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会いたい人、会いたくない人
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レイラの言葉に、思わず真剣な顔をして各々『どうする?』とアイコンタクトをしてしまった。どうするも何もないが、答えとしては『お帰りいただく』一択でしかないだろう。
屋敷の周りをうろついている馬車がシェルワース家のものであれば、何の意図があるのだろうか、と思う。
レイラも含めて各々考え、フローリアがぽつ、と呟いた。
「…まさかとは思うけど、自分で王太子殿下の婚約者に新たになったのに、王太子妃教育が辛いとか言わないわよね…」
フローリア以外の面々は、いやそんなまさか!と言いかけて、ぴたりと止まった。
「…今から、王太子妃教育を…」
「貴族としての礼節をしっかり身に付けて成人間際の、今から…」
ジュリエットとアマンダが恐ろしいものを見つけてしまったかのように言い、リーリャもレイラも思わず互いの手を取ってひぇ、と妙な声を上げてしまった。
「今からとか無理!」
「基礎がある状態で別のものを新たに覚え直すのって…。しかも似て非なるもの…」
それを聞いた使用人たちも、うわ、という顔になる。
侍女長は慌てて近くにいたメイドに、屋敷周りの警戒を高めるよう伝えに言ってもらおうと指示を出したとき、シェリアスルーツ家騎士団の一人が走ってやってきた。
「ご歓談中、しつれいいたします!ライラック様、妙な馬車が当家を回っておりますがいかがなさいますか!」
背筋をびっ、と伸ばして報告した団員に、『まだいたの?!』とレイラが驚いた声を上げる。
フローリアは訝しげな顔になり、ゆっくりと立ち上がった。
「わたくしが対応いたします。アマンダ、ジュリエット、リーリャ、屋敷の中にいてちょうだい。レイラ、万が一の時は皆様をお守りして」
「分かったわ」
侍女長にフローリアが目配せをすると、侍女長は察してくれて『お嬢様がた、こちらに』と友人たちを屋敷内へと誘導してくれる。
友人に怪我ひとつさせたくない、とフローリアはぐっと拳を握った。だが、単に周回しているだけならば、少しだけ注意喚起をすれば良いか、と判断して魔装具を起動させた。
腕輪の形状から、フローリアの体全体を、一枚の布でぐるりと包み込むようにして覆い、しゅるりと巻きついたかと思えば、全身鎧を纏った姿へと変化した。頭の先から足の先まで、どこからどう見ても甲冑の騎士が出来上がった。
「…行こう」
「はっ!」
なお、魔装具の効果によりフローリアとは分からない男性の声へと変化もしている。
がしゃがしゃ、と音を立てながら歩いていくフローリアの後ろ姿を見た友人たちは、普段との歩き方の違いがあることに気付いた。
「…フローリアって、歩き方も変えられますの?」
「ええ、お父様の訓練のおかげで。ライラックとして表に出るときは……というか、ああやってよく分からない人への対応では、声も体格も魔装具で変えて対応していますわ。でも、今回はライラックとして対応、というよりは、『何かよくわからない人』への対応がメインでしょうね」
「大変ですわね、フローリアも…」
「お嬢様方、こちらへどうぞ」
話していると、侍女長がとある部屋へと全員を案内した。
先ほど四阿で堪能していたケーキ類も全て運び込まれて、仕事が早い!と喜んだのだが、侍女長がこいこいと皆を手招きしている。
「あら、なぁに?」
「ここから、フローリアお嬢様のご様子が確認できます」
「まぁ!」
うきうきとした様子でアマンダたちが窓のところへとやって来る。
「こちら、ちょうど当家の正門が見える位置にございまして」
「ナイス、侍女長」
レイラもにっこり笑って窓のところにやって来た。
シェリアスルーツ家の屋敷が広いため、まだフローリアが到着していないようだが、正門前に馬車が止まっているのは見えた。
「あれって…」
「シェルワース家の馬車じゃないの」
「本当に何しに来たのかしら」
「レイラ様、あの人ご存じ?」
「フローリアのお友達じゃない人は知りませんわ」
「すごい」
きっぱりと言い切ったレイラに、思わずリーリャは拍手をしてしまう。
「シェルワース家って…まぁ、話は聞いたことはございますけど、そんな野心家でしたのね」
レイラの呟きに、そうか…?と三人は妙な顔をした。
言った張本人のレイラはそんな三人の顔を見て、つられたようにレイラも妙な顔をしてしまった。
「…え、なぁに皆さま。わたくしそんな妙なこと言いました?」
「野心家、っていうか…」
ねぇ、うん、とジュリエットもアマンダもリーリャも顔を見合わせている。
王太子妃に選ばれたい、そんな思いがあるからこそ、ミハエルを略奪しに行ったのではないのだろうか、とレイラは考えたのだが、三人の思いはどうやら違っているらしい。
「単にミハエル殿下がアリカ嬢の顔を気に入っただけですわよね、あの婚約破棄宣言って」
「え」
リーリャの言葉に、揃ってうん、と綺麗に頷くアマンダとジュリエット。ついでに言ったリーリャも頷いているのだが、侍女長もレイラも、控えていたメイドも何だか複雑そうな顔をしている。
「それって…」
「レイラお嬢様」
「殿下馬鹿じゃない」
「レイラお嬢様!」
めっ!と言わんばかりに侍女長がレイラを咎めている。
ついうっかり本音が出てしまったレイラだが、何せ幼い頃からミハエルのあれこれをフローリアから聞いて知っているだけに、本音は止められないというのが実際のところ。
フローリアのことは学園に入学してから知っているアマンダ、ジュリエット、リーリャは、ミハエルのやらかし具合を詳細に知らないため、レイラほどはっきりは言わない。確かに『馬鹿だなぁ』とは思っていたのは事実だったけれど。
メイドはレイラの発言を聞かなかったことにして、レイラの分も含めたお茶の用意を改めてしている。
そんな室内の様子は知らず、フローリアは真っ直ぐに正門に歩いて行っていたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お嬢様」
ひそ、と同行している騎士が小声で話しかけた。
「何」
「シェルワース家とは、何かご縁が」
「学園で同級生なだけよ」
「左様でございましたか」
「何かあったの?」
「先ほど、『ライラックとは親友なんだから!』とあちらの馬車に乗っているご令嬢が」
「…まぁ、下手くそな嘘ですこと」
こそこそと小声で話しつつ、シェルワース家の馬車まで歩いていく。
全身甲冑でつつまれており、体格も偽装しているのだから、恐らくフローリアだとは気付かないはずだ。
「ああ、やっと責任者がいらしたのね!いいこと、私を屋敷内に案内しないと叱られるのはそちらですからね!」
フン!と腕組みをしながら言い放ったアリカだが、相手はフローリア。
一切動じることなく、アリカの言葉に対してサラリと反応を返した。
「大変恐れ入りますが…本日お嬢様とお約束はされておりますでしょうか」
「へ?」
「お嬢様はお約束事、また、お時間に大変厳格でいらっしゃいます」
「…え」
そらそうだろうよ、とフローリアと並んでいる騎士と、正門を両サイドで守っている騎士は心の声が一致した。
王太子妃候補であったからには、王太子妃教育の時間に遅れてはならないのは勿論のこと、あちこちから招待されるお茶会がいつあるのか、夜会への正体も含めてスケジュール管理は必須項目として挙げられる。
だから、こんなに約束なしでやって来る人に対してはとてつもなくフローリアは厳しい対応を取るのは当たり前だ。
現に、アリカのことは『不審者』として取り扱うくらいには、厳しくしている。
「…お客様、お嬢様とのお約束はございますか」
淡々と問われ、ぐっとアリカは言葉に詰まる。
約束もしていない、友人でもない人がここまで押しかけて、迷惑でないと言う人なんかいないと、改めて理解してもらわないといけないのだから。
「(会いたくもない人には、早々にご退場願いたいわ)」
甲冑の中、フローリアはこっそりとため息を吐いた。
屋敷の周りをうろついている馬車がシェルワース家のものであれば、何の意図があるのだろうか、と思う。
レイラも含めて各々考え、フローリアがぽつ、と呟いた。
「…まさかとは思うけど、自分で王太子殿下の婚約者に新たになったのに、王太子妃教育が辛いとか言わないわよね…」
フローリア以外の面々は、いやそんなまさか!と言いかけて、ぴたりと止まった。
「…今から、王太子妃教育を…」
「貴族としての礼節をしっかり身に付けて成人間際の、今から…」
ジュリエットとアマンダが恐ろしいものを見つけてしまったかのように言い、リーリャもレイラも思わず互いの手を取ってひぇ、と妙な声を上げてしまった。
「今からとか無理!」
「基礎がある状態で別のものを新たに覚え直すのって…。しかも似て非なるもの…」
それを聞いた使用人たちも、うわ、という顔になる。
侍女長は慌てて近くにいたメイドに、屋敷周りの警戒を高めるよう伝えに言ってもらおうと指示を出したとき、シェリアスルーツ家騎士団の一人が走ってやってきた。
「ご歓談中、しつれいいたします!ライラック様、妙な馬車が当家を回っておりますがいかがなさいますか!」
背筋をびっ、と伸ばして報告した団員に、『まだいたの?!』とレイラが驚いた声を上げる。
フローリアは訝しげな顔になり、ゆっくりと立ち上がった。
「わたくしが対応いたします。アマンダ、ジュリエット、リーリャ、屋敷の中にいてちょうだい。レイラ、万が一の時は皆様をお守りして」
「分かったわ」
侍女長にフローリアが目配せをすると、侍女長は察してくれて『お嬢様がた、こちらに』と友人たちを屋敷内へと誘導してくれる。
友人に怪我ひとつさせたくない、とフローリアはぐっと拳を握った。だが、単に周回しているだけならば、少しだけ注意喚起をすれば良いか、と判断して魔装具を起動させた。
腕輪の形状から、フローリアの体全体を、一枚の布でぐるりと包み込むようにして覆い、しゅるりと巻きついたかと思えば、全身鎧を纏った姿へと変化した。頭の先から足の先まで、どこからどう見ても甲冑の騎士が出来上がった。
「…行こう」
「はっ!」
なお、魔装具の効果によりフローリアとは分からない男性の声へと変化もしている。
がしゃがしゃ、と音を立てながら歩いていくフローリアの後ろ姿を見た友人たちは、普段との歩き方の違いがあることに気付いた。
「…フローリアって、歩き方も変えられますの?」
「ええ、お父様の訓練のおかげで。ライラックとして表に出るときは……というか、ああやってよく分からない人への対応では、声も体格も魔装具で変えて対応していますわ。でも、今回はライラックとして対応、というよりは、『何かよくわからない人』への対応がメインでしょうね」
「大変ですわね、フローリアも…」
「お嬢様方、こちらへどうぞ」
話していると、侍女長がとある部屋へと全員を案内した。
先ほど四阿で堪能していたケーキ類も全て運び込まれて、仕事が早い!と喜んだのだが、侍女長がこいこいと皆を手招きしている。
「あら、なぁに?」
「ここから、フローリアお嬢様のご様子が確認できます」
「まぁ!」
うきうきとした様子でアマンダたちが窓のところへとやって来る。
「こちら、ちょうど当家の正門が見える位置にございまして」
「ナイス、侍女長」
レイラもにっこり笑って窓のところにやって来た。
シェリアスルーツ家の屋敷が広いため、まだフローリアが到着していないようだが、正門前に馬車が止まっているのは見えた。
「あれって…」
「シェルワース家の馬車じゃないの」
「本当に何しに来たのかしら」
「レイラ様、あの人ご存じ?」
「フローリアのお友達じゃない人は知りませんわ」
「すごい」
きっぱりと言い切ったレイラに、思わずリーリャは拍手をしてしまう。
「シェルワース家って…まぁ、話は聞いたことはございますけど、そんな野心家でしたのね」
レイラの呟きに、そうか…?と三人は妙な顔をした。
言った張本人のレイラはそんな三人の顔を見て、つられたようにレイラも妙な顔をしてしまった。
「…え、なぁに皆さま。わたくしそんな妙なこと言いました?」
「野心家、っていうか…」
ねぇ、うん、とジュリエットもアマンダもリーリャも顔を見合わせている。
王太子妃に選ばれたい、そんな思いがあるからこそ、ミハエルを略奪しに行ったのではないのだろうか、とレイラは考えたのだが、三人の思いはどうやら違っているらしい。
「単にミハエル殿下がアリカ嬢の顔を気に入っただけですわよね、あの婚約破棄宣言って」
「え」
リーリャの言葉に、揃ってうん、と綺麗に頷くアマンダとジュリエット。ついでに言ったリーリャも頷いているのだが、侍女長もレイラも、控えていたメイドも何だか複雑そうな顔をしている。
「それって…」
「レイラお嬢様」
「殿下馬鹿じゃない」
「レイラお嬢様!」
めっ!と言わんばかりに侍女長がレイラを咎めている。
ついうっかり本音が出てしまったレイラだが、何せ幼い頃からミハエルのあれこれをフローリアから聞いて知っているだけに、本音は止められないというのが実際のところ。
フローリアのことは学園に入学してから知っているアマンダ、ジュリエット、リーリャは、ミハエルのやらかし具合を詳細に知らないため、レイラほどはっきりは言わない。確かに『馬鹿だなぁ』とは思っていたのは事実だったけれど。
メイドはレイラの発言を聞かなかったことにして、レイラの分も含めたお茶の用意を改めてしている。
そんな室内の様子は知らず、フローリアは真っ直ぐに正門に歩いて行っていたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お嬢様」
ひそ、と同行している騎士が小声で話しかけた。
「何」
「シェルワース家とは、何かご縁が」
「学園で同級生なだけよ」
「左様でございましたか」
「何かあったの?」
「先ほど、『ライラックとは親友なんだから!』とあちらの馬車に乗っているご令嬢が」
「…まぁ、下手くそな嘘ですこと」
こそこそと小声で話しつつ、シェルワース家の馬車まで歩いていく。
全身甲冑でつつまれており、体格も偽装しているのだから、恐らくフローリアだとは気付かないはずだ。
「ああ、やっと責任者がいらしたのね!いいこと、私を屋敷内に案内しないと叱られるのはそちらですからね!」
フン!と腕組みをしながら言い放ったアリカだが、相手はフローリア。
一切動じることなく、アリカの言葉に対してサラリと反応を返した。
「大変恐れ入りますが…本日お嬢様とお約束はされておりますでしょうか」
「へ?」
「お嬢様はお約束事、また、お時間に大変厳格でいらっしゃいます」
「…え」
そらそうだろうよ、とフローリアと並んでいる騎士と、正門を両サイドで守っている騎士は心の声が一致した。
王太子妃候補であったからには、王太子妃教育の時間に遅れてはならないのは勿論のこと、あちこちから招待されるお茶会がいつあるのか、夜会への正体も含めてスケジュール管理は必須項目として挙げられる。
だから、こんなに約束なしでやって来る人に対してはとてつもなくフローリアは厳しい対応を取るのは当たり前だ。
現に、アリカのことは『不審者』として取り扱うくらいには、厳しくしている。
「…お客様、お嬢様とのお約束はございますか」
淡々と問われ、ぐっとアリカは言葉に詰まる。
約束もしていない、友人でもない人がここまで押しかけて、迷惑でないと言う人なんかいないと、改めて理解してもらわないといけないのだから。
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