神様の料理番

柊 ハルト

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バターの微笑み

01.75 ー ジョーカー

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 闇に溶けて行く誠を見送ると、闇色を纏う黒豹は渡された鱗を明かりに透かして見ていた。
 濃い藍色だと思ったが、光を通して見るとなぜか黒にも見え、角度を変えると金色にも見える。不思議な鱗だ。

「しかし…これ一枚だけでも、とんでもない力を持っているな」

 フレデリクは膨大な魔力を有しているだけに、他者が持つ魔力の流れが見える。魔素が多い場所もそうだ。戦いでは誰がどんな規模の魔法を使うのかも見えるために、学園に入学してから今まで、魔術戦では負けたことがない。

「ジョーカー…か」

 誠の住む世界には魔法が無いとアレクセイに聞いていたが、それでも彼のあの魔力にも似た力は何なのだろうか。
 ヒトが持つ魔力は、そのヒトが最も得意とする元素が色となって見える。フレデリク自身は土魔法が最も得意なため、鏡を通して自分を見ると周りにはうっすらと茶色の魔力が見える。ローゼスは火魔法が得意なために、赤色。アレクセイは薄い水色だ。
 しかし、誠だけは色が決まっていない。ローゼスと同じ赤く見えるが、その色は深く暗めだ。かと思うと、次の瞬間には白になり、藍色にもなる。貰った鱗と同じように色が変化している。
 最初はあの弟をどう籠絡させたのだろうと、純粋な興味からだった。少し含ませておけば、尻尾を表す。そう思っていた。
 けれど毎晩の定時連絡で聞く弟の声は、誠のこととなると本人は気付いていなかったかもしれないが、妙に弾んでいた。己のツガイに近いものを感じたために、ツガイだと誤認したのかと思えば、そうではなかったらしい。
 実際にアレクセイが誠と並んでいるところを見て、納得した。
 そしてよくよくアレクセイの話を聞いてみれば、自分が出る所は出ているが、少し引いて弟を立てることもできるようだ。
 そんなところが、益々気に入った。
 弟には、幸せになってほしいと思う。
 こんな自分を兄だと慕ってくれている。幼い頃は、兄上、兄上と自分の後ろを雛のように着いてきていたが、しっかりしてくる年頃になると妙に冷静な男に育った。けれどまだ自分を慕ってくれている。
 弟は可愛い。家族は大切だ。
 それをフレデリクに教えてくれたのは、ヴォルク家だ。それがあったからこそ、自分は良き副官であり伴侶でありツガイであるローゼスを得られたのだと思う。
 ローゼスは、あれで警戒心が強い青年だ。孤児院で育ったのもあるだろうが、元々が警戒心の強いサーバルキャットだ。それなのに、誠には興味を持った。不思議な青年だ。
 そしてローゼスは、いつの間にか餌付けまでされていた。普段なら怒る場面なのだろうが、旧友と話している時と同じくらい、ローゼスは楽しそうだ。それなら自分が出る幕でもないだろう…少し悔しくもあるが。
 フレデリクは室内のランプの魔道具を消すと足元にライトの魔法をかけ、そのボールを転がしながら隣室であるベッドルームに移動した。
 キングサイズのベッドでは、子猫が丸くなって小さな寝息をたてている。指先で頬をくすぐると、ローゼスは擽ったそうにしてから、小さく笑った。
 ローゼスには、腕輪型の呪術返しの魔道具を渡している。自分のツガイだと騎士団内では周知させているのは、自分のアキレス腱はローゼスだと知られていることと同じ意味だ。
 誰かがローゼスを狙うのは許せなかった。ただの嫉妬、独占欲だ。
 フレデリクの唯一の汚点は、子猫が我が手に入ったことで浮かれきってしまったことだ。
 冷静に考えれば、それは悪手だと言える。自分がただの平団員ならば問題は無かった。けれど、フレデリクは部隊長で、王弟だ。嫌でも権力争いに巻き込まれてしまう。それは己のツガイであるローゼスも同じだ。
 だからこそ、自分よりもローゼスの守りを盤石にせねばならなかった。渡した魔道具は、金に物を言わせて最高な物を用意した。けれど、誠が言うことが本当なら、これに勝る物は無いだろう。

「普通なら、危険な人物…だが、あのアレクセイのツガイ。本当に、あの子はジョーカーだな」

 フレデリクなら正しくジョーカーを使える。そう言ってくれたのだ。
 黒豹は、低く笑った。
 新しい弟は、何と面白いのか。
 アレクセイを落とし、あのアレクセイ班にも馴染み、最愛のツガイまでも餌付けした。いつの間にか、するりと彼らの隣に居る男。自分の私室にも、するりと入り込む。
 試そうと思っていると、逆にこちらが試されている。

「これもまた、一興、か」

 だからこそ、面白い。だからこそ、信じてみようと思った。さすがは、あの弟が選ぶツガイだけはある。

「ローゼス…君のためにも我々の新しい弟には、正しいタイミングで力を貸してもらうことにするよ」

 フレデリクはいつの間にか自分の指を握っているローゼスの頬に、そっとキスを落としてから、起こさないように隣に潜り込んだ。
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