神様の料理番

柊 ハルト

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レモンの憂愁

03 ー 戦う料理番

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「班長!」

 こちらに気付いたドナルドが、アレクセイを呼んだ。

「怪我は?」
「大丈夫です。オスカー先輩も、怪我はありません」

 それを聞いてほっと息を吐いたルイージは、素早く剣を取り出した。

「班長、どうします?」

 アレクセイは辺りを見回していた。
 立地的には、こちらがいささか不利な気がする。
 誠達が現れた場所は遠くに見える山裾がこちらへとならだかに広がっており、まばらに木が生えている。それくらいならオスカーが上空から敵を確認するのに邪魔にならないだろうが、光源は淡い月明かりだけなので、魔獣が低木や背の高い草に隠れられていると目視するのは少し厳しい。
 魔獣の群れは、ぱっと見ただけでも中型と小型の混合編成となっていた。目視の漏れがあると、草むらや低木に隠れていた小型の魔獣襲われる可能性がる。

「ルイージとレビは、左側から。俺とマコトは右側から。オスカーとドナルドは、その場から魔獣を倒していこう。決して一人で真ん中へ突っ込むなよ」
「了解」

 どうやら安全面を考慮して、外側から群れを風呂敷で包み込むように掃討することにしたようだ。誠はアレクセイの後に続き、オスカーとドナルドの隣に並んだ。

「行くぞ!」

 アレクセイの掛け声によって、皆は獲物を構えながら魔獣に斬りかかっていった。
 すぐさま魔獣から悲鳴が上がる。二人一組になっているので、互いに剣と魔法での素早い攻防が可能なのだ。片方が剣で斬りかかっている間にもう片方は魔法を展開し、大量に魔獣を倒していく。それを繰り返しながら、皆は前線をどんどん上げていっていた。
 それを見て燃えない誠ではない。どうしても妖狐としての血が滾ってきてしまう。久し振りの血のざわめきに飲まれないように、誠はバッグから鉄扇を取り出した。

「アレクセイ!」

 誠は鉄扇で風を起こし、小型魔獣を巻き上げながら倒していった。自然を壊さずにできるのは、これが精一杯だ。それに力を全開にしてしまうと、食材となる肉が木っ端微塵になってしまう。土まみれの挽肉は、是非とも遠慮したいものだ。
 重さのせいで地上に残った中型の魔獣は、アレクセイが剣で一閃して倒す。集団での戦いはまだ慣れないが、アレクセイとのコンビネーションはこれまでの戦いで、何とか形になっていた。

「マコトくん、やるねぇ」

 戦斧を振り回すドナルドの背中に隠れて息を整えていたオスカーが、誠の方を見て口角を上げた。

「これでラスト!」

 レビが剣を斜めに振り上げた。真っ二つになったレッドサーペントは、どさりとその場に落ちた。

「…改めて見ると、凄い量ですね」

 一足先にこちらに来たルイージが、背後を見ながら呟いた。
 ところどころ山を築いている魔獣の死骸のせいで、辺りには濃い血臭が漂っている。早く片付けないと、その臭いにつられて他の魔獣が集まってくるかもしれない。
 アレクセイはマジックバッグになっている巾着を取り出すと、近くの魔獣をその中に入れはじめた。後で検分をしながら血抜きをして、自分達が食べる肉は取っておき、食べない分は騎士団に納めるのだ。誠も手伝いながら、辺りを浄化して風で血臭を遥か上空に飛ばしていった。
 戦いの跡を一掃する頃には、一帯の空気は元の澄んだものになっていた。

「ありがとう、マコト」
「どういたしまして。…けど、この群れってどこから来たんだろう。やっぱ、そこの山かな」

 小さく微笑むアレクセイに、誠は疑問をぶつけた。どれもこれも、草原や山に生息しているだろう魔獣だった。素直に考えると、山から降りてきた魔獣の小さな群れに、草原に生息する魔獣が加わったということだろうか。
 けれど誠が見てきた限りでは、違う種類の魔獣が群れることはない。可能性は低いがスタンピードの予兆か、もしかすると…。
 誠が考えていると、アレクセイは安心させるために背中に手を回してきた。

「可能性は高いな。先程兄上に連絡鏡でこの場所を知らせた。詳しくは調査班が調べるだろうが、先に俺たちが山に入って少しだけでも調べてみたい。安全確認もしたいしな。マコト、先に邸に戻るか?」
「まさか。戦力は一人でも多い方が良いだろ」
「君ならそう言うと思ったよ。手を貸してくれるな?」
「喜んで」

 これから山に入るとなると、体力を回復させておきたい。アレクセイ達はポーションを飲んでいた。残念ながら誠には薬類が効かないので、ただの水を飲みながらアレクセイを見ていた。
 首を流れる汗が、酷く魅力的に見えて仕方が無い。こんな時だというのにムラっときてしまうのは、ツガイができたからなのか、先日体を繋げたからなのだろうか。
 こちらの視線に気付いたアレクセイが、ふさりと尾を揺らした。誠はその尾につられるように、アレクセイの胸元に収まった。そして首にぶら下がるように抱きつくと、背伸びをしてアレクセイの唇を奪った。

「ひゅ~っ!マコト、やるー!」

 レビの囃し立てる声が背後から聞こえた。けれど誠は気にも留めずに、アレクセイの舌を追いかけていた。満足して離してやると、顔を真っ赤にしたアレクセイが呆然と誠を見ていた。

「ご馳走様」

 誠はニヤリと笑うと、アレクセイに見せつけるように下唇を舐めた。もちろん、わざとだ。
 ふと我に返ったアレクセイは、誠をぎゅっと腕の中に閉じ込めてしまう。

「マコト…外でするのは嫌だと言っていたのは、君だぞ」
「あはは…これは不可抗力です」
「どういう意味だ?」

 アレクセイの声が低くなった。誠はもがきながら距離を取ろうとするが、目が座りかけている狼には敵わなかった。

「だから…俺はポーションとか薬が効かないだろ?だから、アレクセイが代わりなんだって」
「俺が代わり?」

 アレクセイはピンときていないようだ。背後からオスカーが誠を揶揄ってきた。

「班長の愛が、マコト君の動力源ってか?」
「あながち間違いじゃないよ。俺ら遠野の妖狐は、ツガイの精気を自分の活力にするから」
「え、そうなの?」
「うん。だからアレクセイが俺のポーション?」

 誠は何とか体をオスカー達の方に向けると、ペロリと舌を出した。
 すると、オスカー達はなぜか赤面をしていた。誠が首を傾げると、くるりと体を反転させられ、またアレクセイの腕の中に収まってしまう。

「マコト…その可愛い顔は、俺だけに見せてくれ」
「おお…さすが班長。独占欲丸出し」
「しっ」

 茶化すレビを、ルイージが叱った。
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