。
 アルフレードは、なんとなく急ぎ足で教室へ行く。自分の隣の席を確認するが、まだビアータは来ていないようだ。



 そして、ビアータが来ないまま、授業は始まった。コルネリオとファブリノも不安そうな顔でビアータの席を見ていた。

 昼休みになり、3人はランチボックスを抱えて温室へ行った。

「やっぱり、3人で来たのね。コル、私の分のランチボックスは、忘れてない?ふふふ」

 笑いを押し殺すサンドラが3人を迎えてくれた。

「ばっちり持って来たさ。僕が来なかったら、昼食も取らずに勉強してるだろう?」

 コルネリオは、困り顔で、サンドラのいつもの席にランチボックスを1つ置いた。

「ふふ、そうね。正解よ」

 4人は、テーブルにつき、昼食を食べ始める。

「サンドラ、ビアータはどうしたの?病気?怪我?」

 アルフレードは、躊躇も遠慮もなく、サンドラに質問する。

「大丈夫。とっても元気よ。そうねぇ、元気すぎちゃって、帰って来ない。ってところかしら」

 サンドラが呆れているというように、手のひらを前で広げた。それから、ポケットから、手紙を取り出した。

「三人への手紙よ。ビアータから」

 アルは、すぐさま開いた。

『アル、コル、リノへ

 驚かせてごめんなさいね。私はすごく元気よ。

 春は、農家にとって忙しいし、大切なの。毎日がすごく充実しているわ。
 みんなと勉強してきたことを実践したくて頑張っているけど、まだまだ土台作りしかできないわね。

 サンドラが学園長に聞いてくれたの。

 Cクラスの生徒は、一年間で合計4ヶ月まで休んでいいんですって。テストも2回連続で点数を落とさなければ、クラス降格にならないそうなの。だから、1学期のテストはやらず、夏休み明けに 学園へ戻るつもりよ。Dクラスのままだったら、2ヶ月しか休めないそうなの。アルのこと追いかけて、Cクラスへ行ってよかったわ。

 そちらへ戻ったら、またお勉強に付き合ってくれると嬉しいわ。

 それまで、3人も元気でいてね。また笑って会いましょう!

 小麦色のビアータより』

 放心状態のアルフレードから、コルネリオが手紙を奪い、目を通した。

「Aクラスに、授業に出なくてもいいって特典があるなら、他のクラスにもありそうだと思って学園長に聞いてみたのよ」

「そうなんだ。それにしても、本当にすごい行動力だね」

 コルネリオは、ファブリノに手紙を回す。

「ああ、すべて予想を上回るな」

 ファブリノは、呆れを通り越して笑ってしまった。

「『ビアータの家』にとって、ビアータがみんなと勉強したことは無駄にならないって実感しているみたいだから、絶対に戻ってくるわ。心配いらないわよ」

「野菜はどうだって?」

 コルネリオにとって、この半年、関わってきたことはやはり気になる。

「苗で持って行くには、もう少し成長していない状態がよかったみたい。根付かない物もいくつかあったようだわ。種を送って、シーズンに合わせて植えた方が確実でしょうね。」

「そうか。種を増やすことも考えていこう」

 コルネリオは前向きであった。

「アル?アル!大丈夫かよ?帰ってくるってさ、それまで、ビアータをびっくりさせるくらい勉強しといてやろうぜ、なっ!」

 ファブリノは、コルネリオとファブリノに挟まれて座っているアルフレードの肩を、ドンドンと叩いた。
 『ビアータをびっくりさせるくらい』アルフレードは、その言葉に反応した。

「リノ…。そうだな。放課後の勉強、付き合ってもらえるか?」

 そう、ビアータの役に立ちそうで、勉強したいことは、山ほどあった。

「当たり前だろ!いつか、こっちから乗り込んで、勉強したことをやらせてもらおうぜ!なっ!」

「ああ、そうだな。今度は僕からって思っていたんだもんな。よし、リノ!食べたら鍛錬行くぞ!」

「え!あ、そっか!そっかぁ!!オッケー!」

 ファブリノはアルフレードが『今度は僕からって思っていた』なんて、まだ聞いていなかったので、少し驚いたが、すぐに納得できた。

 サンドラとコルネリオは、目を合わせて笑ってしまった。

〰️ 〰️ 〰️


 土曜日、アルフレードとファブリノは、騎士団見習いの鍛錬場の帰り、べニートに誘われて出かけた。いつもの屋台街では、ロマーナが待っていた。

「アル君、元気ないのね?」

「そうなんですよ。ビアータが、夏休み明けまで、学園を休むことになって、学園では、ビアータの友達の前でだけは、元気なフリしてるんですけどね、無理しているらしくて、その子がいないと、全く覇気がないんです」

 あの日、元気になったと思ったアルフレードは、張り子の虎であった。寮へ戻るとすぐにしょぼくれて、大きなアルフレードを夕食に連れていくのも大変であった。

「学園を長期で休むなんてこと、できるのか?」

 ファブリノが学園のシステムについて説明した。

「そんなこと知らなかったな。知ってりゃ、狩りにでも行けたのに。いやぁ、損した気がするよ。ハッハッハ」

「ビアータさんがいなくなってそんな寂しそうな顔するなんて、アル君は、ビアータさんが好きなのね。ふふふ」

 ロマーナが恋愛に悩むかわいい義弟の頭をナデナデした。

「なっ!ち、違いますよっ!隣にいた人が急にいなくなったから、なんか違和感があるだけですっ!すぐに慣れますよ」

 アルフレードは、さすがにロマーナに慰められるのは恥ずかしくて、全く違うことを口にした。

「はぁ~、無理しちゃってぇ」

 ファブリノは横目でアルフレードを見た。
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