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3章

59話 出航

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「私は……きっと守り神の討伐や、水賊の討伐には参加できません。でも、きっとシュタルさんの役に立つために魔法陣を勉強して来ます。いいですか?」

 そう話すリュミエールの瞳は……とても力強かった。

 俺はそんな彼女の瞳を見て、断ることなど出来る訳がない。

「当然だ。リュミエール。お前が成長したいと望む事を、俺が止める訳がない」
「はい! ありがとうございます!」

 リュミエールは嬉しそうに笑ってくれる。

 うん。
 やはり彼女はそれほどまでに魔法陣を習いたかったのだろう。
 それを邪魔するなんて出来ない。

 俺は彼女を笑顔で送り出す。

「それでは行ってきます!」
「ああ、しっかりと学んで来いよ」
「はい!」

 リュミエールはそう言ってアントゥーラと一緒にギルドの奥に入っていった。



 リュミエールが行って数時間。
 戦闘の指揮は俺が取るのがいいだろうということで、船の準備等を手伝っていた。
 魔法でちょちょいとやって、船を強化する。

 それから、時間が来ると、先ほど俺に絡んできた3人が来た。

「それで、シュタルの旦那、そろそろですかね?」
「そうだな……。他の者達も準備は出来ているのだろう?」
「はい。勿論ですが……本当にいいんですかい? こんな時間に出ては、到着するのは夕方近くになってしまいます。明日まで待っても……」
「それはダメだ」

 俺は明確に否定する。

 それが分からない彼らは首を傾げて聞いて来た。

「理由を聞いてもいいでしょうか?」
「決まっている。敵のスパイがこの街にいるからだ」
「! そんな。幾ら落ちぶれたっていっても……」
「いや、確実にいる。ここまで周到しゅうとうに行なっているやつらだ。きっと考える者がいないはずがない」
「……」
「だから時間をかけるのは奴らを利する。分かったら働け」
「うっす。流石兄貴っす」
「よし。では出発だ! 多少の兵力不足は仕方ない。ある程度は目をつむる、行くぞ」
「はい。やろう共! 行くぞ!」
「おう!!!」

 男たちの野太い声が聞こえ、俺達の船団は上流に向かって進みだした。

 船は30隻はあろうかというほどに多く、先頭にはかなり足の遅そうな船が進んでいる。
 ただし、俺が魔法で強化しているので、速度は一番速い。

「それでは行ってきます!」
「気をつけろ、ちゃんと連れてこいよ」
「はい!」

 そう言ってその船のいかつそうな船長は1隻だけで先に進む。

「うまく行きますかね……」
「行くさ。獲物があるのなら、襲わないのは水賊ではないだろうからな」
「それもそうですね」

 俺は一番先頭になった小舟に乗りながら先に進んだ船を見送った。

******

***水賊視点***

 水賊達は今、100隻を越える船を集めて遊んでいた。

 その中の最も大きい船の上。
 彼らは捕らえた男を奴隷にして、船のぎ手にしていた。
 そして捕まえた女達をはべらせ、賭け事にきょうじている。

「そらそら! 後何歩で落ちるかな!?」
「5歩だ! 5歩で必ず落ちろよ!」
「いーやお前は男だろ! 10歩は歩いてみせろ!」

 男たちのヤジが飛び、哀れな男は両手を縛られて船から突き出した木の板を歩かされる。

 船の下には水棲すいせいの魔物が泳いでいて、その周りは血で真っ赤になっていた。
 それほどに多くの者達が犠牲になったのだ。

 盛り上がる男たちを余所に、この水賊の頭は酒を飲みながら副船長と話していた。

「しっかし、あの人様さまだな。守り神は俺達だけの守り神になるし、それを操れる駒も得ることが出来た。いっそのことここに国でも作っちまうか?」
「お頭。流石にそれはやり過ぎですぜ」
「そうか? 結構いいと思うんだがな」
「流石にこの湖から出られませんぜ。そんな事をしている最中に囲まれて袋叩きです」
「そうかぁ。いい案だと思ったんだがなぁ」
「そんなことよりも、本当にあの……巫女の一族は安全何でしょうかね?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。今はいい様に使っていますが、あの……魔法陣? の効果が切れたら守り神達はあっしらに襲い掛かって来るんじゃないかって思っているんですよ」

 副船長は少しの恐怖からか怯えた様子で頭に聞く。

 しかし、頭はそんな副船長の心配を笑い飛ばした。

「はっはっはっはっは。気にすんな! あの魔法陣は強力で俺達が簡単に抜けられるもんじゃねえ。それに、もしもそうなっても、俺達の船には守り神が気付かねぇ魔法陣が張ってある。だから問題はねぇんだよ」
「ですが……」

 副船長が更に聞こうとした時に、それは起きる。

「お頭! 新しい獲物が現れましたぜ!」
「何!? そいつぁ行きてぇが……行きたい奴は行ってこい!」
「へい!」

 頭の命令で他の者達は喜んで命令を聞いていた。
 それは、先ほど心配をしていた副船長ですら同様だった。

 頭はそれが当然の事の様に思い、船団を新しい獲物に思いをはせる。
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