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三上凛は返却されたDVDを抱え込み、売り場に出るとDVDをパッケージに戻す、マスターバッグの作業を開始した。レジで接客をするよりも、無心でパッケージにDVDを戻すこのマスターバックの作業が好きだった。
凛は、レンタルショップ『MIMIYA』で、主に夜メインでバイトをしていた。大学入学と同時に入ったので、ここのバイトも三年目という事になる。
凛はお世辞にも愛想が良い方ではなく、内気で物静かな青年だった。よくこんな自分を採用してくれたと思うが、この店は男性スタッフが極端に不足しており、男性スタッフは自分と店長、そしてブック側に一人の三人だけ。面接に行って、すぐ採用と言われ面食らった。
内気な自分が客商売など続くか心配だったが、スタッフの人の良さにも恵まれ、元々映画好きもあり、いつの間にかこの仕事にもやり甲斐を感じていた。
最初の頃、教育係の富田には、
「もっと声を出して! 三上くんは美人なんだから自信持って!」
男の自分に美人という言葉を使うのに疑問を持ったが、昔から中性的な顔立ちと言われていた為、褒められているのだと思う事にていた。
(これ旧作になったんだ)
洋画の旧作を戻していると、大きな賞にもノミネートされた同性愛がテーマのDVDが目に入る。
(きっとハッピーエンドじゃないだろうな)
そう思うと興味はあるものの、観る気にはなれなかった
ふと、凛の背中越しに男女の話し声が聞こえてきた。その声を聞いた瞬間、凛の心臓がドキリと鳴った。
ほぼ毎週末、来店するカップルの常連客。彼女はスタイルが良く美人で彼氏は手足が長く背が高い。短髪の黒髪が爽やかな印象を与え、何かスポーツをしているのか、いつもジャージ姿だった。
「あ、これ観たかったやつだ」
「今日はこれ観るの!」
彼女は邦画の最新作のパッケージを彼氏に見せている。
「また恋愛もの? 絶対寝るわ、俺」
凛はそのカップルの会話に耳を傾ける。カップルというより男の声に耳を傾けた。
(いい声……)
チラリと見ると、彼氏が笑みを浮かべ彼女の長い髪を触っている。
凛は羨ましいと思った。彼氏にそうされている彼女が。
凛は名前も知らないその彼に、恋心に近い感情を抱いていた。
凛の恋愛対象は男だった。そんな自分が信じたくなくて、女性とも付き合ってみたが無理だった。過去、男性と運良く付き合えた事もあったが、長くは続かなかった。
始めは単純に顔が好みだった。
次に優しく心地良い低めの声に惹かれた。顔を見れば、少し垂れ気味の目を更に下げた笑顔に惹かれた。それらは全て自分ではなく彼女に向けられたものだったが、凛はどうしようもなく惹かれてしまった。
何かしようとは思わない。まず、男の自分があの美人な彼女に敵うはずもない。ただその彼を見ているだけで幸せだった。
そのカップルは、いつの間にか凛がマスターバックしている洋画の並びにいた。凛は、いらっしゃいませ、そう言って作業に集中するふりをするものの、しっかりと耳は彼の声を捉えている。
「すいません」
顔を上げると彼だった。凛の心臓が大きく鳴る。
「これ、探してるんだけど」
検索機のレシートを渡され、それを受け取りタイトルを見ると先日、準新作にした洋画だった。
その手が少し震えていると気付かれなかったか心配になりつつ、何とか平静を装い、
「ご案内しますね」
そう言って準新作コーナーへ案内した。
「めっちゃあるじゃん。どこ見てんの?」
「おまえだって見つけられなかっただろ」
少し呆れたような声を出している。
何度か会話を聞いているが、彼女は少し我儘で彼氏はそれをやんわりと受け流している印象をいつも受けた。
「忙しいのにごめんね、ありがとう」
ニコリと彼氏に笑顔を向けられると、凛の顔が熱くなるのを感じた。
「いえ……」
赤い顔を誤魔化すように頭を下げた。凛の長めの髪が顔にかかり、そのまま顔を隠すように俯き加減でその場を後にした。
カウンターに戻ると先程のカップルがセルフレジで会計をしていた。
凛の前を通り過ぎるカップルに、ありがとうございました、そう言うと、
「さっきはありがとね」
そう言って彼は優しい笑みを浮かべながら、凛に向かって軽く手を挙げた。いつも彼女に向けている笑顔を自分にも向けてくれたーーそれだけで嬉しくて、顔が緩んでくる。
(今日はいい日だ)
そんな些細な事ですら凛にとっては幸せだった。
凛は、レンタルショップ『MIMIYA』で、主に夜メインでバイトをしていた。大学入学と同時に入ったので、ここのバイトも三年目という事になる。
凛はお世辞にも愛想が良い方ではなく、内気で物静かな青年だった。よくこんな自分を採用してくれたと思うが、この店は男性スタッフが極端に不足しており、男性スタッフは自分と店長、そしてブック側に一人の三人だけ。面接に行って、すぐ採用と言われ面食らった。
内気な自分が客商売など続くか心配だったが、スタッフの人の良さにも恵まれ、元々映画好きもあり、いつの間にかこの仕事にもやり甲斐を感じていた。
最初の頃、教育係の富田には、
「もっと声を出して! 三上くんは美人なんだから自信持って!」
男の自分に美人という言葉を使うのに疑問を持ったが、昔から中性的な顔立ちと言われていた為、褒められているのだと思う事にていた。
(これ旧作になったんだ)
洋画の旧作を戻していると、大きな賞にもノミネートされた同性愛がテーマのDVDが目に入る。
(きっとハッピーエンドじゃないだろうな)
そう思うと興味はあるものの、観る気にはなれなかった
ふと、凛の背中越しに男女の話し声が聞こえてきた。その声を聞いた瞬間、凛の心臓がドキリと鳴った。
ほぼ毎週末、来店するカップルの常連客。彼女はスタイルが良く美人で彼氏は手足が長く背が高い。短髪の黒髪が爽やかな印象を与え、何かスポーツをしているのか、いつもジャージ姿だった。
「あ、これ観たかったやつだ」
「今日はこれ観るの!」
彼女は邦画の最新作のパッケージを彼氏に見せている。
「また恋愛もの? 絶対寝るわ、俺」
凛はそのカップルの会話に耳を傾ける。カップルというより男の声に耳を傾けた。
(いい声……)
チラリと見ると、彼氏が笑みを浮かべ彼女の長い髪を触っている。
凛は羨ましいと思った。彼氏にそうされている彼女が。
凛は名前も知らないその彼に、恋心に近い感情を抱いていた。
凛の恋愛対象は男だった。そんな自分が信じたくなくて、女性とも付き合ってみたが無理だった。過去、男性と運良く付き合えた事もあったが、長くは続かなかった。
始めは単純に顔が好みだった。
次に優しく心地良い低めの声に惹かれた。顔を見れば、少し垂れ気味の目を更に下げた笑顔に惹かれた。それらは全て自分ではなく彼女に向けられたものだったが、凛はどうしようもなく惹かれてしまった。
何かしようとは思わない。まず、男の自分があの美人な彼女に敵うはずもない。ただその彼を見ているだけで幸せだった。
そのカップルは、いつの間にか凛がマスターバックしている洋画の並びにいた。凛は、いらっしゃいませ、そう言って作業に集中するふりをするものの、しっかりと耳は彼の声を捉えている。
「すいません」
顔を上げると彼だった。凛の心臓が大きく鳴る。
「これ、探してるんだけど」
検索機のレシートを渡され、それを受け取りタイトルを見ると先日、準新作にした洋画だった。
その手が少し震えていると気付かれなかったか心配になりつつ、何とか平静を装い、
「ご案内しますね」
そう言って準新作コーナーへ案内した。
「めっちゃあるじゃん。どこ見てんの?」
「おまえだって見つけられなかっただろ」
少し呆れたような声を出している。
何度か会話を聞いているが、彼女は少し我儘で彼氏はそれをやんわりと受け流している印象をいつも受けた。
「忙しいのにごめんね、ありがとう」
ニコリと彼氏に笑顔を向けられると、凛の顔が熱くなるのを感じた。
「いえ……」
赤い顔を誤魔化すように頭を下げた。凛の長めの髪が顔にかかり、そのまま顔を隠すように俯き加減でその場を後にした。
カウンターに戻ると先程のカップルがセルフレジで会計をしていた。
凛の前を通り過ぎるカップルに、ありがとうございました、そう言うと、
「さっきはありがとね」
そう言って彼は優しい笑みを浮かべながら、凛に向かって軽く手を挙げた。いつも彼女に向けている笑顔を自分にも向けてくれたーーそれだけで嬉しくて、顔が緩んでくる。
(今日はいい日だ)
そんな些細な事ですら凛にとっては幸せだった。
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