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ミルクの優しさ
09 ー スイール村
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キッチンは主婦の聖域と言うが、誠も同意見だ。そして誠には聖域がもう一つある。
それは、食堂だ。
誠の基準は、育ちのせいかどうしても実家のカフェになってしまう。自分達が食事を作るキッチン。客が寛いで思い思いの時間を過ごせるフロア。そのどちらが欠けても、カフェとは言えないのだ。
食堂は、見るも無惨な状態になっていた。
殆どのテーブルと椅子が倒れて散乱し、床にはワインの空き瓶が転がっている。にも関わらず、当の本人達は周りの団員達も巻き込み、食堂の真ん中で殴り合いの喧嘩をしていた。
「弱えなー。お前マジで負け犬じゃん。負け犬がルイージと付き合ってんじゃねえよ!」
「黙ってろチキン野郎が!丸焼きにすんぞ!」
後ろからドナルドに羽交い締めにされていたレビは、それを振り切ってライトに殴りかかる。しかしライトは少し体を捻っただけで、簡単に躱してしまった。そしてすぐさまライトのカウンター気味の蹴りを、レビの腹に決める。
「レビ!」
「ぐっ…!」
テーブルや椅子はレビのクッション代わりにはならない。派手な音を立てながら、いくつものテーブルと椅子を巻き込んだレビは、その場に蹲ってしまった。
慌ててルイージがレビの元に行き、怪我を確かめている。レビを蹴ったライトはその隙を突かれたのか他の団員達に押さえつけられているが、それでもレビを挑発することを止めず、まだ何かを囀っていた。
「何だ、これ…」
食堂の惨劇を呆然と見ていた誠だったが、アレクセイが誠を庇うように一歩前に出た。
「お前ら、何をして…!」
「テメェら、ここがどこか分かってんのか!あぁ?」
足元に椅子が転がって来たことで、一気に感情が爆発してしまった誠は、アレクセイの声を消すかのように怒鳴った。そして誠の怒鳴り声と共に、レビとライトを二分する位置へ、ドオォォォン…と室内にもかかわらず、文字通り雷が落ちる。
室内は、一気に静寂に包まれた。唯一聞こえる音は、放電している誠から時折バチッと言う放電の音のみだ。雷の跡からは黒い煙が立ち上がり、焦げ臭さが鼻につく。
そんな中、誠は唯一無事だったテーブルの上をチラリと見た。皿もグラスも傾いたり裏返ったりしているが、誠が出した料理はオスカーがしっかりと皿を死守していたことで、無事だったようだ。
オスカーは半分目が座っている誠と目が合うと、若干震えながらもゆっくりと親指を上に上げた。誠はそれを見ると、頷いてから鉄扇を取り出す。それを肩にぽんぽんと当てながら、レビとルイージの元に向かった。
「怪我は?」
普段よりも冷たい声が出たが、今更取り繕う必要も無いだろう。レビが「大丈夫だ」と言うと、誠はニッコリと笑ってその横っ面を平手打ちした。
誠は一瞥すると、今度はライトの方に向かった。
「うっわぁ…マコトちゃん、強烈ー」
ライトは近付いて来た誠に向かって、口笛を吹いている。
こいつはバカなのか、ただチャラいだけなのか、どっちなんだろう。誠は内心そんなことを考えながら、ライトの胸ぐらを掴んだ。
「あのさぁ…お前の方がレビより強いんだって?」
「そうそう。何、俺に惚れたって?いやー、モテる男は辛いなー」
「あ?話を逸らすな」
誠は鉄扇の先を床に突きつける。ドン、と鈍い音がして鉄扇が刺さったが、気にしない。
「お前が強いんだったら、どうなるか分かんだろうがよ。見ろよ、この食堂を」
「あー…テーブルも椅子も、倒れてるね」
「…そうだな」
何ともふざけた答えである。
誠は一瞬でライトの背後を取ると、その背中に映える立派な羽を両手で掴み、羽の付け根の間を足で勢い良く踏みつけてライトを床に縫いつけた。
「ガッ…!」
ライトは苦痛に顔を歪ませたが、それでも誠はおかまいなしだ。それどころか、更に背中に体重を乗せる。
周りの団員達はそんな誠を止めようとしているが、まだ誠が放電しているのを見て、手をあげたり下げたりとソワソワしている。
「アレクセイ班長…」
そのうちの一人がアレクセイを呼んだ。しかしアレクセイは誠のなすことに口を挟む気は無いのか、首を振って団員達を黙らせた。
この場を任せられた誠は、再びライトに聞いた。
「だから、そのテーブルも椅子も倒れてるこの部屋は、何だっつってんだよ。食堂だろうが。食堂は何するところか知ってんのか?」
苦痛に耐えるだけで精一杯なのか、ライトは何も答えない。誠は続けた。
「食堂はな、食事をするところだ。…お前さあ、国のトップよりも偉い人って誰だか知ってる?知らないよな、何か軽そうな頭してるし。俺が教えてやるよ。国で一番偉いのは、農家とか、食べ物の生産に関わってる人達なんだよ。なあ、見てみろよこの食堂。今回はたまたまオスカーが皿を守ってくれたから良かったものの、そうじゃなかったら料理はどうなってたんだろうなぁ…」
考えただけでも恐ろしい話だ。
食事とは、生産業に関わる人達から手元に届くまでに関わる人達の苦労、そして食材の命を頂くことだ。たかが食べ物、されど食べ物。だから調理に関わる人間も食べるだけの人間も関係無く、食べ物はありがたく頂かなければならない。
料理番としての稔侍がある誠としては、この惨劇は許し難いことなのだ。
どちらが先に手を出したのかは知らない。けれど、食堂なのに応戦した方も悪い。
ミシリ。と、誠の手の中から何かが軋む音がした。
「マコト」
ここが限界かと思ったのだろう。アレクセイは誠の傍に行き、その腕を掴んだ。しかし、誠の腕はびくともしない。
「マコト」
再度アレクセイが、名前を呼ぶ。
誠は渋々、手を離した。
喧嘩両成敗とは言うが、両者の力の差が明確な場合、強い方が悪い場合もある。強者は潮時を見極めなけらればならないのだ。
それは、食堂だ。
誠の基準は、育ちのせいかどうしても実家のカフェになってしまう。自分達が食事を作るキッチン。客が寛いで思い思いの時間を過ごせるフロア。そのどちらが欠けても、カフェとは言えないのだ。
食堂は、見るも無惨な状態になっていた。
殆どのテーブルと椅子が倒れて散乱し、床にはワインの空き瓶が転がっている。にも関わらず、当の本人達は周りの団員達も巻き込み、食堂の真ん中で殴り合いの喧嘩をしていた。
「弱えなー。お前マジで負け犬じゃん。負け犬がルイージと付き合ってんじゃねえよ!」
「黙ってろチキン野郎が!丸焼きにすんぞ!」
後ろからドナルドに羽交い締めにされていたレビは、それを振り切ってライトに殴りかかる。しかしライトは少し体を捻っただけで、簡単に躱してしまった。そしてすぐさまライトのカウンター気味の蹴りを、レビの腹に決める。
「レビ!」
「ぐっ…!」
テーブルや椅子はレビのクッション代わりにはならない。派手な音を立てながら、いくつものテーブルと椅子を巻き込んだレビは、その場に蹲ってしまった。
慌ててルイージがレビの元に行き、怪我を確かめている。レビを蹴ったライトはその隙を突かれたのか他の団員達に押さえつけられているが、それでもレビを挑発することを止めず、まだ何かを囀っていた。
「何だ、これ…」
食堂の惨劇を呆然と見ていた誠だったが、アレクセイが誠を庇うように一歩前に出た。
「お前ら、何をして…!」
「テメェら、ここがどこか分かってんのか!あぁ?」
足元に椅子が転がって来たことで、一気に感情が爆発してしまった誠は、アレクセイの声を消すかのように怒鳴った。そして誠の怒鳴り声と共に、レビとライトを二分する位置へ、ドオォォォン…と室内にもかかわらず、文字通り雷が落ちる。
室内は、一気に静寂に包まれた。唯一聞こえる音は、放電している誠から時折バチッと言う放電の音のみだ。雷の跡からは黒い煙が立ち上がり、焦げ臭さが鼻につく。
そんな中、誠は唯一無事だったテーブルの上をチラリと見た。皿もグラスも傾いたり裏返ったりしているが、誠が出した料理はオスカーがしっかりと皿を死守していたことで、無事だったようだ。
オスカーは半分目が座っている誠と目が合うと、若干震えながらもゆっくりと親指を上に上げた。誠はそれを見ると、頷いてから鉄扇を取り出す。それを肩にぽんぽんと当てながら、レビとルイージの元に向かった。
「怪我は?」
普段よりも冷たい声が出たが、今更取り繕う必要も無いだろう。レビが「大丈夫だ」と言うと、誠はニッコリと笑ってその横っ面を平手打ちした。
誠は一瞥すると、今度はライトの方に向かった。
「うっわぁ…マコトちゃん、強烈ー」
ライトは近付いて来た誠に向かって、口笛を吹いている。
こいつはバカなのか、ただチャラいだけなのか、どっちなんだろう。誠は内心そんなことを考えながら、ライトの胸ぐらを掴んだ。
「あのさぁ…お前の方がレビより強いんだって?」
「そうそう。何、俺に惚れたって?いやー、モテる男は辛いなー」
「あ?話を逸らすな」
誠は鉄扇の先を床に突きつける。ドン、と鈍い音がして鉄扇が刺さったが、気にしない。
「お前が強いんだったら、どうなるか分かんだろうがよ。見ろよ、この食堂を」
「あー…テーブルも椅子も、倒れてるね」
「…そうだな」
何ともふざけた答えである。
誠は一瞬でライトの背後を取ると、その背中に映える立派な羽を両手で掴み、羽の付け根の間を足で勢い良く踏みつけてライトを床に縫いつけた。
「ガッ…!」
ライトは苦痛に顔を歪ませたが、それでも誠はおかまいなしだ。それどころか、更に背中に体重を乗せる。
周りの団員達はそんな誠を止めようとしているが、まだ誠が放電しているのを見て、手をあげたり下げたりとソワソワしている。
「アレクセイ班長…」
そのうちの一人がアレクセイを呼んだ。しかしアレクセイは誠のなすことに口を挟む気は無いのか、首を振って団員達を黙らせた。
この場を任せられた誠は、再びライトに聞いた。
「だから、そのテーブルも椅子も倒れてるこの部屋は、何だっつってんだよ。食堂だろうが。食堂は何するところか知ってんのか?」
苦痛に耐えるだけで精一杯なのか、ライトは何も答えない。誠は続けた。
「食堂はな、食事をするところだ。…お前さあ、国のトップよりも偉い人って誰だか知ってる?知らないよな、何か軽そうな頭してるし。俺が教えてやるよ。国で一番偉いのは、農家とか、食べ物の生産に関わってる人達なんだよ。なあ、見てみろよこの食堂。今回はたまたまオスカーが皿を守ってくれたから良かったものの、そうじゃなかったら料理はどうなってたんだろうなぁ…」
考えただけでも恐ろしい話だ。
食事とは、生産業に関わる人達から手元に届くまでに関わる人達の苦労、そして食材の命を頂くことだ。たかが食べ物、されど食べ物。だから調理に関わる人間も食べるだけの人間も関係無く、食べ物はありがたく頂かなければならない。
料理番としての稔侍がある誠としては、この惨劇は許し難いことなのだ。
どちらが先に手を出したのかは知らない。けれど、食堂なのに応戦した方も悪い。
ミシリ。と、誠の手の中から何かが軋む音がした。
「マコト」
ここが限界かと思ったのだろう。アレクセイは誠の傍に行き、その腕を掴んだ。しかし、誠の腕はびくともしない。
「マコト」
再度アレクセイが、名前を呼ぶ。
誠は渋々、手を離した。
喧嘩両成敗とは言うが、両者の力の差が明確な場合、強い方が悪い場合もある。強者は潮時を見極めなけらればならないのだ。
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