125 / 150
レモンの憂愁
03 ー 戦う料理番
しおりを挟む「班長!」
こちらに気付いたドナルドが、アレクセイを呼んだ。
「怪我は?」
「大丈夫です。オスカー先輩も、怪我はありません」
それを聞いてほっと息を吐いたルイージは、素早く剣を取り出した。
「班長、どうします?」
アレクセイは辺りを見回していた。
立地的には、こちらがいささか不利な気がする。
誠達が現れた場所は遠くに見える山裾がこちらへとならだかに広がっており、まばらに木が生えている。それくらいならオスカーが上空から敵を確認するのに邪魔にならないだろうが、光源は淡い月明かりだけなので、魔獣が低木や背の高い草に隠れられていると目視するのは少し厳しい。
魔獣の群れは、ぱっと見ただけでも中型と小型の混合編成となっていた。目視の漏れがあると、草むらや低木に隠れていた小型の魔獣襲われる可能性がる。
「ルイージとレビは、左側から。俺とマコトは右側から。オスカーとドナルドは、その場から魔獣を倒していこう。決して一人で真ん中へ突っ込むなよ」
「了解」
どうやら安全面を考慮して、外側から群れを風呂敷で包み込むように掃討することにしたようだ。誠はアレクセイの後に続き、オスカーとドナルドの隣に並んだ。
「行くぞ!」
アレクセイの掛け声によって、皆は獲物を構えながら魔獣に斬りかかっていった。
すぐさま魔獣から悲鳴が上がる。二人一組になっているので、互いに剣と魔法での素早い攻防が可能なのだ。片方が剣で斬りかかっている間にもう片方は魔法を展開し、大量に魔獣を倒していく。それを繰り返しながら、皆は前線をどんどん上げていっていた。
それを見て燃えない誠ではない。どうしても妖狐としての血が滾ってきてしまう。久し振りの血のざわめきに飲まれないように、誠はバッグから鉄扇を取り出した。
「アレクセイ!」
誠は鉄扇で風を起こし、小型魔獣を巻き上げながら倒していった。自然を壊さずにできるのは、これが精一杯だ。それに力を全開にしてしまうと、食材となる肉が木っ端微塵になってしまう。土まみれの挽肉は、是非とも遠慮したいものだ。
重さのせいで地上に残った中型の魔獣は、アレクセイが剣で一閃して倒す。集団での戦いはまだ慣れないが、アレクセイとのコンビネーションはこれまでの戦いで、何とか形になっていた。
「マコトくん、やるねぇ」
戦斧を振り回すドナルドの背中に隠れて息を整えていたオスカーが、誠の方を見て口角を上げた。
「これでラスト!」
レビが剣を斜めに振り上げた。真っ二つになったレッドサーペントは、どさりとその場に落ちた。
「…改めて見ると、凄い量ですね」
一足先にこちらに来たルイージが、背後を見ながら呟いた。
ところどころ山を築いている魔獣の死骸のせいで、辺りには濃い血臭が漂っている。早く片付けないと、その臭いにつられて他の魔獣が集まってくるかもしれない。
アレクセイはマジックバッグになっている巾着を取り出すと、近くの魔獣をその中に入れはじめた。後で検分をしながら血抜きをして、自分達が食べる肉は取っておき、食べない分は騎士団に納めるのだ。誠も手伝いながら、辺りを浄化して風で血臭を遥か上空に飛ばしていった。
戦いの跡を一掃する頃には、一帯の空気は元の澄んだものになっていた。
「ありがとう、マコト」
「どういたしまして。…けど、この群れってどこから来たんだろう。やっぱ、そこの山かな」
小さく微笑むアレクセイに、誠は疑問をぶつけた。どれもこれも、草原や山に生息しているだろう魔獣だった。素直に考えると、山から降りてきた魔獣の小さな群れに、草原に生息する魔獣が加わったということだろうか。
けれど誠が見てきた限りでは、違う種類の魔獣が群れることはない。可能性は低いがスタンピードの予兆か、もしかすると…。
誠が考えていると、アレクセイは安心させるために背中に手を回してきた。
「可能性は高いな。先程兄上に連絡鏡でこの場所を知らせた。詳しくは調査班が調べるだろうが、先に俺たちが山に入って少しだけでも調べてみたい。安全確認もしたいしな。マコト、先に邸に戻るか?」
「まさか。戦力は一人でも多い方が良いだろ」
「君ならそう言うと思ったよ。手を貸してくれるな?」
「喜んで」
これから山に入るとなると、体力を回復させておきたい。アレクセイ達はポーションを飲んでいた。残念ながら誠には薬類が効かないので、ただの水を飲みながらアレクセイを見ていた。
首を流れる汗が、酷く魅力的に見えて仕方が無い。こんな時だというのにムラっときてしまうのは、ツガイができたからなのか、先日体を繋げたからなのだろうか。
こちらの視線に気付いたアレクセイが、ふさりと尾を揺らした。誠はその尾につられるように、アレクセイの胸元に収まった。そして首にぶら下がるように抱きつくと、背伸びをしてアレクセイの唇を奪った。
「ひゅ~っ!マコト、やるー!」
レビの囃し立てる声が背後から聞こえた。けれど誠は気にも留めずに、アレクセイの舌を追いかけていた。満足して離してやると、顔を真っ赤にしたアレクセイが呆然と誠を見ていた。
「ご馳走様」
誠はニヤリと笑うと、アレクセイに見せつけるように下唇を舐めた。もちろん、わざとだ。
ふと我に返ったアレクセイは、誠をぎゅっと腕の中に閉じ込めてしまう。
「マコト…外でするのは嫌だと言っていたのは、君だぞ」
「あはは…これは不可抗力です」
「どういう意味だ?」
アレクセイの声が低くなった。誠はもがきながら距離を取ろうとするが、目が座りかけている狼には敵わなかった。
「だから…俺はポーションとか薬が効かないだろ?だから、アレクセイが代わりなんだって」
「俺が代わり?」
アレクセイはピンときていないようだ。背後からオスカーが誠を揶揄ってきた。
「班長の愛が、マコト君の動力源ってか?」
「あながち間違いじゃないよ。俺ら遠野の妖狐は、ツガイの精気を自分の活力にするから」
「え、そうなの?」
「うん。だからアレクセイが俺のポーション?」
誠は何とか体をオスカー達の方に向けると、ペロリと舌を出した。
すると、オスカー達はなぜか赤面をしていた。誠が首を傾げると、くるりと体を反転させられ、またアレクセイの腕の中に収まってしまう。
「マコト…その可愛い顔は、俺だけに見せてくれ」
「おお…さすが班長。独占欲丸出し」
「しっ」
茶化すレビを、ルイージが叱った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ブラッドフォード卿のお気に召すままに
ゆうきぼし/優輝星
BL
第二章スタート!:イブキと婚約をして溺愛の日々を送ろうとしていたブラッドフォード。だが、国の情勢は彼の平穏を許さず、王の花嫁選びが始まる。候補者が集まる中、偽の花嫁(♂)が紛れ込む。花嫁の狙いはイブキの聖獣使いの力で。眠りについた竜を復活させようとしていた。先の戦においての密約に陰謀。どうやらイブキの瞳の色にも謎があるようで……。旅路にて、彼の頭脳と策略が繰り広げられる。
第一章:異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる