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さんじゅーよん
しおりを挟む何事もなかったようにリオンは執務室を出ていき、リゼは一人頭を抱えていた。
「いやまぁ、何ていうの?別に気にしなかったらいいよね?何も求めてないって言ってたし!!」
独り言にしてはやけに大きい声で、リゼは今日一番長いため息をついた。何故だ、何故こうなってしまったのだ。リオンはノーマルだったはずだ。
昔、リオンが少し女遊びをしていたことをリゼは知っている。リオンに抱かれた女は可哀想なことに、その気もない彼に溺れ、失恋に身を焦がしていたという。
(そういえば女が骨抜きになったとか言ってたっけ)
リゼがいることに気が付いていたならば女たちもそんなはしたない話をしたりはしなかっただろうが。
護衛もそこそこに、リゼは執務室から出た。そこでまたゲンナリしそうになる。
「…ユリス」
「陛下!」
「……ユリス様、早く参りましょう?」
二人でどこか行くのか、ファリムは勝ち誇ったような笑みを向けてくる。
「どちらへ?」
「…ユリス様と二人で街を見て回るのです。なにか?」
「…へぇ」
ユリスこの野郎。こっちは仕事に恋愛にで悩んで頭を痛くしているのに、お前はソイツとデートですか。そうですか。
「ユリス様から誘ってくれたんですよ」
ニコニコと悪意しか感じない笑みのファリムに、それを否定しないユリス。もう面倒だ、と何かがプツリと切れた。
「そうですか。では、お気をつけて」
相手にするのも疲れるし、いちいち嫉妬したりするから悩みが増える。
(ていうか俺、本当になんでユリスに執着してたんだっけ…)
その時リゼに自覚は無かったが、極限まで疲れていた。そしてリゼの悪い癖である。疲労がピークに達すると、全てがどうでもよくなるのだ。そして取り返しのつかないことをやらかす。
正気に戻ったときに後悔するのだが、そんなこともリゼは忘れ、いつの間にか王妃宮へと足を踏み出していた。
王妃宮まで行ったものの、キャロルに会うことなく、リゼはまた執務室へと戻っていた。まだ仕事がたんまりと残っていることを思い出したからだが、執務室には何故かリオンがいた。
「帰ったのかと思った」
「仕事がまだ残ってるんで。書類を部署に届けただけですよ」
「そう」
リオンは何か言いかけたけれど、言葉を止める。リゼもいつもなら突っ込まないのに、その時ばかりは聞いてしまった。
「なに?言いたいことあるならちゃんと言えよ」
「…生意気になったものだ」
「元からですけどね」
するとリオンは遠慮がちに切り出した。
「さっき、皇太子と話していたけど」
「…見てたのか」
「……行かせて良かったのか?」
「いいんじゃねぇの。俺に聞くな」
淡々と返して凄まじいスピードで判子を押し続けるリゼに苦笑しながら、リオンは立ち上がった。
「少し休んだらどうだ?」
「…まだやれる」
「疲れているだろう」
疲れる?このくらいで?
俺は国王なんだから、このくらいで疲れたりしない。俺はもっと完璧に、もっとちゃんと、仕事も、もっともっと頑張らないと。努力しないと、存在する意味がない。誰にも認めてもらえない。もっと頑張らないと、大切なものを守れない。
けれど大切なものが何なのか、もう分からない。我慢して、我慢して、それでもまだ我慢して。疲れてもやることはまだまだ残っていて。
「じゃあどうすればいいんだよ!!!」
問題は増え続ける一方で、自分のことまで臣下に口を出されて。
子供の問題も、側室の問題も、飢饉の問題も、領地の問題も、貴族のいざこざも、全部。
「何も望んで、王家に生まれた訳じゃないっ…!」
それでもやっぱり王になると決めたのは自分で。
じゃあ俺はどうすれば良かった。ただ自分を見て欲しかった。忘れてほしくなかった。ユリスを、人を、他人を、こんなに好きになったのは初めてで。
「守りたいものも分からない、分かっていても何も守れやしない、自分だって、そうだ」
いつ殺されるかも分からない恐怖に怯えながら、もう長い間ちゃんと眠れない。
「俺は一人じゃ何もできない…!」
自分がこれほど無力だったなんて、知らなかった。だって、だって。
「俺は、父上に守られて、今こうして生きてるんだ…」
「…陛下の死はリゼのせいじゃない」
「違う、俺のせいだ」
先代の国王の死の真相を知っているのは、リゼと、ほんの一握りの重臣たちだけだ。
「俺は、父上に守られて、重臣に守られて、一人じゃ何もできない」
「そんなことはない。リゼは立派に…」
「全部俺が悪いんだ…」
この国の歴史書に、先代の国王の死は[病死]てあると記録された。けれど本当は違う。
リゼを守ろうとして、代わりに刺客に殺されたのだ。
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