神様の料理番

柊 ハルト

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バターの微笑み

01 ー 金色の狐

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 誠は、アレクセイに言いたいことがたくさんあった。
 何でこんな所で告白してるんだ、とか。前に遠野の始祖は狐って言ったけど、本当は妖狐って言う妖怪なんだ、とか。実家はカフェって言ったけど、ただのカフェじゃないから、店には人と神様が客として混在してるんだ、とか。
 動物では狼が一番好きだ、とか。
 その中でも、アレクセイの銀狼姿は最高だ、とか。
 けれど。今、一番言いたいことは、他にある。

「…なぁ、アレクセイ。目ぇ開けろよ。気絶してんじゃねぇよ」

 ドロリと手に伝わる感触は、勢いを失っている。掌の下で、確かに脈打っていた鼓動は、もう響いてこない。

「アレクセイ…」

 力無く名前を呼ぶが、アレクセイは応えてはくれなかった。
 本当は、誠も分かっている。分かっているけれど、それを受け入れられないだけだ。

「嫌だ…嫌だあぁぁぁ!!」

 力が暴走を始める。
 誠の周りでは空気が巻き上がり、誰も近付けないでいた。レビ達はしきりに何か叫んでいるが、誠はアレクセイをただただ見ているだけで、何も届くことはなかった。


 誠には、好きな物がたくさんある。
 自分の仕事に誇りを持っているし、子供の頃、両親が買ってくれたクッキー型は今でも大切に使っている。好きないくつかのバンドは今でもずっと聴いているし、その影響で買った服は、少々ほつれた位だったら自分で繕いもする。
 職業柄、普段はあまり付けないシルバーアクセサリーは、専用の液でしっかり汚れを落して磨くし、本はボロボロになるまで読み込んだ後も本棚にしっかり並べている。
 そのどれもが宝物で、欠けることはないし許されない。
 宝物に優劣はつけられないが、誠の中でいつしかそれが変わっていた。
 アレクセイだ。
 出会い頭に、自分の指先にキザったらしくキスをして、女性ではないのに完璧なエスコートをして。いつの間にか、アレクセイの体温が傍にあるのが当たり前になって。妖怪よりも上手く、スルリと心の中に入ってきて。
 良く分からない生き物だろう自分なんかを大切だと、瞳で、行動で、その熱で示していて。

「俺はまだ、何一つ、アンタに肝心なことを伝えていないんだよ」

 また誠の視界がぼやける。アレクセイの手の甲に、いくつもの雫が落ちた。
 誠はアレクセイの胸元から手を退けると、べっとりとついている血でコートが汚れるのもかまわずに、自分の胸元に当てた。
 そこから、淡い光が溢れる。誠の手の中には、ビー玉より少し大きな玉が現れていた。
 龍玉だ。
 これは、遠野の中でも諏訪の影響が大きい子供が、握って生まれてくる物だ。当然、誠の兄も同じ物を持っているし、誠も見た目こそ牡丹に良く似ているが、その半分は諏訪の血の影響が出ているので持っていた。
 きっと今から自分がすることで、アレクセイに恨まれるかもしれない。けれど、時間が無かった。それに、アレクセイを永遠に失うことなんか、絶対に考えられない。
 誠は龍玉をアレクセイの胸元に置くと、手をかざした。龍玉は牡丹の花の形になると、一枚、また一枚と花弁を散らしながら光となって、アレクセイの中へと溶けて消えていった。
 最後の一枚が、はらりと落ちる。
 誠は狐へと姿を変え、その尾でアレクセイを隠してしまうと、丸くなってその場に伏せってしまった。
 目を閉じて、誰もアレクセイに触れられないように結界を張る。
 雨はいつの間にか、上がっていた。
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