神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
37 / 150
ミルクの優しさ

09 ー スイール村

しおりを挟む
 キッチンは主婦の聖域と言うが、誠も同意見だ。そして誠には聖域がもう一つある。
 それは、食堂だ。
 誠の基準は、育ちのせいかどうしても実家のカフェになってしまう。自分達が食事を作るキッチン。客が寛いで思い思いの時間を過ごせるフロア。そのどちらが欠けても、カフェとは言えないのだ。
 食堂は、見るも無惨な状態になっていた。
 殆どのテーブルと椅子が倒れて散乱し、床にはワインの空き瓶が転がっている。にも関わらず、当の本人達は周りの団員達も巻き込み、食堂の真ん中で殴り合いの喧嘩をしていた。

「弱えなー。お前マジで負け犬じゃん。負け犬がルイージと付き合ってんじゃねえよ!」
「黙ってろチキン野郎が!丸焼きにすんぞ!」

 後ろからドナルドに羽交い締めにされていたレビは、それを振り切ってライトに殴りかかる。しかしライトは少し体を捻っただけで、簡単に躱してしまった。そしてすぐさまライトのカウンター気味の蹴りを、レビの腹に決める。

「レビ!」
「ぐっ…!」

 テーブルや椅子はレビのクッション代わりにはならない。派手な音を立てながら、いくつものテーブルと椅子を巻き込んだレビは、その場に蹲ってしまった。
 慌ててルイージがレビの元に行き、怪我を確かめている。レビを蹴ったライトはその隙を突かれたのか他の団員達に押さえつけられているが、それでもレビを挑発することを止めず、まだ何かを囀っていた。

「何だ、これ…」

 食堂の惨劇を呆然と見ていた誠だったが、アレクセイが誠を庇うように一歩前に出た。

「お前ら、何をして…!」
「テメェら、ここがどこか分かってんのか!あぁ?」

 足元に椅子が転がって来たことで、一気に感情が爆発してしまった誠は、アレクセイの声を消すかのように怒鳴った。そして誠の怒鳴り声と共に、レビとライトを二分する位置へ、ドオォォォン…と室内にもかかわらず、文字通り雷が落ちる。
 室内は、一気に静寂に包まれた。唯一聞こえる音は、放電している誠から時折バチッと言う放電の音のみだ。雷の跡からは黒い煙が立ち上がり、焦げ臭さが鼻につく。
 そんな中、誠は唯一無事だったテーブルの上をチラリと見た。皿もグラスも傾いたり裏返ったりしているが、誠が出した料理はオスカーがしっかりと皿を死守していたことで、無事だったようだ。
 オスカーは半分目が座っている誠と目が合うと、若干震えながらもゆっくりと親指を上に上げた。誠はそれを見ると、頷いてから鉄扇を取り出す。それを肩にぽんぽんと当てながら、レビとルイージの元に向かった。

「怪我は?」

 普段よりも冷たい声が出たが、今更取り繕う必要も無いだろう。レビが「大丈夫だ」と言うと、誠はニッコリと笑ってその横っ面を平手打ちした。
 誠は一瞥すると、今度はライトの方に向かった。

「うっわぁ…マコトちゃん、強烈ー」

 ライトは近付いて来た誠に向かって、口笛を吹いている。
 こいつはバカなのか、ただチャラいだけなのか、どっちなんだろう。誠は内心そんなことを考えながら、ライトの胸ぐらを掴んだ。

「あのさぁ…お前の方がレビより強いんだって?」
「そうそう。何、俺に惚れたって?いやー、モテる男は辛いなー」
「あ?話を逸らすな」

 誠は鉄扇の先を床に突きつける。ドン、と鈍い音がして鉄扇が刺さったが、気にしない。

「お前が強いんだったら、どうなるか分かんだろうがよ。見ろよ、この食堂を」
「あー…テーブルも椅子も、倒れてるね」
「…そうだな」

 何ともふざけた答えである。
 誠は一瞬でライトの背後を取ると、その背中に映える立派な羽を両手で掴み、羽の付け根の間を足で勢い良く踏みつけてライトを床に縫いつけた。

「ガッ…!」

 ライトは苦痛に顔を歪ませたが、それでも誠はおかまいなしだ。それどころか、更に背中に体重を乗せる。
 周りの団員達はそんな誠を止めようとしているが、まだ誠が放電しているのを見て、手をあげたり下げたりとソワソワしている。

「アレクセイ班長…」

 そのうちの一人がアレクセイを呼んだ。しかしアレクセイは誠のなすことに口を挟む気は無いのか、首を振って団員達を黙らせた。
 この場を任せられた誠は、再びライトに聞いた。

「だから、そのテーブルも椅子も倒れてるこの部屋は、何だっつってんだよ。食堂だろうが。食堂は何するところか知ってんのか?」

 苦痛に耐えるだけで精一杯なのか、ライトは何も答えない。誠は続けた。

「食堂はな、食事をするところだ。…お前さあ、国のトップよりも偉い人って誰だか知ってる?知らないよな、何か軽そうな頭してるし。俺が教えてやるよ。国で一番偉いのは、農家とか、食べ物の生産に関わってる人達なんだよ。なあ、見てみろよこの食堂。今回はたまたまオスカーが皿を守ってくれたから良かったものの、そうじゃなかったら料理はどうなってたんだろうなぁ…」

 考えただけでも恐ろしい話だ。
 食事とは、生産業に関わる人達から手元に届くまでに関わる人達の苦労、そして食材の命を頂くことだ。たかが食べ物、されど食べ物。だから調理に関わる人間も食べるだけの人間も関係無く、食べ物はありがたく頂かなければならない。
 料理番としての稔侍がある誠としては、この惨劇は許し難いことなのだ。
 どちらが先に手を出したのかは知らない。けれど、食堂なのに応戦した方も悪い。
 ミシリ。と、誠の手の中から何かが軋む音がした。

「マコト」

 ここが限界かと思ったのだろう。アレクセイは誠の傍に行き、その腕を掴んだ。しかし、誠の腕はびくともしない。

「マコト」

 再度アレクセイが、名前を呼ぶ。
 誠は渋々、手を離した。
 喧嘩両成敗とは言うが、両者の力の差が明確な場合、強い方が悪い場合もある。強者は潮時を見極めなけらればならないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星
BL
第二章スタート!:イブキと婚約をして溺愛の日々を送ろうとしていたブラッドフォード。だが、国の情勢は彼の平穏を許さず、王の花嫁選びが始まる。候補者が集まる中、偽の花嫁(♂)が紛れ込む。花嫁の狙いはイブキの聖獣使いの力で。眠りについた竜を復活させようとしていた。先の戦においての密約に陰謀。どうやらイブキの瞳の色にも謎があるようで……。旅路にて、彼の頭脳と策略が繰り広げられる。 第一章:異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...